ドリーム小説
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
++第1話++ ダメ教師VSスーパー中学生 ③
次の日、いつも通り秀と登校して、いつもより早く教室に着いた。
教室に着いてからは秀は机に向かって何か書いてる、
アタシは女友達とくだらない話で盛り上がる、それがいつも通りだ。
だけど…
「統廃合決まったって!!!」
いないと思っていた沙莉がすごい勢いで教室に入ってきた。
しかも第一言目が統廃合の決定を告げるものだった。
その言葉をして一瞬にクラスが炎上した。
マヂで、ホントかよ、えー…、などと言った言葉が無数に交わされた。
アタシと秀は言葉が出なかった。
それからが大変だった。
廊下に出ればどこのクラスも統廃合決定の話で持ちきり。
挨拶をしても自分の就職先のことで忙しく挨拶を返さない教師も出る、
生徒がケガをしてもすぐに保健室行きにし、生徒がいるにも関わらず職員室でギャンブル。
終いには校内での煙草のポイ捨て、非常ボタンを必要以上に押したり、
ボールで割られたガラスも全員が見て見ぬふり。
もう校内の人間全てが諦めている状態だった。
どうせなくなる学校、今どんなに飾ったって無駄、教師も生徒もみんなだ。
こうしてアタシ達の学校は荒んでいった。
そしてついには、壁に油性ペンでの落書き。
しかもそれは全てこの学校や教師を誹謗、中傷したものばかり。
アタシはそれを必死で消そうとしている杉先生を、何度見つめたことか。
時は過ぎ、夏服の季節へと移り変わった。
そして、この学校の雰囲気も最悪へと移り変わった。
現に今は授業中、壁には落書きだらけ、授業中なのにも関わらず遊びまくっている。
『ちょ、沢渡もちょっと、こっち寄って』
「おー、悪い」
沢渡、楠本、美濃部は紙飛行機なんて、ちっとも楽しくないであろうに一生懸命作っている。
外へ飛ばした紙飛行機は一体幾つになるのか…。
「じゃあこの問題をー…美濃部くん」
「わかりませーん」
杉先生の方も見ず、紙飛行機に夢中らしい。
「じゃあ沢渡くんは」
「聞いてませんでしたあ」
「…そう、……じゃあ、大崎さん」
「はい、」
ほら、思った通りじゃん。
【――――この声もいずれ聞けなくなるなぁ。】
始業式の日に聞いた挨拶、あんな挨拶は最近一切聞いていない。
やっぱり、杉先生みたいな先生はこの学校に来ちゃいけなかったんだよ。
ここにいる教師は全員…終わってる。
杉先生はもっと明るい素直な生徒達と爽やかな挨拶を交わしてさ…、
そーいう教師生活を送るべきだったよ。
問題を解きに行こうと黒板へ向かった沙莉にチョークを渡す。
その笑顔は本当に疲れ切っていた。
アタシはもう、授業なんて受けてられなかった。
『沢渡、もうちょっと、静かにできる?』
「え、あー…気をつけるわ」
「静かにしろよっ!!!」
秀が堪え切れなくなったのか、叫んだ。
「……授業中だろ」
その時の3人の冷たい視線、今でも忘れらんない。
移動教室だ。いつもは最後まで教室に残り、
そのままサボることの多い3人が珍しく1番に教室を出た。
アタシは沙莉達と移動する。
廊下に出ると、3人が狭い廊下の両壁に寄っかかり、ボールをパスし合っていた。
だけど、人が通る度にパスをやめていたから、ただ遊んでるだけだと思っていた。
後で秀に聞いてみたら、「俺の時はぶつけられたよ、…別にモメてないけどね」って
苦笑気味で答えてくれた。
時が過ぎるのも早いもので、もうブレザーを着る季節だ。
そしてついにはまともに授業を受けるのはクラスの半分ほどになった。
ついには最終的に教室に残ったのは秀とアタシだけ。
でも、アタシはとうの昔に授業放棄…なんて程じゃないけど、授業を受けている気はない。
ただ自分の席に座ってるだけ、教科書もノートも片付けている。
「先生…」
秀は黒板をキレイにしている先生の背中にポツリと話しかけた。
「……ん」
と小さく返事を返してきただけだった。
黒板の文字は全て消え、杉先生が秀の元に歩み寄った。
何か、安心できるような言葉をかけてくれるのか…期待したアタシがバカだった。
「…じゃぁ」
疲れた笑顔をわざとらしく秀に見せつけ、教室を後にした。
先生が通り過ぎたすぐあと、勢いよく先生の背中を追う秀に涙がこぼれそうになった。
『秀……帰ろう?』
「…うん」
ゴミだらけの生徒玄関で靴を履きかえ、外に出ようとした時だった。
「なぁ」
多分…アタシ達に話しかけてるんだと思う。
振り返るとそこには美濃部の姿があった。
「杉先生が呼んでるよ」
いかにも遣われてダルそうな雰囲気を醸し出して、秀を呼んだ。
「橘も一緒にいるだろうけど、コイツだけって言われてんだ…悪いな」
『いいよ、うん、待ってる』
「ごめん」
そう言って秀は美濃部の後をついていった。
初めは本当に呼ばれたもんだと思って、校舎の外で待っていた。
美濃部…、美濃部がそんな教師に遣われるような奴か?
アタシは不安になって校舎の中に戻ることにした。
薄暗い校舎…きっと中には教師しかいないんじゃないか。
職員室に寄ってから探そうかと思ったけど、やっぱりいない気がした。
まず教室、そしていつもの階段の踊り場…色々探したけどいなかった。
やっぱり普通に呼ばれただけなのかな、って職員室の方へ向かおうとした時だった。
『え、』
廊下の角を曲がって行く、あの3人組を見た。
沢渡たちじゃない、あの、謎の3人組。
だいぶ前にここの制服を着ている姿を校内でチラッと見ただけで、
それ以降一切見ていなかったのに、なぜ突然急に今日?
アタシは後をつけるなんて、ちょっと気が引けたけど…追ってみることにした。
2人がトイレに入って行った、背の低い子と高い子だ。
トイレ…?ここまで来てトイレ?…何か深い意味がありそう…。
その少し後にセンター分けの男の子が入って行った。
なんなんだろう…話し声が聞こえる。
少し近寄って見た…秀の声がする…!!!
「そこの君、今ぐらい入っても罰は当たらないんじゃないか」
そこの君って…アタシかな。
『し、失礼します』
生まれて初めて入る男子トイレ…そこで見たのは…『秀…?!』
床には秀のものであろう教科書やノート筆記用具が散らばっていた。
そしてもっと驚いたのが、頭からつま先まで制服までもがびしょ濡れな久坂秀三郎がいたことだ。
『ちょ、ちょっと大丈夫?!』
「ま、まぁ…」
タオルで秀の頭を背伸びしながら拭いていると、突然しゃべりかけられた。
「職員室って、どこ?」
『アタシが案内するから、秀は拭いてて!!』
アタシは既にハンカチを持っているのを知ってたのにも関わらずタオルを押しつけた。
そして、センター分けの男の子の腕を掴んでトイレを出た。
「なっ…」
とアタシが突然引っ張ったのに驚いたのか声を漏らしていたのには気付いていたけど、
アタシは職員室の場所を教えた。
「悪いな」
「ありがとう」
「助かったよ」
各3人に言われ、並んで職員室まで向かって行った。
アタシはちょっと気になり、少し後をつけてみることに。
秀は風邪をひかないように、とりあえず拭くように命じてきた。
職員室までの廊下を音も立てずに揃って歩き、吸い込まれるように職員室まで辿り着いた。
無許可で職員室へと堂々と入って行く3人。
「僭越ですが!!!」
センター分けの男の子が叫ぶ。
教師は全員3人に釘付けだ。
「杉先生、いらっしゃいますか?」
杉先生は3人にゆっくりと近づいた。
すると杉先生にアタシの存在が気付かれたみたいだ。
「なんでここにいるの」というような顔で一瞬見たが、すぐに視線が3人に戻った。
「あの…僕だけど、君達は」
「転校生です」
「…転校生!?」
「そう…この学校のダメ教師をぶった斬りに参りましたっ」
怪しげな笑みを浮かべて、すぐに睨みつけた。
「…は?」
それだけ言って出てきた3人。
「あれっ、君、いたの」
「じゃぁ、全部聞かれてたってわけか」
「今のことは、秘密にしてくれたら嬉しいなっ」
『秘密…?』
「ぶった斬るのくだり、ね」
『あ、…はい』
「早く行きなよ、あの人…待ってるんじゃない?」
そう言ってまた3人で並んで音も立てずに歩いて行った。
『なんなんだ……あ、秀っ!!!』
その後はアタシと秀で回収作業をして、家に帰って、制服乾かして…。
一応親には転んで水カブったってことにするよ、て笑いながら言った秀が切なかった。
次の日。やはり本気で転校してきた
。しかも、アタシ達のクラス…2年B組に、3人とも全員。
「転校生を紹介します」
「高杉です」…センター分けの茶髪の子だ。
「吉田です」…サラサラヘアーで3人の中では背が低めな。
「入江です」…髪がところどころハネていて、3人の中でも背は高い。
ベタな自己紹介を済ませ、沈黙が流れた。
「後の方に適当に座って」
3人は従って後ろへと歩いて行った。
アタシの隣から順に入江くん、吉田くん、高杉くんの位置だ。
「えー…今朝の伝達事項は統一テストについて。
来週行われる全国統一テストなんですが…うちの学校は、参加しないことになりました」
「はぁ?!」
驚いてる人や、喜んでいる人、それぞれだった。
「なんで参加しないんですか?」
「さあ?理由は聞いてないけど」
クラス中が一瞬にしてどよめきの渦へと変わった。
杉先生はそれを止めようともしない。
本当に変わってしまった。
「全国統一テストとは、生徒の学力の状況を把握するために、
全国の中学校を対象にした学力テストのコト」高杉くんが話しだした。
「そしてそれは学校を評価する判断基準の1つにもなっている」…入江くんだ。
「それを受けないでいいという理由は…廃校になるこの学校を評価しても、
仕方がないから…ということになるよね」…吉田くん、鋭い。
「つまり…この八中はもはや存在する価値もない」追い打ちをかけるか。
さすがにそれは言い過ぎなんじゃないのか。
この中には転校初日に何言いだしてるって、イラついてる人もいるだろうに。
一体何をしたいの。
「それじゃあ僕達生徒も…存在する価値がないってことですか…?
そんなのおかしいじゃないですか!!先生はっ!!…それでいいんですか?」
カンと音をたてて机を叩いた沢渡。
「いい格好してんじゃねえーよっ!!!!」
「ちょっとちょっと!!…もう決まったことだから、しょうがないよ」
『先生…変わりましたね。春の頃だったら【しょうがない】なんて言葉、
絶対使わないと思ってたのに…、ビックリです』
「……ごめんな」
そう残して杉先生は教室を出て行った。
あの頃の杉井虎之助先生はもう、どこにも居なかった。
秀は感極まって先生を追いかけた。
自分の席に座っていても、先生と秀の会話が聞こえる。
「先生っ!!!……先生、最近おかしいよ?!…先生っ!!」
「ごめん、わかってるんだ。でも……もうほっといてよ!!俺にも色々あるんだよっ…」
アタシは先生のいい加減さに腹が立ち、イスをガンッと引いて教室の外へ出る。
『杉先生っ!!』
「…」
『なんなんですか!!色々ってなんですか!!おかしいこと分かってるんなら、改善してくださいよ!!』
「ちょ、梓紗」
『先生がそんなコト言う人だなんて信じられません、信じたくないです!!!』
「橘…うん、ごめんな」
秀に抑えられながら、先生に怒鳴った。
春に期待できるかも、なんて少しでも思ったアタシが本当に恥ずかしい。
『先生は流されない人だと思っていました』
「ごめんな」
そう言って見たこともない笑顔を見せたかと思うと、歩き始めてしまった。
「杉先生」
入江くんの声がして振り返ると、そこには高杉くん吉田くん入江くんが居た。
またいつものポジションで3人が歩いてきた。
その時アタシは不覚にも思ってしまった、かっこいい、と。
「僭越ですが……放課後僕達に付き合ってもらえますか」
高杉くんの冷たい視線が刺さった。
放課後、アタシと秀もついて行くことになった。
3人の後姿をついて行って、たどり着いたのは大きな道場。
でも、中には誰一人としていなかった。
アタシ、秀、高杉くんに吉田くん、入江くん、そして…杉先生の6人だ。
しばらく待たされたかと思うと、高杉くんと杉先生が道着のようなものを着て入ってきた。
「座って」と高杉くんに指示されてその場に正座する杉先生。
その真正面の少し離れた辺りに高杉くんが座った。
「竹刀です」そう言って竹刀を杉先生に渡す。
…剣道か?
「…ここどこ、君と剣道する意味が分からないんだけど」
「わかりませんか、とことんダメな教師ですね」
空気が少し凍った。
でも、アタシは間違っていないと思う。
きっと…生徒と本気でぶつかれっ、ていう意味じゃないのかな。
「君ねぇ!!それは先生に向かってそれは失れ…」
そこまで先生がしゃべっていたかと思うと、高杉くんは突然竹刀を持ち立ち上がり、
杉先生の肩に一発入れた。
「うわぁ…!!ちょっと!!!」
驚いた杉先生は、崩れた体勢で呆然としている。
「試合開始です…面をつけてください」
高杉くんが静かに言った。
秀も驚きを隠せない様子だ。
アタシは…高杉くんと立場を入れ替えてほしい程の気持ちだ。
「君達…いったい何なの?さっきから転校生だと思って…」
バシッと音を立てて、高杉くんがまた一本取る。
「ちょっと!!!!」
「悔しいですか?悔しいなら打ち返して下さいよ」
「だから君と剣道する意味が分からない…っ」
立ちあがろうとしていた杉先生にまた一本。
今回のは強烈だったらしい…体勢を崩し、その場に仰向けに倒れこんでしまった。
「先生…やる気あんの」
優しそうな入江くんの一言…アタシもそう思う。
倒れた先生の首元に竹刀を向けていた高杉くんが入江くんの言葉で引いた。
そして先生を見下している高杉くんが口を開いた。
「何故打ち返してこないんですか?」
そう言って傍にあった先生に差し出した竹刀を転がして先生の手元に持って行く。
手に当たった竹刀を寝ころびながら見つめる杉先生。
だけど、はねかえって遠くへ転がって行ってしまった。
「打ち返せる訳ないでしょ…子供相手に本気になんてなれないよ」
弱々しい声で絞り出すように言った言葉がそれか。
【子供相手に本気になんてなれない】…か。
「それがあなたの本音ですか」
「そういう意味じゃなくて」
「子供相手に本気になれない…」
「だからそういう意味じゃない!!!!!」
「だったら、見せてくださいよ…僕に本気を。…あなたの本気を見せてください」
高杉くんがかまえる。
言い終わったかと思うとすぐに寝転んでいる杉先生へと振り下ろす。
先生は反射で動いたのか、転がってしまった竹刀を手に取り、
高杉くんの攻撃に対して防御を始めた。
お互い手は抜いていないように見えた。
寝ころんだままの杉先生に高杉くんが力を加えて押している。
先生の顔に竹刀があと何mmのところで高杉くんは先生を引き上げた。
そして立ち上がった2人の本格的な剣道が始まった…とはいっても打っているのは高杉くんだけ。
杉先生は頭の上で竹刀をかまえたまま、何もしようとしない。
高杉くんは頭にきたのか、両手でかまえていた杉先生の竹刀目掛けて振り下ろした。
そして杉先生はまた体勢を崩し、寝ころんだ体勢に。
『先生…、本気で、やんなよ』
ボソと呟いたのが集中している高杉くんが気に触ったのか、アタシをキッと見てきた。
隣にいた吉田くんが、大丈夫だよ、と言わんばかりに腕をポンと叩いてくれた。
かしゃん、と音をたてて先生の首元をついた竹刀。
それを見た秀は我慢しきれなくなったのか、
「もういいだろ!!」…飛び出していった。
「なぜですか」
「先生、死んじゃうよ!」
「…死ねばいい」
「は!?」『は?!』
死ねばいい?!…そんなのって、言いすぎなんじゃ。
「志を失ったものはもはや抜け殻です。抜け殻に教師を名乗る資格はありません」
『…そう、だね』
アタシは納得してしまう。
この3人の言動にはどうにも納得してしまうことが多い。
「ひどいなあ……君は」
息の切れた小さな声で杉先生は呟いた。
「あなたは理想を持ってあの学校にやってきたんじゃなかったんですか」
「頑張れば夢は叶う、って」
アタシは涙が出そうだった。
【遅れてきた新人!!】…そう言って秀を励ましてくれた先生を思い出した。
何回試験や大学を落ちたって、逃げ出さなくて良かった…って言葉。
秀と抱き合って泣いてた先生…思い出した。
「理想だけじゃやっていけないんだよ、現実見なきゃ」
…大人の決まり文句。
向けられている竹刀をどけて、体勢を整えた。
「それが大人なんだ」
「…廃校が決まったから…だから、生徒に統一テストを受けさせない。
大人の理屈ってやつですねぇ」
「そうそう、ただ逃げてるだけじゃん?」
「残された生徒達はどうするんですか?あの学校を選んだ生徒達はどうなるんですか」
「先生を信じてる生徒もいる…」
その入江くんの言葉を聞いて、杉先生はアタシと秀の方を向いた。
「それでもあなたは逃げ出すんですか」
杉先生はじーっと秀を見つめていた
。秀も先生を見つめていて…でも先に逸らしたのは、先生だった。
「俺は教師になりたかったんだ…あの学校に拘ってるわけじゃない」
杉先生は立ち上がって、足を引きずりながら歩き始めた。
秀は下を向いてしまった。
『しゅ、』
「彼や彼女を裏切る気ですか」
「教師のくせに、……ダメ教師!!!」
「…ダメ教師」
「ダメ教師」
『杉先生』
「…悔しいですか?悔しいですよねえ?」
その言葉に杉先生は振り返った。
「悔しいならほら…打ってこいやぁぁああっ!!!!」
「高杉ぃぃいいいいっ!!!!」
お互いが本気になって打ち合っていた。
やっと先生が本気になった。
生徒と本気になるまでにここまで挑発されないとできない、か。
と、高杉くんの頭の先まで竹刀を振りおろした。
…が、打つことはできなかった。
やっぱり、心のどこかでは本気じゃなかったんだ。
高杉くんはゆっくりと竹刀を下ろし、杉先生を見つめ…一言投げた。
「…無様だ」
高杉くんは道場を出ようと歩いた、その後ろに吉田くんと入江くんが続く。
ここまでが彼らの計算だったんだ。
残されたアタシ達3人。
しばらくかまえたまま固まっていた杉先生が無言で同情を出て行った。
その背中は春に見た時よりも何倍も小さく、力気がなかった。
先生が出て行った瞬間、緊張感から解放されたアタシはぐちゃっと床に崩れ落ちた。
そして涙が止まらなかった。
あの3人は正しかった…すべてが。
アタシも同じことを心のどこかで思っていたのかもしれない…。
ダメ教師なんて…そんな風には思ってないけど…
心のどこかではもしかしたら、それと似たような感情を抱き始めてたのかもしれない…。
秀が1番辛いはずなのに、声を出さずに泣き崩れたアタシを優しく撫でてくれた。
「梓紗…、梓紗、頑張ったよ」
秀の声は少し震えていたように聞こえた。
*end*
教室に着いてからは秀は机に向かって何か書いてる、
アタシは女友達とくだらない話で盛り上がる、それがいつも通りだ。
だけど…
「統廃合決まったって!!!」
いないと思っていた沙莉がすごい勢いで教室に入ってきた。
しかも第一言目が統廃合の決定を告げるものだった。
その言葉をして一瞬にクラスが炎上した。
マヂで、ホントかよ、えー…、などと言った言葉が無数に交わされた。
アタシと秀は言葉が出なかった。
それからが大変だった。
廊下に出ればどこのクラスも統廃合決定の話で持ちきり。
挨拶をしても自分の就職先のことで忙しく挨拶を返さない教師も出る、
生徒がケガをしてもすぐに保健室行きにし、生徒がいるにも関わらず職員室でギャンブル。
終いには校内での煙草のポイ捨て、非常ボタンを必要以上に押したり、
ボールで割られたガラスも全員が見て見ぬふり。
もう校内の人間全てが諦めている状態だった。
どうせなくなる学校、今どんなに飾ったって無駄、教師も生徒もみんなだ。
こうしてアタシ達の学校は荒んでいった。
そしてついには、壁に油性ペンでの落書き。
しかもそれは全てこの学校や教師を誹謗、中傷したものばかり。
アタシはそれを必死で消そうとしている杉先生を、何度見つめたことか。
時は過ぎ、夏服の季節へと移り変わった。
そして、この学校の雰囲気も最悪へと移り変わった。
現に今は授業中、壁には落書きだらけ、授業中なのにも関わらず遊びまくっている。
『ちょ、沢渡もちょっと、こっち寄って』
「おー、悪い」
沢渡、楠本、美濃部は紙飛行機なんて、ちっとも楽しくないであろうに一生懸命作っている。
外へ飛ばした紙飛行機は一体幾つになるのか…。
「じゃあこの問題をー…美濃部くん」
「わかりませーん」
杉先生の方も見ず、紙飛行機に夢中らしい。
「じゃあ沢渡くんは」
「聞いてませんでしたあ」
「…そう、……じゃあ、大崎さん」
「はい、」
ほら、思った通りじゃん。
【――――この声もいずれ聞けなくなるなぁ。】
始業式の日に聞いた挨拶、あんな挨拶は最近一切聞いていない。
やっぱり、杉先生みたいな先生はこの学校に来ちゃいけなかったんだよ。
ここにいる教師は全員…終わってる。
杉先生はもっと明るい素直な生徒達と爽やかな挨拶を交わしてさ…、
そーいう教師生活を送るべきだったよ。
問題を解きに行こうと黒板へ向かった沙莉にチョークを渡す。
その笑顔は本当に疲れ切っていた。
アタシはもう、授業なんて受けてられなかった。
『沢渡、もうちょっと、静かにできる?』
「え、あー…気をつけるわ」
「静かにしろよっ!!!」
秀が堪え切れなくなったのか、叫んだ。
「……授業中だろ」
その時の3人の冷たい視線、今でも忘れらんない。
移動教室だ。いつもは最後まで教室に残り、
そのままサボることの多い3人が珍しく1番に教室を出た。
アタシは沙莉達と移動する。
廊下に出ると、3人が狭い廊下の両壁に寄っかかり、ボールをパスし合っていた。
だけど、人が通る度にパスをやめていたから、ただ遊んでるだけだと思っていた。
後で秀に聞いてみたら、「俺の時はぶつけられたよ、…別にモメてないけどね」って
苦笑気味で答えてくれた。
時が過ぎるのも早いもので、もうブレザーを着る季節だ。
そしてついにはまともに授業を受けるのはクラスの半分ほどになった。
ついには最終的に教室に残ったのは秀とアタシだけ。
でも、アタシはとうの昔に授業放棄…なんて程じゃないけど、授業を受けている気はない。
ただ自分の席に座ってるだけ、教科書もノートも片付けている。
「先生…」
秀は黒板をキレイにしている先生の背中にポツリと話しかけた。
「……ん」
と小さく返事を返してきただけだった。
黒板の文字は全て消え、杉先生が秀の元に歩み寄った。
何か、安心できるような言葉をかけてくれるのか…期待したアタシがバカだった。
「…じゃぁ」
疲れた笑顔をわざとらしく秀に見せつけ、教室を後にした。
先生が通り過ぎたすぐあと、勢いよく先生の背中を追う秀に涙がこぼれそうになった。
『秀……帰ろう?』
「…うん」
ゴミだらけの生徒玄関で靴を履きかえ、外に出ようとした時だった。
「なぁ」
多分…アタシ達に話しかけてるんだと思う。
振り返るとそこには美濃部の姿があった。
「杉先生が呼んでるよ」
いかにも遣われてダルそうな雰囲気を醸し出して、秀を呼んだ。
「橘も一緒にいるだろうけど、コイツだけって言われてんだ…悪いな」
『いいよ、うん、待ってる』
「ごめん」
そう言って秀は美濃部の後をついていった。
初めは本当に呼ばれたもんだと思って、校舎の外で待っていた。
美濃部…、美濃部がそんな教師に遣われるような奴か?
アタシは不安になって校舎の中に戻ることにした。
薄暗い校舎…きっと中には教師しかいないんじゃないか。
職員室に寄ってから探そうかと思ったけど、やっぱりいない気がした。
まず教室、そしていつもの階段の踊り場…色々探したけどいなかった。
やっぱり普通に呼ばれただけなのかな、って職員室の方へ向かおうとした時だった。
『え、』
廊下の角を曲がって行く、あの3人組を見た。
沢渡たちじゃない、あの、謎の3人組。
だいぶ前にここの制服を着ている姿を校内でチラッと見ただけで、
それ以降一切見ていなかったのに、なぜ突然急に今日?
アタシは後をつけるなんて、ちょっと気が引けたけど…追ってみることにした。
2人がトイレに入って行った、背の低い子と高い子だ。
トイレ…?ここまで来てトイレ?…何か深い意味がありそう…。
その少し後にセンター分けの男の子が入って行った。
なんなんだろう…話し声が聞こえる。
少し近寄って見た…秀の声がする…!!!
「そこの君、今ぐらい入っても罰は当たらないんじゃないか」
そこの君って…アタシかな。
『し、失礼します』
生まれて初めて入る男子トイレ…そこで見たのは…『秀…?!』
床には秀のものであろう教科書やノート筆記用具が散らばっていた。
そしてもっと驚いたのが、頭からつま先まで制服までもがびしょ濡れな久坂秀三郎がいたことだ。
『ちょ、ちょっと大丈夫?!』
「ま、まぁ…」
タオルで秀の頭を背伸びしながら拭いていると、突然しゃべりかけられた。
「職員室って、どこ?」
『アタシが案内するから、秀は拭いてて!!』
アタシは既にハンカチを持っているのを知ってたのにも関わらずタオルを押しつけた。
そして、センター分けの男の子の腕を掴んでトイレを出た。
「なっ…」
とアタシが突然引っ張ったのに驚いたのか声を漏らしていたのには気付いていたけど、
アタシは職員室の場所を教えた。
「悪いな」
「ありがとう」
「助かったよ」
各3人に言われ、並んで職員室まで向かって行った。
アタシはちょっと気になり、少し後をつけてみることに。
秀は風邪をひかないように、とりあえず拭くように命じてきた。
職員室までの廊下を音も立てずに揃って歩き、吸い込まれるように職員室まで辿り着いた。
無許可で職員室へと堂々と入って行く3人。
「僭越ですが!!!」
センター分けの男の子が叫ぶ。
教師は全員3人に釘付けだ。
「杉先生、いらっしゃいますか?」
杉先生は3人にゆっくりと近づいた。
すると杉先生にアタシの存在が気付かれたみたいだ。
「なんでここにいるの」というような顔で一瞬見たが、すぐに視線が3人に戻った。
「あの…僕だけど、君達は」
「転校生です」
「…転校生!?」
「そう…この学校のダメ教師をぶった斬りに参りましたっ」
怪しげな笑みを浮かべて、すぐに睨みつけた。
「…は?」
それだけ言って出てきた3人。
「あれっ、君、いたの」
「じゃぁ、全部聞かれてたってわけか」
「今のことは、秘密にしてくれたら嬉しいなっ」
『秘密…?』
「ぶった斬るのくだり、ね」
『あ、…はい』
「早く行きなよ、あの人…待ってるんじゃない?」
そう言ってまた3人で並んで音も立てずに歩いて行った。
『なんなんだ……あ、秀っ!!!』
その後はアタシと秀で回収作業をして、家に帰って、制服乾かして…。
一応親には転んで水カブったってことにするよ、て笑いながら言った秀が切なかった。
次の日。やはり本気で転校してきた
。しかも、アタシ達のクラス…2年B組に、3人とも全員。
「転校生を紹介します」
「高杉です」…センター分けの茶髪の子だ。
「吉田です」…サラサラヘアーで3人の中では背が低めな。
「入江です」…髪がところどころハネていて、3人の中でも背は高い。
ベタな自己紹介を済ませ、沈黙が流れた。
「後の方に適当に座って」
3人は従って後ろへと歩いて行った。
アタシの隣から順に入江くん、吉田くん、高杉くんの位置だ。
「えー…今朝の伝達事項は統一テストについて。
来週行われる全国統一テストなんですが…うちの学校は、参加しないことになりました」
「はぁ?!」
驚いてる人や、喜んでいる人、それぞれだった。
「なんで参加しないんですか?」
「さあ?理由は聞いてないけど」
クラス中が一瞬にしてどよめきの渦へと変わった。
杉先生はそれを止めようともしない。
本当に変わってしまった。
「全国統一テストとは、生徒の学力の状況を把握するために、
全国の中学校を対象にした学力テストのコト」高杉くんが話しだした。
「そしてそれは学校を評価する判断基準の1つにもなっている」…入江くんだ。
「それを受けないでいいという理由は…廃校になるこの学校を評価しても、
仕方がないから…ということになるよね」…吉田くん、鋭い。
「つまり…この八中はもはや存在する価値もない」追い打ちをかけるか。
さすがにそれは言い過ぎなんじゃないのか。
この中には転校初日に何言いだしてるって、イラついてる人もいるだろうに。
一体何をしたいの。
「それじゃあ僕達生徒も…存在する価値がないってことですか…?
そんなのおかしいじゃないですか!!先生はっ!!…それでいいんですか?」
カンと音をたてて机を叩いた沢渡。
「いい格好してんじゃねえーよっ!!!!」
「ちょっとちょっと!!…もう決まったことだから、しょうがないよ」
『先生…変わりましたね。春の頃だったら【しょうがない】なんて言葉、
絶対使わないと思ってたのに…、ビックリです』
「……ごめんな」
そう残して杉先生は教室を出て行った。
あの頃の杉井虎之助先生はもう、どこにも居なかった。
秀は感極まって先生を追いかけた。
自分の席に座っていても、先生と秀の会話が聞こえる。
「先生っ!!!……先生、最近おかしいよ?!…先生っ!!」
「ごめん、わかってるんだ。でも……もうほっといてよ!!俺にも色々あるんだよっ…」
アタシは先生のいい加減さに腹が立ち、イスをガンッと引いて教室の外へ出る。
『杉先生っ!!』
「…」
『なんなんですか!!色々ってなんですか!!おかしいこと分かってるんなら、改善してくださいよ!!』
「ちょ、梓紗」
『先生がそんなコト言う人だなんて信じられません、信じたくないです!!!』
「橘…うん、ごめんな」
秀に抑えられながら、先生に怒鳴った。
春に期待できるかも、なんて少しでも思ったアタシが本当に恥ずかしい。
『先生は流されない人だと思っていました』
「ごめんな」
そう言って見たこともない笑顔を見せたかと思うと、歩き始めてしまった。
「杉先生」
入江くんの声がして振り返ると、そこには高杉くん吉田くん入江くんが居た。
またいつものポジションで3人が歩いてきた。
その時アタシは不覚にも思ってしまった、かっこいい、と。
「僭越ですが……放課後僕達に付き合ってもらえますか」
高杉くんの冷たい視線が刺さった。
放課後、アタシと秀もついて行くことになった。
3人の後姿をついて行って、たどり着いたのは大きな道場。
でも、中には誰一人としていなかった。
アタシ、秀、高杉くんに吉田くん、入江くん、そして…杉先生の6人だ。
しばらく待たされたかと思うと、高杉くんと杉先生が道着のようなものを着て入ってきた。
「座って」と高杉くんに指示されてその場に正座する杉先生。
その真正面の少し離れた辺りに高杉くんが座った。
「竹刀です」そう言って竹刀を杉先生に渡す。
…剣道か?
「…ここどこ、君と剣道する意味が分からないんだけど」
「わかりませんか、とことんダメな教師ですね」
空気が少し凍った。
でも、アタシは間違っていないと思う。
きっと…生徒と本気でぶつかれっ、ていう意味じゃないのかな。
「君ねぇ!!それは先生に向かってそれは失れ…」
そこまで先生がしゃべっていたかと思うと、高杉くんは突然竹刀を持ち立ち上がり、
杉先生の肩に一発入れた。
「うわぁ…!!ちょっと!!!」
驚いた杉先生は、崩れた体勢で呆然としている。
「試合開始です…面をつけてください」
高杉くんが静かに言った。
秀も驚きを隠せない様子だ。
アタシは…高杉くんと立場を入れ替えてほしい程の気持ちだ。
「君達…いったい何なの?さっきから転校生だと思って…」
バシッと音を立てて、高杉くんがまた一本取る。
「ちょっと!!!!」
「悔しいですか?悔しいなら打ち返して下さいよ」
「だから君と剣道する意味が分からない…っ」
立ちあがろうとしていた杉先生にまた一本。
今回のは強烈だったらしい…体勢を崩し、その場に仰向けに倒れこんでしまった。
「先生…やる気あんの」
優しそうな入江くんの一言…アタシもそう思う。
倒れた先生の首元に竹刀を向けていた高杉くんが入江くんの言葉で引いた。
そして先生を見下している高杉くんが口を開いた。
「何故打ち返してこないんですか?」
そう言って傍にあった先生に差し出した竹刀を転がして先生の手元に持って行く。
手に当たった竹刀を寝ころびながら見つめる杉先生。
だけど、はねかえって遠くへ転がって行ってしまった。
「打ち返せる訳ないでしょ…子供相手に本気になんてなれないよ」
弱々しい声で絞り出すように言った言葉がそれか。
【子供相手に本気になんてなれない】…か。
「それがあなたの本音ですか」
「そういう意味じゃなくて」
「子供相手に本気になれない…」
「だからそういう意味じゃない!!!!!」
「だったら、見せてくださいよ…僕に本気を。…あなたの本気を見せてください」
高杉くんがかまえる。
言い終わったかと思うとすぐに寝転んでいる杉先生へと振り下ろす。
先生は反射で動いたのか、転がってしまった竹刀を手に取り、
高杉くんの攻撃に対して防御を始めた。
お互い手は抜いていないように見えた。
寝ころんだままの杉先生に高杉くんが力を加えて押している。
先生の顔に竹刀があと何mmのところで高杉くんは先生を引き上げた。
そして立ち上がった2人の本格的な剣道が始まった…とはいっても打っているのは高杉くんだけ。
杉先生は頭の上で竹刀をかまえたまま、何もしようとしない。
高杉くんは頭にきたのか、両手でかまえていた杉先生の竹刀目掛けて振り下ろした。
そして杉先生はまた体勢を崩し、寝ころんだ体勢に。
『先生…、本気で、やんなよ』
ボソと呟いたのが集中している高杉くんが気に触ったのか、アタシをキッと見てきた。
隣にいた吉田くんが、大丈夫だよ、と言わんばかりに腕をポンと叩いてくれた。
かしゃん、と音をたてて先生の首元をついた竹刀。
それを見た秀は我慢しきれなくなったのか、
「もういいだろ!!」…飛び出していった。
「なぜですか」
「先生、死んじゃうよ!」
「…死ねばいい」
「は!?」『は?!』
死ねばいい?!…そんなのって、言いすぎなんじゃ。
「志を失ったものはもはや抜け殻です。抜け殻に教師を名乗る資格はありません」
『…そう、だね』
アタシは納得してしまう。
この3人の言動にはどうにも納得してしまうことが多い。
「ひどいなあ……君は」
息の切れた小さな声で杉先生は呟いた。
「あなたは理想を持ってあの学校にやってきたんじゃなかったんですか」
「頑張れば夢は叶う、って」
アタシは涙が出そうだった。
【遅れてきた新人!!】…そう言って秀を励ましてくれた先生を思い出した。
何回試験や大学を落ちたって、逃げ出さなくて良かった…って言葉。
秀と抱き合って泣いてた先生…思い出した。
「理想だけじゃやっていけないんだよ、現実見なきゃ」
…大人の決まり文句。
向けられている竹刀をどけて、体勢を整えた。
「それが大人なんだ」
「…廃校が決まったから…だから、生徒に統一テストを受けさせない。
大人の理屈ってやつですねぇ」
「そうそう、ただ逃げてるだけじゃん?」
「残された生徒達はどうするんですか?あの学校を選んだ生徒達はどうなるんですか」
「先生を信じてる生徒もいる…」
その入江くんの言葉を聞いて、杉先生はアタシと秀の方を向いた。
「それでもあなたは逃げ出すんですか」
杉先生はじーっと秀を見つめていた
。秀も先生を見つめていて…でも先に逸らしたのは、先生だった。
「俺は教師になりたかったんだ…あの学校に拘ってるわけじゃない」
杉先生は立ち上がって、足を引きずりながら歩き始めた。
秀は下を向いてしまった。
『しゅ、』
「彼や彼女を裏切る気ですか」
「教師のくせに、……ダメ教師!!!」
「…ダメ教師」
「ダメ教師」
『杉先生』
「…悔しいですか?悔しいですよねえ?」
その言葉に杉先生は振り返った。
「悔しいならほら…打ってこいやぁぁああっ!!!!」
「高杉ぃぃいいいいっ!!!!」
お互いが本気になって打ち合っていた。
やっと先生が本気になった。
生徒と本気になるまでにここまで挑発されないとできない、か。
と、高杉くんの頭の先まで竹刀を振りおろした。
…が、打つことはできなかった。
やっぱり、心のどこかでは本気じゃなかったんだ。
高杉くんはゆっくりと竹刀を下ろし、杉先生を見つめ…一言投げた。
「…無様だ」
高杉くんは道場を出ようと歩いた、その後ろに吉田くんと入江くんが続く。
ここまでが彼らの計算だったんだ。
残されたアタシ達3人。
しばらくかまえたまま固まっていた杉先生が無言で同情を出て行った。
その背中は春に見た時よりも何倍も小さく、力気がなかった。
先生が出て行った瞬間、緊張感から解放されたアタシはぐちゃっと床に崩れ落ちた。
そして涙が止まらなかった。
あの3人は正しかった…すべてが。
アタシも同じことを心のどこかで思っていたのかもしれない…。
ダメ教師なんて…そんな風には思ってないけど…
心のどこかではもしかしたら、それと似たような感情を抱き始めてたのかもしれない…。
秀が1番辛いはずなのに、声を出さずに泣き崩れたアタシを優しく撫でてくれた。
「梓紗…、梓紗、頑張ったよ」
秀の声は少し震えていたように聞こえた。
*end*
PR
この記事にコメントする