ドリーム小説
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*第2話*~神のメール? 記憶消失の謎!! ①
いつものダーツバーへと向かう道。
階段を上って、ある部屋へと入る。
ミッションルームへの入り口である扉を開く瞬間。
立ち直っていたと思っていた記憶が蘇る。
突然鳴り響いた銃の音。
慌ただしく動く警察。
血が飛びついているパトカーの窓。
銃を持った血にまみれた先生の手。
アタシ達は、子供なんだ。
そんな少しの努力じゃ人は救えない。
そう思い知らされた昨日の夜。
リュウに胸をかしてもらえなければ、どうしていただろう。
今日、ここに来ることもできなかったかもしれない。
後でちゃんとお礼を言わなきゃ。
みんなだって昨日のことを全く気にしてないなんて有り得ないだろう。
それぞれ乗り越えて今日ここに来てるんだ。
これからもっと辛いことがあるかもしれない。
アタシは気持ちを切り替えてミッションルームの扉を開けた。
『みんな、おっはよー!!!』
「おー梓紗!」
「おはよ」
やっぱりみんな明るく振舞っているのが分かる。
アタシが部屋の中に入ると、少し遅れてキュウが入ってきた。
キュウも少し無理してる感じある…ってアタシが言えないか。
部屋に入ってすぐのイスに本を読んでるリュウが座ってる。
アタシは隣のイスに腰を下して言った。
『リュウ、おはよう』
「…おはよう」
『昨日、ありがとね。リュウがいなかったらもっとパニックになってたかも。
ホント、ごめん。ありがとう』
「…うん、今日来ないかと思った。遅かったし」
そう言ったリュウは安心そうに笑ってくれた。
アタシはそれを見て満面の笑みを返し勢いよく立ってメグのもとに行く。
アタシが立ったイスが空いたのを見つけたキュウがゆっくりと腰を下ろす。
しばらくすると、キュウが怒ったように何か言った。
キュウはなんて言ったかよく聞こえなかったけど、その言葉と重なるようにどこからか声が。
「お前達!!ずいぶん楽しそうだなぁ」
この声は…確かに七海先生。
だけど姿が見つからない。
多分、また変装してるんだろうけど…。
すると部屋の隅に置いてあるサボテンの植木鉢が動いた。
アタシはその時に初めてそこにサボテンがあるのを知ったけどね。
植木鉢はゆっくりと回転を始め、1周するとそこに七海先生の顔が現れる。
「、七海先生?!」
「この部屋は団先生がお前たちに特別に用意してくれた教室だ!
そこにこんなチャラチャラしたもの持ち込みやがって!」
そう言いながらイスにかけてあったメグのピンクの服を自分に合わせる。
「すいません…っていうか、先生いつからいたんすか?」
「お前達が来るずっと前からだよ!」
『先生、そんな暇な時間がどこに…』
「だからって、サボテン…」
キュウが引きながら先生に言う。
キュウの言葉を遮るように先生が話し始める。
思うんだけど、その変装っていうか、もう仮装だよ。
その、仮想の衣装は一体どこで手に入れてんだろ。
「相手の意表を突くのが、変装術の極意だ」
「誰がどう見ても仮装じゃん」
いや、やっぱり仮装だよね!?
メグはポソリと呟く。
「まぁまぁまぁまぁまぁ。その前にお前達にはこれだ。団先生の新しい課題だ!」
七海先生はディスクを取り出した。
みんなの表情が一気に凍りついた。
それにしてもこんなに早く次の課題だなんて…。
でもまぁ、気持ちを切り替えるためにはいいかもしれない。
「Qクラスの諸君、御機嫌よう。今回君達に調べてもらいたいのは、ある失踪事件だ。
学習塾に通う中学生2人が忽然と家の中から姿を消し、3日後秋葉原駅前の路上で発見された。
ただ奇妙なことに、彼らはそれまでの記憶を一切失くし、
まるで別人のようになっていたそうだ」
画面に1人の男の子と1人の女の子の顔写真が映る。
竹山裕紀、鈴木彩香というらしい。
その後にその学習塾の名前だろう、「五十嵐学院」の表札。
それから「拾件は戦争だ!Aクラス」と書かれた紙を前に、
姿勢正しく並んで写っている1枚の写真。
その中に、竹山くんと鈴木さんが映っていた。
「この事件の影響で、学習塾の生徒達はかなり動揺しているらしい。
君達の力で、この事件の真相を解明してもらいたい。
諸君らの健闘を祈る」
そこで映像は終了する。
するとキュウが口を開いた。
「とりあえず、今回は殺人事件じゃないみたいだね。
…よし、みんな!今度こそ力を合わせて頑張ろう!!」
『…キュウ?アタシも賛成したいのは山々なんだけどさ…』
「みんなもう行っちゃったけど?」
「・・・えええ?!」
キュウが1人で意気込んでいる間、ずっと見ていたアタシとメグ。
リュウ、数馬、キンタはキュウなんかお構いなしにミッションルームを出て行ってしまった。
リュウは「先行ってるね」ってアタシに小さな声で言ってったけど。
アタシはいくらかキュウに賛成だけど、メグは違うみたい。
呆れ顔でキュウと見てる。
「仕方ないでしょ?私達は団先生の後継者を競い合うライバルなんだから」
そう言ってメグもいそいそとミッションルームを出る。
ああ、またアタシとキュウが残る。
このパターン、前もあった気がするけど…成長しないなぁアタシら。
「欲がねぇなぁ、お前らは」
七海先生がアタシ達を見て呟く。
「まぁ、そこがお前らのいいところなんだけどな。
お前らは、お前らでいいんだよ。余計なこと考えずに、そのまま突っ走れ!」
「、はい!!」
『七海先生、先生らしいこと言えるんじゃないですか!!』
「お前はなー一言多いんだよ!キュウも一言多いときあるよな??
いっつもこうやって2人して残ってるみたいだし、似てるんじゃねぇか?」
『ええ、キュウと似てる?!一緒にしないでくださいよっ!』
「え!何それ、いくらなんでも酷過ぎない?!」
七海先生は、微笑みながら聞いてた。
キュウは毎回恒例、ブツブツ文句を言い始めた。
アタシは無理やりキュウをミッションルームに連れ出し、『行ってきます!』と、
七海先生に告げて部屋の扉を閉めた。
『今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!捜査頑張るんでしょ?!』
「うん!!」
アタシ達は相談した結果、五十嵐塾に情報を探りに行くことに。
アタシは今の恰好じゃさすがに塾には行けないから家に帰って少し大人しめの服に変える。
五十嵐塾に着くとそこにはメグの姿が。
アタシ達は気づかれないようにメグの後ろに立つ。
「やっぱ情報を探るには学校か塾の友達だよね」
『何かメグもいるような気がしたんだよーっ!』
「、?!梓紗、キュウ?!」
メグはアタシ達を見てかなり驚いてるみたい。
アタシとキュウはメグに腕をつかまれ、少し離れた所に連れてかれる。
「考えてること、同じみたいだねっ」
「何慣れ慣れしくしてんのよ!今から梓紗誘おうと思ってたのに…」
『マヂで?やった、メグ大好きっ♪』
「なんで?なんでいっつも梓紗ばっかりさー…。
でもだってメグ、この前励ましてくれたじゃんっ!!」
励ましたって言うのは…多分昨日先生が【ありがとう】を言ってくれたあと、
メグがキュウの肩を叩いて微笑んでたことだと思う。
そういうメグは素直でいいなーって思ったけどさ。
「あれは、キュウがへこんでたから気合入れただけで。
自惚れないでよねっバーッカっ!!」
『何メグ、素直に一緒に調べようって言えばいいのに…』
「はぁ?梓紗まで…何で私がキュウと調べなきゃ…」
「なんで?一緒に調べようよ!!」
「いやだよっ、うるさいなぁー」
するとメグが突然立ち止まる。
「…あった」
「Aクラス」
『ここかぁ』
失踪した2人のクラスだ。
その途端アタシとメグはキュウに手を差し伸べる。
そしてAクラスの方へ向かって流し、「『どうぞ』」とハモった。
「え?僕??」
『うん、そう。はい頑張って』
「早く行きなさいよっ!」
メグとアタシはキュウを押す。
キュウは渋々とAクラスのドアを開けた。
中に見えたのは、頭に鉢巻きを巻き、紺色のポロシャツを着ている10人くらいの生徒。
みんな同じ格好で机に向かい、勉強している。
「…すいませーん…、ちょっといいですか??」
すると全員の生徒がこちらを一斉に振り向いたかと思うと、
すぐに目線をはずし、勉強を再開する。
「・・・・・ごめんなさーい」
ドアを閉めてすぐにこっちに向かっていた。
…と思うと、もっと先の方に走って行ってしまった。
1つの柱まで辿り着くとよっかかり深呼吸をしているのが見える。
「何で逃げんのよ!」
「空気読めよ!話し何か聞ける雰囲気じゃなかっただろ?!」
『アレはねー、確かに聞けないわ』
「…あれ?君達、Aクラスの新しいメンバー?」
突然話しかけられる。
驚いて振り向くとそこには紺のポロシャツを着た男の子。
きっとAクラスの人だろう、鉢巻きはつけてないけど。
「え、あ、いやぁー僕達はぁー」
『予備校の見学にきたんですけどー…』
「もしかして、Aクラスの人??」
「…まぁ、一応」
キュウが変なことを言いそうだったので、アタシは適当に理由づける。
見学ならチェックも入れられることないと思うし。
その人は立ち去ろうとしたけどメグはチャンスだと思ったのか、その人に話し始める。
「Aクラスってさ!成績優秀な生徒を集めた特別クラスなんでしょ??」
「…最近は、何かと気味悪がられてるけどね」
『…どうしてですか??』
「知らないの?このクラスの生徒が失踪したって話」
「何か知ってるの??」
キュウが効くと、その人は声のトーンを落とし話しだした。
「…神だよ」
『…っ?神って…』
「神って、神様の神??」
神様と失踪事件に何の関係が??
「ああ。そいつら、神の声を聞いて生まれ変わったんだ」
アタシには、その人が少し嬉しそうに話しているのが見えた。
すると、1人の先生がこちらに向かってくる。
「おい牧野、何してる。授業始めるぞ」
「…あ、はい」
背広を着た男の人で、この人は牧野クンというのだろう。
牧野クンの表情は一瞬怯え、先生から目を離さない。
「…誰?」
「塾長の五十嵐先生」
「ね、君の名前は??」
「牧野大介。…君は??」
『…へっ?アタシ??アタシは梓紗…だけど』
「梓紗ちゃん?そっか、じゃぁね」
そう言って牧野クンは微笑んで教室へと去って行った。
彼の後ろ姿を見ていたら、メグがアタシの前に突然現れる。
「あの人…牧野クンだっけか。絶対梓紗に気ぃあるよねー?」
『…はぃ?!』
「そうでしょ!名前聞いたキュウに聞いたんじゃないもん。
しかも、梓紗だけだよ?私には聞かないのかよっ!!絶対梓紗に気があるって!」
『えー…しかも、メグめっちゃ嬉しそうだしー…??』
「えっ、いやぁ…別にぃ??(あーリュウに早く言いたいっ♪)」
「お前達は選ばれた人間だ。負け組になって惨めな人生を送りたくなければ競争に勝ち抜け。
ライバルは容赦なく蹴落とすんだ。いいな?」
教室の中からAクラスのメンバーに言ってるのが聞こえる。
その五十嵐先生の言葉に「はい!」と大きく返事するのも聞こえた。
「だーめ、こいつらとだけは友達になれそうにないわ」
『あーアタシも絶対にダメっ。勉強しか頭になさそう』
「ああ、あんたはそういうコト言っちゃダメでしょうっ!
あの中には牧野クンがいるんだからぁっ」
『もうメグ、その話はいいから!メグ、勝手に作っちゃダメだって!』
「何?照れてんの??可愛いなぁ」
「神の声、か」
アタシ達が騒いでるときにボソリと呟くキュウの言葉が耳に入る。
少しだけ塾の中を捜査してから帰ろうと思っていたら、
Aクラスの授業は終わったのか、牧野クンが出てきた。
「牧野くん!」
「…みんな、まだいたんだ」
「さっきの話の続きなんだけど、失踪した2人…何か変わった様子はなかったかな?」
「さあ?覚えてないな。教室じゃほとんど誰も話さないから」
『まぁ、あの雰囲気じゃあねぇ』
「じゃぁ、何かトラブルでも」
「別になかったけど。ていうか、何で君達そんなこと調べてるの?」
まぁ…そうだよね。
突然話しかけて失踪のことについて聞くなんておかしいよね。
キュウがごまかすように笑っていると五十嵐先生の声が。
「牧野、呑気にお喋りなんかしてていいのか。油断していると足元すくわれるぞ」
こんなに少し立ち話しただけで注意されるなんて。
ここでは何の自由もないって感じ。
アタシはムカッときたので少しだけ強く睨む。
五十嵐先生はアタシの目線に気付いただろうが、何事もなかったように逸らされた。
「森田先生」
「あ、はい!」
五十嵐先生が偶然近くを通りかかった森田先生という男の人に話しかける。
森田先生は恐ろしいものを見たかというように返事をする。
「前回の模試…生徒達の英語の平均が2点落ちてますよ」
「っ…申し訳ありませんでした!」
森田先生はものすごい勢いで頭を下げる。
「結果を出せない者に用はない。2度目の警告はないと思いたまえ」
それを言い終わると五十嵐先生は歩いて行ってしまった。
「ここ…先生も採点されちゃうんだ」
『しかも…生徒の面前でね…。先生も立場ないよ』
「あの人達にとって大事なのは数字だけだから。ここに通ってる生徒たちもね」
その言葉を残すと牧野クンも行ってしまった。
牧野クンも数字が大事なのかな?アタシにはそんな人に見えないけど。
立ち去る時の牧野クンの顔は何だかとても寂しそうだった。
いつものダーツバーへと向かう道。
階段を上って、ある部屋へと入る。
ミッションルームへの入り口である扉を開く瞬間。
立ち直っていたと思っていた記憶が蘇る。
突然鳴り響いた銃の音。
慌ただしく動く警察。
血が飛びついているパトカーの窓。
銃を持った血にまみれた先生の手。
アタシ達は、子供なんだ。
そんな少しの努力じゃ人は救えない。
そう思い知らされた昨日の夜。
リュウに胸をかしてもらえなければ、どうしていただろう。
今日、ここに来ることもできなかったかもしれない。
後でちゃんとお礼を言わなきゃ。
みんなだって昨日のことを全く気にしてないなんて有り得ないだろう。
それぞれ乗り越えて今日ここに来てるんだ。
これからもっと辛いことがあるかもしれない。
アタシは気持ちを切り替えてミッションルームの扉を開けた。
『みんな、おっはよー!!!』
「おー梓紗!」
「おはよ」
やっぱりみんな明るく振舞っているのが分かる。
アタシが部屋の中に入ると、少し遅れてキュウが入ってきた。
キュウも少し無理してる感じある…ってアタシが言えないか。
部屋に入ってすぐのイスに本を読んでるリュウが座ってる。
アタシは隣のイスに腰を下して言った。
『リュウ、おはよう』
「…おはよう」
『昨日、ありがとね。リュウがいなかったらもっとパニックになってたかも。
ホント、ごめん。ありがとう』
「…うん、今日来ないかと思った。遅かったし」
そう言ったリュウは安心そうに笑ってくれた。
アタシはそれを見て満面の笑みを返し勢いよく立ってメグのもとに行く。
アタシが立ったイスが空いたのを見つけたキュウがゆっくりと腰を下ろす。
しばらくすると、キュウが怒ったように何か言った。
キュウはなんて言ったかよく聞こえなかったけど、その言葉と重なるようにどこからか声が。
「お前達!!ずいぶん楽しそうだなぁ」
この声は…確かに七海先生。
だけど姿が見つからない。
多分、また変装してるんだろうけど…。
すると部屋の隅に置いてあるサボテンの植木鉢が動いた。
アタシはその時に初めてそこにサボテンがあるのを知ったけどね。
植木鉢はゆっくりと回転を始め、1周するとそこに七海先生の顔が現れる。
「、七海先生?!」
「この部屋は団先生がお前たちに特別に用意してくれた教室だ!
そこにこんなチャラチャラしたもの持ち込みやがって!」
そう言いながらイスにかけてあったメグのピンクの服を自分に合わせる。
「すいません…っていうか、先生いつからいたんすか?」
「お前達が来るずっと前からだよ!」
『先生、そんな暇な時間がどこに…』
「だからって、サボテン…」
キュウが引きながら先生に言う。
キュウの言葉を遮るように先生が話し始める。
思うんだけど、その変装っていうか、もう仮装だよ。
その、仮想の衣装は一体どこで手に入れてんだろ。
「相手の意表を突くのが、変装術の極意だ」
「誰がどう見ても仮装じゃん」
いや、やっぱり仮装だよね!?
メグはポソリと呟く。
「まぁまぁまぁまぁまぁ。その前にお前達にはこれだ。団先生の新しい課題だ!」
七海先生はディスクを取り出した。
みんなの表情が一気に凍りついた。
それにしてもこんなに早く次の課題だなんて…。
でもまぁ、気持ちを切り替えるためにはいいかもしれない。
「Qクラスの諸君、御機嫌よう。今回君達に調べてもらいたいのは、ある失踪事件だ。
学習塾に通う中学生2人が忽然と家の中から姿を消し、3日後秋葉原駅前の路上で発見された。
ただ奇妙なことに、彼らはそれまでの記憶を一切失くし、
まるで別人のようになっていたそうだ」
画面に1人の男の子と1人の女の子の顔写真が映る。
竹山裕紀、鈴木彩香というらしい。
その後にその学習塾の名前だろう、「五十嵐学院」の表札。
それから「拾件は戦争だ!Aクラス」と書かれた紙を前に、
姿勢正しく並んで写っている1枚の写真。
その中に、竹山くんと鈴木さんが映っていた。
「この事件の影響で、学習塾の生徒達はかなり動揺しているらしい。
君達の力で、この事件の真相を解明してもらいたい。
諸君らの健闘を祈る」
そこで映像は終了する。
するとキュウが口を開いた。
「とりあえず、今回は殺人事件じゃないみたいだね。
…よし、みんな!今度こそ力を合わせて頑張ろう!!」
『…キュウ?アタシも賛成したいのは山々なんだけどさ…』
「みんなもう行っちゃったけど?」
「・・・えええ?!」
キュウが1人で意気込んでいる間、ずっと見ていたアタシとメグ。
リュウ、数馬、キンタはキュウなんかお構いなしにミッションルームを出て行ってしまった。
リュウは「先行ってるね」ってアタシに小さな声で言ってったけど。
アタシはいくらかキュウに賛成だけど、メグは違うみたい。
呆れ顔でキュウと見てる。
「仕方ないでしょ?私達は団先生の後継者を競い合うライバルなんだから」
そう言ってメグもいそいそとミッションルームを出る。
ああ、またアタシとキュウが残る。
このパターン、前もあった気がするけど…成長しないなぁアタシら。
「欲がねぇなぁ、お前らは」
七海先生がアタシ達を見て呟く。
「まぁ、そこがお前らのいいところなんだけどな。
お前らは、お前らでいいんだよ。余計なこと考えずに、そのまま突っ走れ!」
「、はい!!」
『七海先生、先生らしいこと言えるんじゃないですか!!』
「お前はなー一言多いんだよ!キュウも一言多いときあるよな??
いっつもこうやって2人して残ってるみたいだし、似てるんじゃねぇか?」
『ええ、キュウと似てる?!一緒にしないでくださいよっ!』
「え!何それ、いくらなんでも酷過ぎない?!」
七海先生は、微笑みながら聞いてた。
キュウは毎回恒例、ブツブツ文句を言い始めた。
アタシは無理やりキュウをミッションルームに連れ出し、『行ってきます!』と、
七海先生に告げて部屋の扉を閉めた。
『今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!捜査頑張るんでしょ?!』
「うん!!」
アタシ達は相談した結果、五十嵐塾に情報を探りに行くことに。
アタシは今の恰好じゃさすがに塾には行けないから家に帰って少し大人しめの服に変える。
五十嵐塾に着くとそこにはメグの姿が。
アタシ達は気づかれないようにメグの後ろに立つ。
「やっぱ情報を探るには学校か塾の友達だよね」
『何かメグもいるような気がしたんだよーっ!』
「、?!梓紗、キュウ?!」
メグはアタシ達を見てかなり驚いてるみたい。
アタシとキュウはメグに腕をつかまれ、少し離れた所に連れてかれる。
「考えてること、同じみたいだねっ」
「何慣れ慣れしくしてんのよ!今から梓紗誘おうと思ってたのに…」
『マヂで?やった、メグ大好きっ♪』
「なんで?なんでいっつも梓紗ばっかりさー…。
でもだってメグ、この前励ましてくれたじゃんっ!!」
励ましたって言うのは…多分昨日先生が【ありがとう】を言ってくれたあと、
メグがキュウの肩を叩いて微笑んでたことだと思う。
そういうメグは素直でいいなーって思ったけどさ。
「あれは、キュウがへこんでたから気合入れただけで。
自惚れないでよねっバーッカっ!!」
『何メグ、素直に一緒に調べようって言えばいいのに…』
「はぁ?梓紗まで…何で私がキュウと調べなきゃ…」
「なんで?一緒に調べようよ!!」
「いやだよっ、うるさいなぁー」
するとメグが突然立ち止まる。
「…あった」
「Aクラス」
『ここかぁ』
失踪した2人のクラスだ。
その途端アタシとメグはキュウに手を差し伸べる。
そしてAクラスの方へ向かって流し、「『どうぞ』」とハモった。
「え?僕??」
『うん、そう。はい頑張って』
「早く行きなさいよっ!」
メグとアタシはキュウを押す。
キュウは渋々とAクラスのドアを開けた。
中に見えたのは、頭に鉢巻きを巻き、紺色のポロシャツを着ている10人くらいの生徒。
みんな同じ格好で机に向かい、勉強している。
「…すいませーん…、ちょっといいですか??」
すると全員の生徒がこちらを一斉に振り向いたかと思うと、
すぐに目線をはずし、勉強を再開する。
「・・・・・ごめんなさーい」
ドアを閉めてすぐにこっちに向かっていた。
…と思うと、もっと先の方に走って行ってしまった。
1つの柱まで辿り着くとよっかかり深呼吸をしているのが見える。
「何で逃げんのよ!」
「空気読めよ!話し何か聞ける雰囲気じゃなかっただろ?!」
『アレはねー、確かに聞けないわ』
「…あれ?君達、Aクラスの新しいメンバー?」
突然話しかけられる。
驚いて振り向くとそこには紺のポロシャツを着た男の子。
きっとAクラスの人だろう、鉢巻きはつけてないけど。
「え、あ、いやぁー僕達はぁー」
『予備校の見学にきたんですけどー…』
「もしかして、Aクラスの人??」
「…まぁ、一応」
キュウが変なことを言いそうだったので、アタシは適当に理由づける。
見学ならチェックも入れられることないと思うし。
その人は立ち去ろうとしたけどメグはチャンスだと思ったのか、その人に話し始める。
「Aクラスってさ!成績優秀な生徒を集めた特別クラスなんでしょ??」
「…最近は、何かと気味悪がられてるけどね」
『…どうしてですか??』
「知らないの?このクラスの生徒が失踪したって話」
「何か知ってるの??」
キュウが効くと、その人は声のトーンを落とし話しだした。
「…神だよ」
『…っ?神って…』
「神って、神様の神??」
神様と失踪事件に何の関係が??
「ああ。そいつら、神の声を聞いて生まれ変わったんだ」
アタシには、その人が少し嬉しそうに話しているのが見えた。
すると、1人の先生がこちらに向かってくる。
「おい牧野、何してる。授業始めるぞ」
「…あ、はい」
背広を着た男の人で、この人は牧野クンというのだろう。
牧野クンの表情は一瞬怯え、先生から目を離さない。
「…誰?」
「塾長の五十嵐先生」
「ね、君の名前は??」
「牧野大介。…君は??」
『…へっ?アタシ??アタシは梓紗…だけど』
「梓紗ちゃん?そっか、じゃぁね」
そう言って牧野クンは微笑んで教室へと去って行った。
彼の後ろ姿を見ていたら、メグがアタシの前に突然現れる。
「あの人…牧野クンだっけか。絶対梓紗に気ぃあるよねー?」
『…はぃ?!』
「そうでしょ!名前聞いたキュウに聞いたんじゃないもん。
しかも、梓紗だけだよ?私には聞かないのかよっ!!絶対梓紗に気があるって!」
『えー…しかも、メグめっちゃ嬉しそうだしー…??』
「えっ、いやぁ…別にぃ??(あーリュウに早く言いたいっ♪)」
「お前達は選ばれた人間だ。負け組になって惨めな人生を送りたくなければ競争に勝ち抜け。
ライバルは容赦なく蹴落とすんだ。いいな?」
教室の中からAクラスのメンバーに言ってるのが聞こえる。
その五十嵐先生の言葉に「はい!」と大きく返事するのも聞こえた。
「だーめ、こいつらとだけは友達になれそうにないわ」
『あーアタシも絶対にダメっ。勉強しか頭になさそう』
「ああ、あんたはそういうコト言っちゃダメでしょうっ!
あの中には牧野クンがいるんだからぁっ」
『もうメグ、その話はいいから!メグ、勝手に作っちゃダメだって!』
「何?照れてんの??可愛いなぁ」
「神の声、か」
アタシ達が騒いでるときにボソリと呟くキュウの言葉が耳に入る。
少しだけ塾の中を捜査してから帰ろうと思っていたら、
Aクラスの授業は終わったのか、牧野クンが出てきた。
「牧野くん!」
「…みんな、まだいたんだ」
「さっきの話の続きなんだけど、失踪した2人…何か変わった様子はなかったかな?」
「さあ?覚えてないな。教室じゃほとんど誰も話さないから」
『まぁ、あの雰囲気じゃあねぇ』
「じゃぁ、何かトラブルでも」
「別になかったけど。ていうか、何で君達そんなこと調べてるの?」
まぁ…そうだよね。
突然話しかけて失踪のことについて聞くなんておかしいよね。
キュウがごまかすように笑っていると五十嵐先生の声が。
「牧野、呑気にお喋りなんかしてていいのか。油断していると足元すくわれるぞ」
こんなに少し立ち話しただけで注意されるなんて。
ここでは何の自由もないって感じ。
アタシはムカッときたので少しだけ強く睨む。
五十嵐先生はアタシの目線に気付いただろうが、何事もなかったように逸らされた。
「森田先生」
「あ、はい!」
五十嵐先生が偶然近くを通りかかった森田先生という男の人に話しかける。
森田先生は恐ろしいものを見たかというように返事をする。
「前回の模試…生徒達の英語の平均が2点落ちてますよ」
「っ…申し訳ありませんでした!」
森田先生はものすごい勢いで頭を下げる。
「結果を出せない者に用はない。2度目の警告はないと思いたまえ」
それを言い終わると五十嵐先生は歩いて行ってしまった。
「ここ…先生も採点されちゃうんだ」
『しかも…生徒の面前でね…。先生も立場ないよ』
「あの人達にとって大事なのは数字だけだから。ここに通ってる生徒たちもね」
その言葉を残すと牧野クンも行ってしまった。
牧野クンも数字が大事なのかな?アタシにはそんな人に見えないけど。
立ち去る時の牧野クンの顔は何だかとても寂しそうだった。
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*第1話*~実践開始!戦慄の死の予言!死体消滅の謎を追え ⑥
誰もいない。
静かな駐車場にアタシ達は着く。
遠くから近くへ、響いてくる足音とスーツケースを転がす音。
現れたのは…間違いなく文芸部顧問の米山先生。
「お出かけですか??先生」
アタシ、キュウ、メグ、リュウ、数馬は先生の行く手を阻むように囲んで立つ。
「そのスーツケースの中身、処分しに行くとか?」
『…無駄です。トリックは全て解けました』
「あなたが今回の連続殺人事件の犯人ですね!」
キュウが高らかに言い放ったかと思うと、先生は微笑で言う。
「一体何の話?言ってる意味が全然分かんないわ」
先生は何事もなかったかのように知らないふりで、その場を後にしようとした。
「氷の玉と、2人の人間による死体切断のマジック。…それだけ言えば充分だろ」
リュウが言った言葉で先生は立ち止まる。
「ずっと引っ掛かってたんです。
日頃から生徒たちとの関わりを避けているあなたに、なぜ佐々木さんがSOSの電話をかけてきたのか。
それは僕達と行動を共にし、無実を証明するためのアリバイ工作だったんだ」
「妄想もいいところよ!」
『あの子達どこにいるの、って先生言いましたよね??それが証拠です。
佐々木さんから電話があったとき、行方が分からなくなっていたのは佐々木さんだけですよ??
先生はあの場に佐々木さんだけではなく、大森さんも居ることを知っていた。
だから、【あの子達】と口にしてしまったんじゃないですか??』
「スーツケースの中、見せてよ」
メグが冷たい視線で見つめ、鋭く先生に言う。
スーツケースから血が流れ落ちた。
中には…やっぱり…。
考えただけで背筋が凍る。
「…先生、どうして、こんなひどいこと…どうして?」
「娘を殺された復讐なんだろ」
後ろからの声に振りかえる。
『…キンタ!!』
「今まで何してたのよ!!」
そこにいたのは久しぶりに見るキンタ。
最近、全然ミッションルームに顔出さないと思ってたら…。
「西村静香の周辺を調べてたんだ。彼女は、この人が産んだ娘だったんだ」
アタシ達は驚いて先生の方を向く。
「子供が生まれて間もなく、あんたは小説家になる夢を諦めきれず、家族を捨てた。
でもそれだけ頑張っても、夢は夢のままだった。
そのとき、あんたはこの学校で娘と再会したんだ」
「・・・・血は争えないわね」
先生は寂しそうにつぶやく。
「16年ぶりに再会した静香はミステリーに夢中で、天賦の才能の持ち主だった。
あの子がコンクールで賞をもらったときも嬉しかった。私の夢をかなえてくれた気がして。
…でもその幸せも、長くは続かなかった。
そんなとき、偶然あの子達の話を聞いてしまったの」
先生は佐々木さん達が西村さんを階段から突き落とし、殺害したという事実を
偶然にも聞いてしまったらしい。
「あの子達、笑ってた。娘の未来を奪ったあの子達に生きる価値なんかない…っ!!」
「…へぇ…、彼女、実の娘だったんだ」
リュウが先生の周りを歩きながらため息交じりに言い放つ。
「娘の復讐ねぇ…よくそんな綺麗事言えたもんだな」
『?リュウ??』
「この人、推敲者の新人コンクールに作品を送ってた。
でもそれは、西村静香が図書室に隠した、幻の遺作だったんだ」
黙っていた数馬が口を開く。
「…僕達がディスクの在り処に気付いた時、それはもう誰かの手に渡っていた。
だから数馬に調べてもらったんだ。彼女の遺作を売りつけられた出版社はなかったかどうか」
「でも、どの出版社も原稿を手にしていなかった」
「出版社に売りつけることが目的ではないとすると、考えられる可能性は1つ。
その原稿を自分の作品として発表することだ」
「コンクールの主催者に応募者の名前を問い合わせたら、見事にヒットしたよ。
・・・先生の名前が」
リュウと数馬が説明する。
そうか、だからリュウはあの時電話してたのは数馬だったのか。
そんなに早くから感づいていたリュウ…やっぱりすごい。
「でも…なんでそれが西村静香の遺作だってわかったんだ」
「作家はよく描きかけの作品をバックアップするのにメールボックスを利用する」
「ハッキングしてみたらしっかりと残ってたよ、西村静香の…オリジナル原稿」
「でも、かのじょの作品を自分のものにするには、ひとつだけ問題があった。
その作品をすでに読んでいた人間がいたんだ」
『…そっか!殺された3人!!』
「ああ、こいつは娘の復讐なんかじゃなく、盗作がバレないように3人を殺したんだ」
「違う…違う!!私は静香のために「だったら!!」
リュウが先生の言葉を遮る。
「…何故娘の名で公表しなかった??
あんたは悪魔に魂を売り渡したんだよ!!!!!」
リュウの言葉が駐車場を凍りつかせる。
静まり返る。
聞こえるのは、スーツケースから滴る…血の音だけが駐車場をこだまする。
しばらく、沈黙が続く。
すると、こちらに向かってくるパトカーのサイレン。
駐車場に着くと、警察がパトカーから降り、先生の周りに集まる。
1人の警官がスーツケースの中身を確認し、言った。
「…死体遺棄の容疑で、署まで同行願います」
諸星さんの言葉に、何人かの警官と一緒に先生はパトカーへ向かった。
「待って下さい!!」
キュウが叫ぶ。
「僕には・・・どうしても信じられません。
そんな、醜い欲望のために…あなたが人を殺すなんて…」
「キュウ・・・これがこの世界のリアルなんだ。僕達が立ち向かおうとしている現実なんだよ」
「違う!そんなことない!」
リュウがキュウを説得しようと口を開いたが、キュウはそれを否定する。
「だって、あの人、メグを抱いてくれたんだもん。
メグが死体を見てパニック起こしてるとき、母親みたいに優しく」
先生がメグを抱いてるとき。
先生にならメグを任せられると確信したんだ。
優しく、包み込むように抱いていた。
大丈夫って、安心させようとしてくれてた。
アタシだって…信じられないよ。
「リュウ、事実が全て、真実を語っているわけじゃないんだ。
事件を解決することも大切だけど、その裏に隠された真実を見抜くことも…探偵として、大切な役目だと思う。
だからこそ、人を救うことができるんじゃないかな。
甘っちょろいって思われるかもしれないけど…僕は・・・信じたいんだ。
この人も、ここにちゃんと血が通ってる。
だから人の痛みとか苦しみとか、そういうのを感じる心を持ってる」
キュウが胸に手を当て、先生に向かって真っすぐな目で言う。
先生は振り向かず、黙って背中で言う。
「バカな子ね。私みたいな女を信じるなんて・・・」
「先生…」
キュウは小さく呟いた。
先生はゆっくりと振り返り、言った。
「ありがとう」
そう言った先生は少し微笑んだように見えた。
その声は少し震えていて、少し…寂しそうな、切なそうな。
その後は振り返ることもなく先生はパトカーに乗り込む。
メグがキュウに近寄って行き、肩にポンと手を置き、優しく微笑む。
『やっぱり、キュウってすごいねー』
「とことんアナログだね」
「ガキのくせに生意気なんだよ」
アタシ、数馬、キンタの順に発言する。
でも本当はすごいなんて簡単な感情じゃない。
キュウの言った一言ずつに考えさせられた。
裏に隠された真実を…キュウは何よりも大切にしていると感じた。
あんなに人の心に響く言葉を…。
キュウだから、先生の【ありがとう】を聞けたのかも知れない。
今でも先生の最後の言葉は頭に鮮明に残っている。
そのとき、パンッ!と駐車場中に響く音。
アタシ達は一瞬のうちにパトカーへと歩み寄る。
アタシは音に驚いて少し遅れてパトカーのもとに着く。
リュウの隣に立つと、そこに見えたのは、血にまみれた拳銃を持った先生の手。
『・・・いやっ…!』
「梓紗、見るな」
リュウがアタシの顔を胸にうずめる。
メグは辛そうにしゃがみこみ。
数馬は吐きそうになっていた。
キンタとリュウはただ立ちつくしている。
リュウが見るなと言った瞬間、アタシは悟った。
『なんで…なんで、どう、してよ!』
リュウの胸の中でアタシは無意識のうちに叫んでいた。
リュウはさっきより強くうずめる。
助けたはずの先生が…どうしてこんなことに?
先生の最後の【ありがとう】がアタシの頭の中をぐるぐるめぐる。
結局アタシは、誰も救えなかった。
誰1人として救えなかった。
子供の探偵など、こんなに無力なのか。
アタシは無力すぎて叫ぶしかなかった。
頬には一粒の涙だけが流れ落ちた。
誰もいない。
静かな駐車場にアタシ達は着く。
遠くから近くへ、響いてくる足音とスーツケースを転がす音。
現れたのは…間違いなく文芸部顧問の米山先生。
「お出かけですか??先生」
アタシ、キュウ、メグ、リュウ、数馬は先生の行く手を阻むように囲んで立つ。
「そのスーツケースの中身、処分しに行くとか?」
『…無駄です。トリックは全て解けました』
「あなたが今回の連続殺人事件の犯人ですね!」
キュウが高らかに言い放ったかと思うと、先生は微笑で言う。
「一体何の話?言ってる意味が全然分かんないわ」
先生は何事もなかったかのように知らないふりで、その場を後にしようとした。
「氷の玉と、2人の人間による死体切断のマジック。…それだけ言えば充分だろ」
リュウが言った言葉で先生は立ち止まる。
「ずっと引っ掛かってたんです。
日頃から生徒たちとの関わりを避けているあなたに、なぜ佐々木さんがSOSの電話をかけてきたのか。
それは僕達と行動を共にし、無実を証明するためのアリバイ工作だったんだ」
「妄想もいいところよ!」
『あの子達どこにいるの、って先生言いましたよね??それが証拠です。
佐々木さんから電話があったとき、行方が分からなくなっていたのは佐々木さんだけですよ??
先生はあの場に佐々木さんだけではなく、大森さんも居ることを知っていた。
だから、【あの子達】と口にしてしまったんじゃないですか??』
「スーツケースの中、見せてよ」
メグが冷たい視線で見つめ、鋭く先生に言う。
スーツケースから血が流れ落ちた。
中には…やっぱり…。
考えただけで背筋が凍る。
「…先生、どうして、こんなひどいこと…どうして?」
「娘を殺された復讐なんだろ」
後ろからの声に振りかえる。
『…キンタ!!』
「今まで何してたのよ!!」
そこにいたのは久しぶりに見るキンタ。
最近、全然ミッションルームに顔出さないと思ってたら…。
「西村静香の周辺を調べてたんだ。彼女は、この人が産んだ娘だったんだ」
アタシ達は驚いて先生の方を向く。
「子供が生まれて間もなく、あんたは小説家になる夢を諦めきれず、家族を捨てた。
でもそれだけ頑張っても、夢は夢のままだった。
そのとき、あんたはこの学校で娘と再会したんだ」
「・・・・血は争えないわね」
先生は寂しそうにつぶやく。
「16年ぶりに再会した静香はミステリーに夢中で、天賦の才能の持ち主だった。
あの子がコンクールで賞をもらったときも嬉しかった。私の夢をかなえてくれた気がして。
…でもその幸せも、長くは続かなかった。
そんなとき、偶然あの子達の話を聞いてしまったの」
先生は佐々木さん達が西村さんを階段から突き落とし、殺害したという事実を
偶然にも聞いてしまったらしい。
「あの子達、笑ってた。娘の未来を奪ったあの子達に生きる価値なんかない…っ!!」
「…へぇ…、彼女、実の娘だったんだ」
リュウが先生の周りを歩きながらため息交じりに言い放つ。
「娘の復讐ねぇ…よくそんな綺麗事言えたもんだな」
『?リュウ??』
「この人、推敲者の新人コンクールに作品を送ってた。
でもそれは、西村静香が図書室に隠した、幻の遺作だったんだ」
黙っていた数馬が口を開く。
「…僕達がディスクの在り処に気付いた時、それはもう誰かの手に渡っていた。
だから数馬に調べてもらったんだ。彼女の遺作を売りつけられた出版社はなかったかどうか」
「でも、どの出版社も原稿を手にしていなかった」
「出版社に売りつけることが目的ではないとすると、考えられる可能性は1つ。
その原稿を自分の作品として発表することだ」
「コンクールの主催者に応募者の名前を問い合わせたら、見事にヒットしたよ。
・・・先生の名前が」
リュウと数馬が説明する。
そうか、だからリュウはあの時電話してたのは数馬だったのか。
そんなに早くから感づいていたリュウ…やっぱりすごい。
「でも…なんでそれが西村静香の遺作だってわかったんだ」
「作家はよく描きかけの作品をバックアップするのにメールボックスを利用する」
「ハッキングしてみたらしっかりと残ってたよ、西村静香の…オリジナル原稿」
「でも、かのじょの作品を自分のものにするには、ひとつだけ問題があった。
その作品をすでに読んでいた人間がいたんだ」
『…そっか!殺された3人!!』
「ああ、こいつは娘の復讐なんかじゃなく、盗作がバレないように3人を殺したんだ」
「違う…違う!!私は静香のために「だったら!!」
リュウが先生の言葉を遮る。
「…何故娘の名で公表しなかった??
あんたは悪魔に魂を売り渡したんだよ!!!!!」
リュウの言葉が駐車場を凍りつかせる。
静まり返る。
聞こえるのは、スーツケースから滴る…血の音だけが駐車場をこだまする。
しばらく、沈黙が続く。
すると、こちらに向かってくるパトカーのサイレン。
駐車場に着くと、警察がパトカーから降り、先生の周りに集まる。
1人の警官がスーツケースの中身を確認し、言った。
「…死体遺棄の容疑で、署まで同行願います」
諸星さんの言葉に、何人かの警官と一緒に先生はパトカーへ向かった。
「待って下さい!!」
キュウが叫ぶ。
「僕には・・・どうしても信じられません。
そんな、醜い欲望のために…あなたが人を殺すなんて…」
「キュウ・・・これがこの世界のリアルなんだ。僕達が立ち向かおうとしている現実なんだよ」
「違う!そんなことない!」
リュウがキュウを説得しようと口を開いたが、キュウはそれを否定する。
「だって、あの人、メグを抱いてくれたんだもん。
メグが死体を見てパニック起こしてるとき、母親みたいに優しく」
先生がメグを抱いてるとき。
先生にならメグを任せられると確信したんだ。
優しく、包み込むように抱いていた。
大丈夫って、安心させようとしてくれてた。
アタシだって…信じられないよ。
「リュウ、事実が全て、真実を語っているわけじゃないんだ。
事件を解決することも大切だけど、その裏に隠された真実を見抜くことも…探偵として、大切な役目だと思う。
だからこそ、人を救うことができるんじゃないかな。
甘っちょろいって思われるかもしれないけど…僕は・・・信じたいんだ。
この人も、ここにちゃんと血が通ってる。
だから人の痛みとか苦しみとか、そういうのを感じる心を持ってる」
キュウが胸に手を当て、先生に向かって真っすぐな目で言う。
先生は振り向かず、黙って背中で言う。
「バカな子ね。私みたいな女を信じるなんて・・・」
「先生…」
キュウは小さく呟いた。
先生はゆっくりと振り返り、言った。
「ありがとう」
そう言った先生は少し微笑んだように見えた。
その声は少し震えていて、少し…寂しそうな、切なそうな。
その後は振り返ることもなく先生はパトカーに乗り込む。
メグがキュウに近寄って行き、肩にポンと手を置き、優しく微笑む。
『やっぱり、キュウってすごいねー』
「とことんアナログだね」
「ガキのくせに生意気なんだよ」
アタシ、数馬、キンタの順に発言する。
でも本当はすごいなんて簡単な感情じゃない。
キュウの言った一言ずつに考えさせられた。
裏に隠された真実を…キュウは何よりも大切にしていると感じた。
あんなに人の心に響く言葉を…。
キュウだから、先生の【ありがとう】を聞けたのかも知れない。
今でも先生の最後の言葉は頭に鮮明に残っている。
そのとき、パンッ!と駐車場中に響く音。
アタシ達は一瞬のうちにパトカーへと歩み寄る。
アタシは音に驚いて少し遅れてパトカーのもとに着く。
リュウの隣に立つと、そこに見えたのは、血にまみれた拳銃を持った先生の手。
『・・・いやっ…!』
「梓紗、見るな」
リュウがアタシの顔を胸にうずめる。
メグは辛そうにしゃがみこみ。
数馬は吐きそうになっていた。
キンタとリュウはただ立ちつくしている。
リュウが見るなと言った瞬間、アタシは悟った。
『なんで…なんで、どう、してよ!』
リュウの胸の中でアタシは無意識のうちに叫んでいた。
リュウはさっきより強くうずめる。
助けたはずの先生が…どうしてこんなことに?
先生の最後の【ありがとう】がアタシの頭の中をぐるぐるめぐる。
結局アタシは、誰も救えなかった。
誰1人として救えなかった。
子供の探偵など、こんなに無力なのか。
アタシは無力すぎて叫ぶしかなかった。
頬には一粒の涙だけが流れ落ちた。
*第1話*~実践開始!戦慄の死の予言!死体消滅の謎を追え ④
「梓紗?!」
梓紗は突然倒れた。
苦しそうな動作もないし、きっとケルベロスの催眠だろう。
これほどケルベロスの催眠に安心したことはない。
「リュウ様。そんなに心配なさらないで下さい。ケルベロスの催眠です。
梓紗様が次に目を覚ました時にはここにいた記憶はなくなるようにしました」
『リュウが謝るコトじゃないよ』
梓紗にそう言われたとき心にひびが入った。
きっと梓紗は気づいている、僕が謝ったのは守れなかったコトだけじゃないことを。
でも気遣って気にしないふり、気付かないふりをしてくれたんだ。
梓紗に僕のことを話すことはできないんだ。
きっとそれを知ったら君は僕から離れて行く。それだけが怖い。
「お前ら、何で梓紗を巻き込んだ?何が目的だ」
「大丈夫ですよリュウ様。梓紗様に危害、ましてや傷もつけません。
おじい様から通達が届いてると言ったじゃありませんか。今回の事件には関わらないようにと」
「…関わったら梓紗に何かする気か…?」
「そのようなご命令はきておりません…が、どうしましょうか」
「さっきも言った。そういうことなら余計に引き下がれないって。
梓紗に何かしてみろ、僕がただじゃおかない。守りとおしてみせる」
梓紗は僕が守る。こんなに愛しい人をこいつらに壊されてたまるか。
事件だって、解決する。お前達の思い通りなんかにさせない。
僕は梓紗を抱きかかえ、その場を後にした。
ユリエがずっと僕を睨んでいたのは…視線で分かる。
…目が覚めた。
はっきりと分かる、ここはミッションルーム。
アレ?さっきまでリュウと事件現場の調査を…。
アタシはソファーに足をたたんで寝ている。
隣を見れば、メグ、リュウ、数馬がアタシを覗いてる。
「梓紗?!大丈夫!?」
『あ、だ、大丈夫だけど…アタシどうしたの?』
「事件現場で倒れたんだ。貧血とか熱中症とかだと思う」
あれ?そっか。
アタシは倒れたからリュウがミッションルームに連れてきてくれたのか。
『そっか…ありがと、ごめんねリュウ』
「ううん」
「梓紗ぁ~、心配したんだからぁ~っ!」
メグが泣きそうな顔で抱きつく。
『えー、ありがとうー。でもメグおおげさだよーっ』
「リュウが梓紗を抱えて入って来た時はビックリしたんだからね!
ホント、最初は分かんなくて「何やってんだ?」って思ったけど…」
「梓紗でも、倒れるんだね」
『何よ数馬』
「別に?」
「でも、入って来た時のリュウ、結構動揺してたよね。梓紗抱えてたのにはビックリだけど」
リュウが動揺かぁ。
それ、ちょっと見たかったかも、とかって。
アタシ重いのに…ずっと抱えてくれたのかな?
『リュウ、アタシ重くなかった?』
「大丈夫、重くなかったよ。暑かったし、仕方ないよ」
良かったぁーと2人ともアタシから離れた。
すると、リュウがストンとソファーに座る。
「無事でよかったよ」
と、アタシの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
リュウの顔はホントに安心しきってるような顔だった。
「あ、メール」
メグが携帯を見る。
「…キュウからだ」
『なんだって?』
「今、佐々木さんの家の前で見張りしてるから、メグも来ない?
僕と2人が嫌だったら梓紗も誘っていーよ、だって」
『アタシ、行かなくていいよね?』
「何言ってんの、行くに決まってるっ!!」
なんだかんだ言って、キュウに誘われて嬉しいんだよね、メグ。
アタシ、絶対行かない方がいいと思うんだけどなぁ。
メグには逆らえないし、隙を見計らって1人で抜けるか。
リュウも行かない?って言ったら「僕はまだ調べることあるから」って、
ちょっと笑って言ったから無理に誘えなかった。
メグは途中家に寄って浴衣に着替えた。
キュウに見せるの?って言ったら「違う!気分、気分!」って…誤魔化しきれてないよ。
キュウ、発見!
佐々木さん家の前の神社の石段で携帯持ってる。
なんか呟いてるみたいだけど…通りかかるの、アタシ達で良かったね。
「キュウ見ぃっけー♪じゃーん、可愛い?」
「…何その格好!」
「…、可愛くないんだ」
「や、かわいいよ、すっごい可愛いよ!でもなんで浴衣着てこんなとこいんの?」
メグは可愛いって言われたの、嬉しいのかな。
顔がすごい笑ってる。
『メグねぇ、キュウに見せるって張り切ってたんだよーっ?』
「違うわよ!梓紗変なこと言わないでよ!ただの冷やかし。
キュウ1人じゃ寂しがってるかなぁと思って」
「いや、別に?遊びに来てるわけじゃないんだからさー」
メグがキュウの隣に座ったので、アタシはメグの隣に座る。
メグが口を開く。
「…ねぇ、胴真っ二つって、あれ本気かなぁ」
胴体真っ二つっていうのは西村さんのノートに書かれていた内容。
次に殺される人は胴を2つにされて殺されるらしい。
人1倍死体が苦手なだけあって身震いがする。
こんなんで探偵やってけるかな?
「…どんな理由があろうと、人間がそんな残忍なことできるなんて、僕は信じたくない」
キュウの強い意志が伝わる。
なんだかんだ言ったって、キュウだってちゃんと考えてるもんね。
それ以降はみんな黙って会話が無くなり、沈黙が続く。
メグ、今日色々あって疲れたのかな?
うとうとしてきてるなぁと思ってたらキュウの肩に寄りかかって眠っちゃった。
キュウはビックリしてたけど、そのままにしてあげようと思ったのかな。
思わず、2人の幸せに頬が緩んだ。
『キュウ、嬉しいねー?浴衣だし、可愛いもんねー?』
「え、な、何だよ梓紗!」
微笑ましいのも束の間。
道路をはさんだ向かいの家から声が飛び出した。
「刑事さん!まどかがっ…まどかがいなくなったんです!!」
「何ィ?!」
アタシはすぐ立ち上がった。
キュウはメグを起こし、アタシ達は諸星さんのとこへ向かった。
「刑事さん!」
「…、またお前らか」
『そんなコト言ってる場合ですか?!何が起こったんですか?!』
「佐々木まどかが家から消えた!」
「え…、みんなにも連絡しなきゃっ!!」
アタシ達は携帯を取り出すと、それぞれ連絡を取り合う。
すると、1台のタクシーが止まった。
中から出てきたのは昼に話した文芸部の顧問の先生。
「先生!」
「どうしてあなた達ここに!?」
『説明はあとでします!どうしたんですか?!』
「さっき佐々木さんから電話があって、泣きながら助けてほしいって!」
『佐々木さんが…?』
アタシはこの時から何かが矛盾していると感づいた。
根拠は無い、…探偵の勘。
すると、先生の携帯が鳴りだす。
画面には、「まどか」の文字が。先生は諸星さんに携帯を渡した。
「もしもし、警察だ!いまどこだ、どこにいる?!」
【律子が殺された部屋です…早く助けて!】
電話はそこで切れる。
「あの子達、どこにいるんですか?!無事なんですか?!」
「岡田律子の死体が発見された部屋です!」
なんだろう。やっぱりどこか矛盾してる。
何だ、何かがひっかかってる…なんだ、何だ??
猫田さんが向こうから走ってくる。
「どうした!?」
「裏口から出たようです!!」
「よし、秋葉原へ強行だ!」
「私も一緒に行きます!」
「梓紗、キュウ?!何してんの、一緒に行くわよっ!」
「え、あ、うん!」
『あ、ごめん!』
考えてるアタシの腕を引っ張るメグ。
キュウもどこか不自然に感じたのか少し黙ってたみたい。
多分、メグに腕を引っ張られるまでずっと考えてたかも。
アタシ達はパトカーで佐々木さんのいる、岡田さんが殺害された部屋へ向かう。
岡田さんが殺害されたビルに着くと、それぞれ手に懐中電灯を持ち、
奥へ奥へ進んでいく。
「警察だ!誰か居るか?!」
諸星さんがドアを開ける。
諸星さんが懐中電灯を部屋にまわす。
ある1点に向けると、そこには目を閉じ、口元から血が流れている佐々木さん。
死んでた。どうしよう。生きてる時に少しでも関わりがあった人だよ?
どうしよう、どうしよう。死んでる、ヤダ、信じたくない、守れなかった。
気付く。佐々木さんの下半身が無い…!!!
「、諸星さん」
猫田さんの声で我に返る。猫田さんの灯りの先には佐々木さんの下半身。
叫びそうだった。あんなの、残酷すぎる。誰がこんなコトを…。
いやだよ、こんな殺され方…残酷すぎるよ…。いや、いやだ、いやだ!
アタシは気づく、メグの呼吸が荒い。
『メグ?大丈夫?』
メグは小さく頷くと、ゆっくりとふらついた足で部屋を出て行った。
アタシは心配で部屋のドアの縁まで行くと、メグの悲鳴。
『メグ!メグ!!』
「メグ!どうした?!ねぇメグ!!」
すると、そこに先生が来る。
「早く外へ!」
「、はい!」
アタシとキュウと先生が立ち上がると、どこからか爆発音。
諸星さんと猫田さんは勢いよく走り出す。
ビルの外に出ると、パトカーが燃えている。
アタシ達がさっきまで乗っていたパトカー。
怖かった、あと少し出るのが遅かったら…死んでた?
パトカーから出る白い煙がアタシの恐怖を誘う。
「どうなってんだこりゃ?!」
「諸星さん、もしかしてこれ犯人が!」
「だとしたらそう遠くには行ってない!あとは調べろ、俺がげんばを補整する!」
「はい!」
猫田さんが走りだす、すると、諸星さんの携帯が鳴った。
「もしもし、…何!?、わかった、すぐに手配する!」
「どうしたんですか?!」
「大森恭子も家から消えたそうだ!」
『…嘘…』
諸星さんがビルへ走り出す、
するとキュウは立ち止まる。怯えているメグをあやしている先生を見つめてる。
「あの、メグを…お願いします」
アタシも先生に頭を下げる。頭をあげたとき、先生はしっかり頷いてくれた。
メグを頼める、って確信できた頷きだった。
死体がある部屋の前でちょっと立ちすくむと、キュウはそれに気づき、
「大丈夫?」と声をかけてくれた。
アタシは、大丈夫と微笑み中に入る決心を固める。
…あれ?
「…死体、消えた?!」
諸星さんが言うので初めて気づいた。
佐々木さんの遺体は跡形もなく消え去っていた。
アタシは安心したと同時に、やっぱりどこか矛盾していると察した。
何だ、何か決定的な矛盾が、見つからない。
「梓紗?!」
梓紗は突然倒れた。
苦しそうな動作もないし、きっとケルベロスの催眠だろう。
これほどケルベロスの催眠に安心したことはない。
「リュウ様。そんなに心配なさらないで下さい。ケルベロスの催眠です。
梓紗様が次に目を覚ました時にはここにいた記憶はなくなるようにしました」
『リュウが謝るコトじゃないよ』
梓紗にそう言われたとき心にひびが入った。
きっと梓紗は気づいている、僕が謝ったのは守れなかったコトだけじゃないことを。
でも気遣って気にしないふり、気付かないふりをしてくれたんだ。
梓紗に僕のことを話すことはできないんだ。
きっとそれを知ったら君は僕から離れて行く。それだけが怖い。
「お前ら、何で梓紗を巻き込んだ?何が目的だ」
「大丈夫ですよリュウ様。梓紗様に危害、ましてや傷もつけません。
おじい様から通達が届いてると言ったじゃありませんか。今回の事件には関わらないようにと」
「…関わったら梓紗に何かする気か…?」
「そのようなご命令はきておりません…が、どうしましょうか」
「さっきも言った。そういうことなら余計に引き下がれないって。
梓紗に何かしてみろ、僕がただじゃおかない。守りとおしてみせる」
梓紗は僕が守る。こんなに愛しい人をこいつらに壊されてたまるか。
事件だって、解決する。お前達の思い通りなんかにさせない。
僕は梓紗を抱きかかえ、その場を後にした。
ユリエがずっと僕を睨んでいたのは…視線で分かる。
…目が覚めた。
はっきりと分かる、ここはミッションルーム。
アレ?さっきまでリュウと事件現場の調査を…。
アタシはソファーに足をたたんで寝ている。
隣を見れば、メグ、リュウ、数馬がアタシを覗いてる。
「梓紗?!大丈夫!?」
『あ、だ、大丈夫だけど…アタシどうしたの?』
「事件現場で倒れたんだ。貧血とか熱中症とかだと思う」
あれ?そっか。
アタシは倒れたからリュウがミッションルームに連れてきてくれたのか。
『そっか…ありがと、ごめんねリュウ』
「ううん」
「梓紗ぁ~、心配したんだからぁ~っ!」
メグが泣きそうな顔で抱きつく。
『えー、ありがとうー。でもメグおおげさだよーっ』
「リュウが梓紗を抱えて入って来た時はビックリしたんだからね!
ホント、最初は分かんなくて「何やってんだ?」って思ったけど…」
「梓紗でも、倒れるんだね」
『何よ数馬』
「別に?」
「でも、入って来た時のリュウ、結構動揺してたよね。梓紗抱えてたのにはビックリだけど」
リュウが動揺かぁ。
それ、ちょっと見たかったかも、とかって。
アタシ重いのに…ずっと抱えてくれたのかな?
『リュウ、アタシ重くなかった?』
「大丈夫、重くなかったよ。暑かったし、仕方ないよ」
良かったぁーと2人ともアタシから離れた。
すると、リュウがストンとソファーに座る。
「無事でよかったよ」
と、アタシの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
リュウの顔はホントに安心しきってるような顔だった。
「あ、メール」
メグが携帯を見る。
「…キュウからだ」
『なんだって?』
「今、佐々木さんの家の前で見張りしてるから、メグも来ない?
僕と2人が嫌だったら梓紗も誘っていーよ、だって」
『アタシ、行かなくていいよね?』
「何言ってんの、行くに決まってるっ!!」
なんだかんだ言って、キュウに誘われて嬉しいんだよね、メグ。
アタシ、絶対行かない方がいいと思うんだけどなぁ。
メグには逆らえないし、隙を見計らって1人で抜けるか。
リュウも行かない?って言ったら「僕はまだ調べることあるから」って、
ちょっと笑って言ったから無理に誘えなかった。
メグは途中家に寄って浴衣に着替えた。
キュウに見せるの?って言ったら「違う!気分、気分!」って…誤魔化しきれてないよ。
キュウ、発見!
佐々木さん家の前の神社の石段で携帯持ってる。
なんか呟いてるみたいだけど…通りかかるの、アタシ達で良かったね。
「キュウ見ぃっけー♪じゃーん、可愛い?」
「…何その格好!」
「…、可愛くないんだ」
「や、かわいいよ、すっごい可愛いよ!でもなんで浴衣着てこんなとこいんの?」
メグは可愛いって言われたの、嬉しいのかな。
顔がすごい笑ってる。
『メグねぇ、キュウに見せるって張り切ってたんだよーっ?』
「違うわよ!梓紗変なこと言わないでよ!ただの冷やかし。
キュウ1人じゃ寂しがってるかなぁと思って」
「いや、別に?遊びに来てるわけじゃないんだからさー」
メグがキュウの隣に座ったので、アタシはメグの隣に座る。
メグが口を開く。
「…ねぇ、胴真っ二つって、あれ本気かなぁ」
胴体真っ二つっていうのは西村さんのノートに書かれていた内容。
次に殺される人は胴を2つにされて殺されるらしい。
人1倍死体が苦手なだけあって身震いがする。
こんなんで探偵やってけるかな?
「…どんな理由があろうと、人間がそんな残忍なことできるなんて、僕は信じたくない」
キュウの強い意志が伝わる。
なんだかんだ言ったって、キュウだってちゃんと考えてるもんね。
それ以降はみんな黙って会話が無くなり、沈黙が続く。
メグ、今日色々あって疲れたのかな?
うとうとしてきてるなぁと思ってたらキュウの肩に寄りかかって眠っちゃった。
キュウはビックリしてたけど、そのままにしてあげようと思ったのかな。
思わず、2人の幸せに頬が緩んだ。
『キュウ、嬉しいねー?浴衣だし、可愛いもんねー?』
「え、な、何だよ梓紗!」
微笑ましいのも束の間。
道路をはさんだ向かいの家から声が飛び出した。
「刑事さん!まどかがっ…まどかがいなくなったんです!!」
「何ィ?!」
アタシはすぐ立ち上がった。
キュウはメグを起こし、アタシ達は諸星さんのとこへ向かった。
「刑事さん!」
「…、またお前らか」
『そんなコト言ってる場合ですか?!何が起こったんですか?!』
「佐々木まどかが家から消えた!」
「え…、みんなにも連絡しなきゃっ!!」
アタシ達は携帯を取り出すと、それぞれ連絡を取り合う。
すると、1台のタクシーが止まった。
中から出てきたのは昼に話した文芸部の顧問の先生。
「先生!」
「どうしてあなた達ここに!?」
『説明はあとでします!どうしたんですか?!』
「さっき佐々木さんから電話があって、泣きながら助けてほしいって!」
『佐々木さんが…?』
アタシはこの時から何かが矛盾していると感づいた。
根拠は無い、…探偵の勘。
すると、先生の携帯が鳴りだす。
画面には、「まどか」の文字が。先生は諸星さんに携帯を渡した。
「もしもし、警察だ!いまどこだ、どこにいる?!」
【律子が殺された部屋です…早く助けて!】
電話はそこで切れる。
「あの子達、どこにいるんですか?!無事なんですか?!」
「岡田律子の死体が発見された部屋です!」
なんだろう。やっぱりどこか矛盾してる。
何だ、何かがひっかかってる…なんだ、何だ??
猫田さんが向こうから走ってくる。
「どうした!?」
「裏口から出たようです!!」
「よし、秋葉原へ強行だ!」
「私も一緒に行きます!」
「梓紗、キュウ?!何してんの、一緒に行くわよっ!」
「え、あ、うん!」
『あ、ごめん!』
考えてるアタシの腕を引っ張るメグ。
キュウもどこか不自然に感じたのか少し黙ってたみたい。
多分、メグに腕を引っ張られるまでずっと考えてたかも。
アタシ達はパトカーで佐々木さんのいる、岡田さんが殺害された部屋へ向かう。
岡田さんが殺害されたビルに着くと、それぞれ手に懐中電灯を持ち、
奥へ奥へ進んでいく。
「警察だ!誰か居るか?!」
諸星さんがドアを開ける。
諸星さんが懐中電灯を部屋にまわす。
ある1点に向けると、そこには目を閉じ、口元から血が流れている佐々木さん。
死んでた。どうしよう。生きてる時に少しでも関わりがあった人だよ?
どうしよう、どうしよう。死んでる、ヤダ、信じたくない、守れなかった。
気付く。佐々木さんの下半身が無い…!!!
「、諸星さん」
猫田さんの声で我に返る。猫田さんの灯りの先には佐々木さんの下半身。
叫びそうだった。あんなの、残酷すぎる。誰がこんなコトを…。
いやだよ、こんな殺され方…残酷すぎるよ…。いや、いやだ、いやだ!
アタシは気づく、メグの呼吸が荒い。
『メグ?大丈夫?』
メグは小さく頷くと、ゆっくりとふらついた足で部屋を出て行った。
アタシは心配で部屋のドアの縁まで行くと、メグの悲鳴。
『メグ!メグ!!』
「メグ!どうした?!ねぇメグ!!」
すると、そこに先生が来る。
「早く外へ!」
「、はい!」
アタシとキュウと先生が立ち上がると、どこからか爆発音。
諸星さんと猫田さんは勢いよく走り出す。
ビルの外に出ると、パトカーが燃えている。
アタシ達がさっきまで乗っていたパトカー。
怖かった、あと少し出るのが遅かったら…死んでた?
パトカーから出る白い煙がアタシの恐怖を誘う。
「どうなってんだこりゃ?!」
「諸星さん、もしかしてこれ犯人が!」
「だとしたらそう遠くには行ってない!あとは調べろ、俺がげんばを補整する!」
「はい!」
猫田さんが走りだす、すると、諸星さんの携帯が鳴った。
「もしもし、…何!?、わかった、すぐに手配する!」
「どうしたんですか?!」
「大森恭子も家から消えたそうだ!」
『…嘘…』
諸星さんがビルへ走り出す、
するとキュウは立ち止まる。怯えているメグをあやしている先生を見つめてる。
「あの、メグを…お願いします」
アタシも先生に頭を下げる。頭をあげたとき、先生はしっかり頷いてくれた。
メグを頼める、って確信できた頷きだった。
死体がある部屋の前でちょっと立ちすくむと、キュウはそれに気づき、
「大丈夫?」と声をかけてくれた。
アタシは、大丈夫と微笑み中に入る決心を固める。
…あれ?
「…死体、消えた?!」
諸星さんが言うので初めて気づいた。
佐々木さんの遺体は跡形もなく消え去っていた。
アタシは安心したと同時に、やっぱりどこか矛盾していると察した。
何だ、何か決定的な矛盾が、見つからない。
*第1話*~実践開始!戦慄の死の予言!死体消滅の謎を追え ②
リュウを先頭に現場に到着。
ビルの目の前まで来ると、やっぱり怖い。
この中で人が殺された?考えただけで身震いがする。
「大丈夫」
リュウはアタシの肩を少し叩き、ちょっと笑顔を見せてら中に入って行った。
少し、楽になった気がする。「アリガト」。
事件現場にはあっさり入る事が出来た。
途中階段の奥に怖い人形みたいなの置いてあってすっごいビックリしたけど。
部屋の中に入る。
すると、死んだ岡田律子さんの死体の型があった。
ぞわっとして、本当にそこから抜け出したかった。
「…事件当時、入口のドアは内側から鍵はかけられ、この部屋に続くドアも閉まっていた」
「つまり…ドアは二重に閉まっていたってことだよね」
「そして、被害者のそばには部屋の鍵が」
「でも誰がその鍵を保管してたんだ?」
「このビルを管理してる不動産屋。そこで盗まれたみたい」
「…その鍵のコピー作れば密室もクソもねぇじゃん」
「それが、IDカードがなければコピーできない、特殊な鍵だったらしい」
みんなの言ってることはだいたい整理がつく。
アタシは怖くて、みんなの会話を聞いてることしかできなかった。
そんなアタシの様子に気づいたのかリュウは隣に来てくれた。
その時突然ドアの開く音がした。
みんながドアの方に反応し、一斉に振り返る。
リュウはアタシの手の甲を握ってくれてる。
ビックリしてリュウを見たけど、真っ直ぐドアを見てる。
かなりビックリしたけど安心したっていうのは本心。
あぁ、やっぱりリュウはアタシを安心させるのが得意だね。
すると不安から解放されたのも束の間。キュウが口を開く。
「…犯人は…何度も現場に訪れる、っていうよね…」
『え、犯人かもしれないってこと…変なこと言わないでよ、』
キュウは呟いたのも一瞬、キンタを前に押した。
「何だよ、何だよ」
「こういうときこそキンタの出番でしょ!?」
「もしものときはちゃんと骨拾うから!」
『キンタ、お願い、骨拾うからっ!』
「勝手に殺すなよっ!」
ドンドン近づく足音。
扉が開いた!キンタは一瞬の隙に入ってきた人を背負い投げ。
「いてててて、誰だ貴様!!!」
「お前こそ何者だ!」
「け、警視庁の諸星だっ!」
「…、刑事?!」
開いた警察手帳からして、嘘ではないことは確かだ。
「つまり、警察に協力を要請され、事件現状を調べるためにあそこに入り込んだ。
ってわけだな?」
「…あ、はい、そういうことです」
私達は警察署に連行さえて、さっきのことを説明させられていた。
外はもうすっかり暗くなっている。
アタシとキュウ以外、ぐったりだ。
「なるほどね…って納得すると思ってるのか!!」
刑事さんが扇子を持ったまま、机をドンと叩く。
アタシはちょっとビックリした。
「お前らみたいなガキにな、えぇ?助けを求めた覚えはねぇ!!」
「いやだから、それもっとえらい、えらーい人から、」
「もうよせ、」
キュウの言葉をキンタが遮った。
キンタの顔は、もう「くだらねぇ」というのが出ていた。
「どうせこいつら見かけでしか人を判断しねぇ。
バッジかざして威張るだけで、聞く耳なんか持たねぇーよ」
「貴様、桜田門にケンカ売ってるのか?!」
キンタが挑発したせいで刑事さんはキレちゃった。
一応ココ警察署だし、アタシらは何も悪いことしてないわけだし、
変なことする前に帰りたかったんだけどなー。
「諸星さん!」
1人の刑事が入ってきた。
その人はメグと目が合い、少し硬直する。メグは「あ、」と声を漏らしている。
その刑事さんは「いや、あのー実はですね」と諸星さんに話し始める。
でも目ではメグを追ってるコトからこの2人は知り合いだと確信。
すると諸星さんは「何だと?!」と目を大きくして驚いている。
何を聞いたんだろう??
「…警視庁からの通達だ。お前らをサポートしろってよ」
うはぁーっと、今までのグッタリ様が嘘のように、
みんな笑顔になる。(…リュウは別だけどね)
「ほーらっ!分かったらさっさと捜査資料見せろよっ!」
「ふざけるなっ!調べたかったらお前達で勝手にやれ!!」
諸星さんは怒って出て行ってしまった。
あとから来た刑事さんも困った顔して出て行った。
「…で、どうする??」
数馬が1番に口を開いた(珍しい)。
「…よーし!みんなで力を合わせて事件を解決しよう!」
『うん、それがいいよ!』
キュウが立ち上がってかなりの笑顔で叫ぶ。
アタシもそれがいいと思い、キュウに大賛成っ!!
…でもアタシとキュウ以外はまたもやグッタリ。
「時間の無駄遣いだ」
「あーあ」
「ほんっと、付き合ってらんない」
みんながのそのそと立ち上がって次々と部屋を出て行く。
リュウが部屋を出て行く時、少し目が合った。
ちょっと困ったような微笑みをして、ポケットに突っ込んでいる手を出し、
腰のあたりで小さく手を振って出て行っちゃった。
「ねぇ、何で?何でみんな一緒に調べないの?!」
「キュウ、梓紗。僕達は競争ゲームの中にいるんだよ」
「団先生の後継者は1人ってことだろ…?」
『わかってるよ、そんなの』
「だったらなおさらだ。Qクラスは仲良しグループなんかじゃない。ライバル同士なんだよ」
数馬は冷たくそう言い放ち出て行ってしまった。
そんなに冷たく言わなくたっていいじゃん…。
「自信ねぇならあの部屋で留守番でもやってろっ!」
キンタもメグも出て行ってしまった。
「…ねぇみんな!ライバルだけど…仲間でしょ?」
すると、出て行ったはずのメグが戻ってきて言った。
「梓紗の気持ちはいくらか分かるよ?でもキュウ、はっきり言ってウザい」
はっきり言ったねー。
アタシの気持ちはいくらか分かるってのも…ホントかな…??
実は、アタシもウザかったりしない?!
「そこまで言うなら梓紗と頑張るよっ!僕だってやる時はやるんだから!!
ね、梓紗、頑張ろうっ!!!」
『キュウ、無理しなくて…いいよ、悲しくなる」
「…うん」
次の日、キュウとメグが学校に編入して調査するって言うからアタシもそうすることにした。
岡田さんが通っていた高校の制服を着て調査っていうのは、
ちょっと慣れないのもあって恥ずかしい…。
「…ねぇ、昨日1人で調べるって言わなかったっけ??」
「1人じゃない!梓紗も一緒だよっ、メグ1人じゃ心細いかなーっと思って…」
「っていうか、ビビってんのキュウの方じゃん。私、梓紗と調べるからっ」
『え!?』
そう言ってメグはアタシの手を引っ張った。
キュウは後ろから早歩きでついてくる。
「ねぇ!僕達中学生だよ?!バレたらヤバいよ!」
「嫌なら帰んなさいよ。被害者は高校生だし、探るなら学校の友達が1番なのよっ」
メグは人差し指を振りながら話す。
そしたら、何かに気づいたのか向こうに行ってしまった。
すると後ろから「ねぇねぇあの子可愛くない?」との女子の先輩の声。
キュウがそれに反応する。
「隣の子誰?もしかして彼女?」
「えー嘘。でも可愛いし、いるかもねーっ!」
キュウはキョロキョロを繰り返す。
「あははは、こっち向いたっ」
「彼女の子も結構可愛くない?」
キョロキョロを繰り返しているうちにメグがいないことに気付く。
『キュウ、可愛いって褒められて嬉しがるのは分かるよ?』
「え、別に嬉しがってないよ」
『アタシをキュウの彼女にするのは、やめてほしいよね…」
「何それ!?」
「梓紗っ、こっち!」
メグがアタシを呼ぶ。
メグに近寄るとそこには体全身が映る大きな鏡。
「1度着てみたかったんだよねー、この学校の制服っ♪」
『メグって、ホント何着ても似合うよねっー、ね、キュウっ?』
「何で僕に言うの?ていうかホントにやる気あんの!?」
無事に編入も済み、放課後廊下を歩いていると、ある教室にたどり着いた。
『文芸部』と書いてある。
この部室はメグの話によると、殺された岡田さんが所属していたサークルらしい。
「失礼しまーっす!あの、岡田律子さんと親しかった人どなたはいませんか?」
メグは躊躇なく入って行き、いきなり聞き込み開始。
「いきなりかよ」
『メグ、いきなりそれはないっしょ』
「お前ら…誰だ?」
机に向かっていた男の人がこっちを見た。
おかっぱな頭で、ちょっと不気味な感じ。…ちょっとじゃないかも。
「…転校してきたばっかりの1年生でぇ…す」
「転校生が何で岡田のコト嗅ぎまわってる?」
『えっと…それは』
返事に困ったアタシとメグは両端からキュウの半袖の裾を掴んで、
前へ前へと押し出す(ごめんね、キュウ…)。
「あ、あの僕達文芸部に入部したいなーと思ってたんですけど、クラスの連中にリサーチしたら
部員が1人、1週間前に殺されたって言うじゃないですか。
おまけに密室殺人だって聞いて、その、ミステリー好きな僕らとしては、こう…
血が…うずいちゃって…」
キュウの必死の弁解。
「調べたって無駄だ。岡田は呪われたんだ」
『へ?呪われた?』
笑いそうになったアタシをキュウが腕を縦に振り、風の音で制す。
「ああ」
すると男の人は額に入った写真に近づいて行った。
額に入っているのはちょっとウェーブがかったセミロングの髪に、
賞状を持って満面の笑みで映っている綺麗な人。
「…西村静香の亡霊にね」
それを聞いてメグも笑いそうになってた。アタシだって堪えるの大変だったけど。
そしたらキュウがアタシの時と同じ動きでメグの笑いを制す。
『西村静香さんって…誰ですか?』
アタシは男の人に聞いた。
「文芸部のメンバーよ」
聞こえたのは明らかに女の人の声。
気がつかなかった…そこに人が寝てたなんて。
かなりダルそうに起き上がる姿…少し不気味…。
「1ヶ月前に亡くなったの」
2人の説明をまとめると、西村静香さんは1ヶ月前に転落事故で亡くなった、
この学校の生徒さんらしい。
警察の話によると、岡田さんの死体現場に西村さんのノートが落ちていた。
そのノートにはある話が描かれており、
【事故に見せかけて殺された少女の亡霊が真犯人である仲間達を次々復讐していく】
という内容だったみたい。
「亡くなった静香の呪いよ」
「…なんかヤバいよ、この2人」
「うん…アタシもそう思う…」
アタシとメグは小さい声で話した。キュウには睨まれちゃったけどね…。
「実はその物語には続きがあるらしいの。警察の話じゃあ、あと2人殺されるそうよ
同じ文芸部の仲間が…」
「…あの、その2人って…」
メグは言いかけたその時、突然部室のドアが開いた。
「2人とも、いくらオカルト好きだからって趣味悪いわよ」
入ってきたのは、2人の女の人。
「私達はただこの子達に事実を伝えてるだけよ」
「それじゃ、律子が静香を殺したみたいじゃないっ!」
「…佐々木まどか、何そんなにビクビクしてんだよ」
男の人が言うと、佐々木さんは黙ってしまった。
「何か身に覚えでもあるのかしら?」
「っ、あんたねぇ!!」
佐々木さんは手を挙げたが、女の人の腕で止められてる。
2人は腕を押し合い、睨みあっている。
すると、そこに顧問らしき女の人が入ってきた。
その人は気づいたように話しかける。
「あなた達、何してるの?」
それを聞いた佐々木さんと一緒に部屋に入ってきた女の子は出て行ってしまった。
「芳村さん?何かあったの?」
芳村さん…て言う人だったのか。芳村さんも何も答えず、男の人と出て行ってしまった。
「…貴方達は??」
「入部希望の1年生です…もしかして顧問の先生ですか?」
「…そうだけど」
顧問の先生は戸惑いながら答えた。
「あの、岡田律子さんが西村静香さんの亡霊に呪い殺されたって、どういう意味ですか?」
「え?」
『今、芳村さんたちに聞いてたんですけど…』
「文芸部で何かトラブルでもあったんですか?」
「どうしてそんなこと聞くの」
「純粋な好奇心です」
メグは淡々と先生を交渉していく。
メグの目に迷いはないように見えた。
「私、顧問っていっても名ばかりだし、聖とのプライベートには立ち入らないようにしてるの。
それに呪いだなんて…、」
女の人は部室を出ようと思ったのか、ドアの近くへ歩み寄る。
それを、キュウは止めた。
「ちょっと待って下さい!」
女の人は立ち止まってキュウの方へ振り返る。
「入部する前に内部事情を知っておきたいっていうか…、後々、立ち回り易いっていうか、
その…先輩達には絶対内緒にしておきます!何があったか教えてください、お願いします!」
キュウが深々と頭を下げる。
それに押され、アタシとメグも頭を下げる。
リュウを先頭に現場に到着。
ビルの目の前まで来ると、やっぱり怖い。
この中で人が殺された?考えただけで身震いがする。
「大丈夫」
リュウはアタシの肩を少し叩き、ちょっと笑顔を見せてら中に入って行った。
少し、楽になった気がする。「アリガト」。
事件現場にはあっさり入る事が出来た。
途中階段の奥に怖い人形みたいなの置いてあってすっごいビックリしたけど。
部屋の中に入る。
すると、死んだ岡田律子さんの死体の型があった。
ぞわっとして、本当にそこから抜け出したかった。
「…事件当時、入口のドアは内側から鍵はかけられ、この部屋に続くドアも閉まっていた」
「つまり…ドアは二重に閉まっていたってことだよね」
「そして、被害者のそばには部屋の鍵が」
「でも誰がその鍵を保管してたんだ?」
「このビルを管理してる不動産屋。そこで盗まれたみたい」
「…その鍵のコピー作れば密室もクソもねぇじゃん」
「それが、IDカードがなければコピーできない、特殊な鍵だったらしい」
みんなの言ってることはだいたい整理がつく。
アタシは怖くて、みんなの会話を聞いてることしかできなかった。
そんなアタシの様子に気づいたのかリュウは隣に来てくれた。
その時突然ドアの開く音がした。
みんながドアの方に反応し、一斉に振り返る。
リュウはアタシの手の甲を握ってくれてる。
ビックリしてリュウを見たけど、真っ直ぐドアを見てる。
かなりビックリしたけど安心したっていうのは本心。
あぁ、やっぱりリュウはアタシを安心させるのが得意だね。
すると不安から解放されたのも束の間。キュウが口を開く。
「…犯人は…何度も現場に訪れる、っていうよね…」
『え、犯人かもしれないってこと…変なこと言わないでよ、』
キュウは呟いたのも一瞬、キンタを前に押した。
「何だよ、何だよ」
「こういうときこそキンタの出番でしょ!?」
「もしものときはちゃんと骨拾うから!」
『キンタ、お願い、骨拾うからっ!』
「勝手に殺すなよっ!」
ドンドン近づく足音。
扉が開いた!キンタは一瞬の隙に入ってきた人を背負い投げ。
「いてててて、誰だ貴様!!!」
「お前こそ何者だ!」
「け、警視庁の諸星だっ!」
「…、刑事?!」
開いた警察手帳からして、嘘ではないことは確かだ。
「つまり、警察に協力を要請され、事件現状を調べるためにあそこに入り込んだ。
ってわけだな?」
「…あ、はい、そういうことです」
私達は警察署に連行さえて、さっきのことを説明させられていた。
外はもうすっかり暗くなっている。
アタシとキュウ以外、ぐったりだ。
「なるほどね…って納得すると思ってるのか!!」
刑事さんが扇子を持ったまま、机をドンと叩く。
アタシはちょっとビックリした。
「お前らみたいなガキにな、えぇ?助けを求めた覚えはねぇ!!」
「いやだから、それもっとえらい、えらーい人から、」
「もうよせ、」
キュウの言葉をキンタが遮った。
キンタの顔は、もう「くだらねぇ」というのが出ていた。
「どうせこいつら見かけでしか人を判断しねぇ。
バッジかざして威張るだけで、聞く耳なんか持たねぇーよ」
「貴様、桜田門にケンカ売ってるのか?!」
キンタが挑発したせいで刑事さんはキレちゃった。
一応ココ警察署だし、アタシらは何も悪いことしてないわけだし、
変なことする前に帰りたかったんだけどなー。
「諸星さん!」
1人の刑事が入ってきた。
その人はメグと目が合い、少し硬直する。メグは「あ、」と声を漏らしている。
その刑事さんは「いや、あのー実はですね」と諸星さんに話し始める。
でも目ではメグを追ってるコトからこの2人は知り合いだと確信。
すると諸星さんは「何だと?!」と目を大きくして驚いている。
何を聞いたんだろう??
「…警視庁からの通達だ。お前らをサポートしろってよ」
うはぁーっと、今までのグッタリ様が嘘のように、
みんな笑顔になる。(…リュウは別だけどね)
「ほーらっ!分かったらさっさと捜査資料見せろよっ!」
「ふざけるなっ!調べたかったらお前達で勝手にやれ!!」
諸星さんは怒って出て行ってしまった。
あとから来た刑事さんも困った顔して出て行った。
「…で、どうする??」
数馬が1番に口を開いた(珍しい)。
「…よーし!みんなで力を合わせて事件を解決しよう!」
『うん、それがいいよ!』
キュウが立ち上がってかなりの笑顔で叫ぶ。
アタシもそれがいいと思い、キュウに大賛成っ!!
…でもアタシとキュウ以外はまたもやグッタリ。
「時間の無駄遣いだ」
「あーあ」
「ほんっと、付き合ってらんない」
みんながのそのそと立ち上がって次々と部屋を出て行く。
リュウが部屋を出て行く時、少し目が合った。
ちょっと困ったような微笑みをして、ポケットに突っ込んでいる手を出し、
腰のあたりで小さく手を振って出て行っちゃった。
「ねぇ、何で?何でみんな一緒に調べないの?!」
「キュウ、梓紗。僕達は競争ゲームの中にいるんだよ」
「団先生の後継者は1人ってことだろ…?」
『わかってるよ、そんなの』
「だったらなおさらだ。Qクラスは仲良しグループなんかじゃない。ライバル同士なんだよ」
数馬は冷たくそう言い放ち出て行ってしまった。
そんなに冷たく言わなくたっていいじゃん…。
「自信ねぇならあの部屋で留守番でもやってろっ!」
キンタもメグも出て行ってしまった。
「…ねぇみんな!ライバルだけど…仲間でしょ?」
すると、出て行ったはずのメグが戻ってきて言った。
「梓紗の気持ちはいくらか分かるよ?でもキュウ、はっきり言ってウザい」
はっきり言ったねー。
アタシの気持ちはいくらか分かるってのも…ホントかな…??
実は、アタシもウザかったりしない?!
「そこまで言うなら梓紗と頑張るよっ!僕だってやる時はやるんだから!!
ね、梓紗、頑張ろうっ!!!」
『キュウ、無理しなくて…いいよ、悲しくなる」
「…うん」
次の日、キュウとメグが学校に編入して調査するって言うからアタシもそうすることにした。
岡田さんが通っていた高校の制服を着て調査っていうのは、
ちょっと慣れないのもあって恥ずかしい…。
「…ねぇ、昨日1人で調べるって言わなかったっけ??」
「1人じゃない!梓紗も一緒だよっ、メグ1人じゃ心細いかなーっと思って…」
「っていうか、ビビってんのキュウの方じゃん。私、梓紗と調べるからっ」
『え!?』
そう言ってメグはアタシの手を引っ張った。
キュウは後ろから早歩きでついてくる。
「ねぇ!僕達中学生だよ?!バレたらヤバいよ!」
「嫌なら帰んなさいよ。被害者は高校生だし、探るなら学校の友達が1番なのよっ」
メグは人差し指を振りながら話す。
そしたら、何かに気づいたのか向こうに行ってしまった。
すると後ろから「ねぇねぇあの子可愛くない?」との女子の先輩の声。
キュウがそれに反応する。
「隣の子誰?もしかして彼女?」
「えー嘘。でも可愛いし、いるかもねーっ!」
キュウはキョロキョロを繰り返す。
「あははは、こっち向いたっ」
「彼女の子も結構可愛くない?」
キョロキョロを繰り返しているうちにメグがいないことに気付く。
『キュウ、可愛いって褒められて嬉しがるのは分かるよ?』
「え、別に嬉しがってないよ」
『アタシをキュウの彼女にするのは、やめてほしいよね…」
「何それ!?」
「梓紗っ、こっち!」
メグがアタシを呼ぶ。
メグに近寄るとそこには体全身が映る大きな鏡。
「1度着てみたかったんだよねー、この学校の制服っ♪」
『メグって、ホント何着ても似合うよねっー、ね、キュウっ?』
「何で僕に言うの?ていうかホントにやる気あんの!?」
無事に編入も済み、放課後廊下を歩いていると、ある教室にたどり着いた。
『文芸部』と書いてある。
この部室はメグの話によると、殺された岡田さんが所属していたサークルらしい。
「失礼しまーっす!あの、岡田律子さんと親しかった人どなたはいませんか?」
メグは躊躇なく入って行き、いきなり聞き込み開始。
「いきなりかよ」
『メグ、いきなりそれはないっしょ』
「お前ら…誰だ?」
机に向かっていた男の人がこっちを見た。
おかっぱな頭で、ちょっと不気味な感じ。…ちょっとじゃないかも。
「…転校してきたばっかりの1年生でぇ…す」
「転校生が何で岡田のコト嗅ぎまわってる?」
『えっと…それは』
返事に困ったアタシとメグは両端からキュウの半袖の裾を掴んで、
前へ前へと押し出す(ごめんね、キュウ…)。
「あ、あの僕達文芸部に入部したいなーと思ってたんですけど、クラスの連中にリサーチしたら
部員が1人、1週間前に殺されたって言うじゃないですか。
おまけに密室殺人だって聞いて、その、ミステリー好きな僕らとしては、こう…
血が…うずいちゃって…」
キュウの必死の弁解。
「調べたって無駄だ。岡田は呪われたんだ」
『へ?呪われた?』
笑いそうになったアタシをキュウが腕を縦に振り、風の音で制す。
「ああ」
すると男の人は額に入った写真に近づいて行った。
額に入っているのはちょっとウェーブがかったセミロングの髪に、
賞状を持って満面の笑みで映っている綺麗な人。
「…西村静香の亡霊にね」
それを聞いてメグも笑いそうになってた。アタシだって堪えるの大変だったけど。
そしたらキュウがアタシの時と同じ動きでメグの笑いを制す。
『西村静香さんって…誰ですか?』
アタシは男の人に聞いた。
「文芸部のメンバーよ」
聞こえたのは明らかに女の人の声。
気がつかなかった…そこに人が寝てたなんて。
かなりダルそうに起き上がる姿…少し不気味…。
「1ヶ月前に亡くなったの」
2人の説明をまとめると、西村静香さんは1ヶ月前に転落事故で亡くなった、
この学校の生徒さんらしい。
警察の話によると、岡田さんの死体現場に西村さんのノートが落ちていた。
そのノートにはある話が描かれており、
【事故に見せかけて殺された少女の亡霊が真犯人である仲間達を次々復讐していく】
という内容だったみたい。
「亡くなった静香の呪いよ」
「…なんかヤバいよ、この2人」
「うん…アタシもそう思う…」
アタシとメグは小さい声で話した。キュウには睨まれちゃったけどね…。
「実はその物語には続きがあるらしいの。警察の話じゃあ、あと2人殺されるそうよ
同じ文芸部の仲間が…」
「…あの、その2人って…」
メグは言いかけたその時、突然部室のドアが開いた。
「2人とも、いくらオカルト好きだからって趣味悪いわよ」
入ってきたのは、2人の女の人。
「私達はただこの子達に事実を伝えてるだけよ」
「それじゃ、律子が静香を殺したみたいじゃないっ!」
「…佐々木まどか、何そんなにビクビクしてんだよ」
男の人が言うと、佐々木さんは黙ってしまった。
「何か身に覚えでもあるのかしら?」
「っ、あんたねぇ!!」
佐々木さんは手を挙げたが、女の人の腕で止められてる。
2人は腕を押し合い、睨みあっている。
すると、そこに顧問らしき女の人が入ってきた。
その人は気づいたように話しかける。
「あなた達、何してるの?」
それを聞いた佐々木さんと一緒に部屋に入ってきた女の子は出て行ってしまった。
「芳村さん?何かあったの?」
芳村さん…て言う人だったのか。芳村さんも何も答えず、男の人と出て行ってしまった。
「…貴方達は??」
「入部希望の1年生です…もしかして顧問の先生ですか?」
「…そうだけど」
顧問の先生は戸惑いながら答えた。
「あの、岡田律子さんが西村静香さんの亡霊に呪い殺されたって、どういう意味ですか?」
「え?」
『今、芳村さんたちに聞いてたんですけど…』
「文芸部で何かトラブルでもあったんですか?」
「どうしてそんなこと聞くの」
「純粋な好奇心です」
メグは淡々と先生を交渉していく。
メグの目に迷いはないように見えた。
「私、顧問っていっても名ばかりだし、聖とのプライベートには立ち入らないようにしてるの。
それに呪いだなんて…、」
女の人は部室を出ようと思ったのか、ドアの近くへ歩み寄る。
それを、キュウは止めた。
「ちょっと待って下さい!」
女の人は立ち止まってキュウの方へ振り返る。
「入部する前に内部事情を知っておきたいっていうか…、後々、立ち回り易いっていうか、
その…先輩達には絶対内緒にしておきます!何があったか教えてください、お願いします!」
キュウが深々と頭を下げる。
それに押され、アタシとメグも頭を下げる。
*第1話*~実践開始!戦慄の死の予言!死体消滅の謎を追え ①
久しぶりの休み。
休みっていってもどうせ暇だし、と思って
近くのレンタルビデオ屋に来てる。
よく見ると、見慣れた顔が…キュウだ。
キュウは『18歳未満立入禁止』のビデオコーナーを何気に覗いている。
はぁ…キュウがこんな奴だとは思わなかったよ。
『お客さん、貴方18歳未満ですよね?』
アタシはそう言ってキュウの肩を叩いた。
「うっわ、すみません、違うんで…梓紗?!」
「キュウもそんな人だったなんて…普通にショック…」
キュウは場の状況を理解したようで、手を左右に振り、
かなり必死の否定を始めた。
「違う、違う!僕、見てないからっ!」
『キュウがそういうのに興味あるとはねぇ~?』
「いやっ、だからっ、その!」
はぁ…と少しため息をついたふりして。
ホントはちょっとからかってるだけ。
『大丈夫、大丈夫。みんなには言わないからっ!』
「いや、別言う言わないの問題じゃなくて、違うって!」
すると、ジーパンの後ろポケットに入れている携帯が鳴る。
キュウもごそごそとポケットから携帯を取り出す。
「秋葉原万世橋前に金髪に黒サングラスの女がいる」
『尾行して証拠を押さえろ』
「え、今から?!」
キュウは驚いていたけど、アタシは携帯をしまい走り出す。
ちょうど暇だったし、いい運動になるっ。
キュウも大急ぎでアタシを追いかけてくる。
『大丈夫だって、そんなに急がなくても。
アタシの方が早く現場に着いたってメグには何にも言わないからっ♪』
「梓紗、もうその話やめてって!」
キュウもそろそろからかわれてることに気付いてる(つまんないの)。
秋葉原の街を全力で走ってるのなんて、アタシらくらいじゃない?
でも、これが楽しくてやめらんない。
走っていると向こうから男の人がきた。
アタシは間一髪のトコでよけたけど、すぐに気付いた。
『キンタ?!』
「キュウ、梓紗!なんでお前ら一緒なんだ?まさかデートとか言わねぇよな?」
『ばっか、何言ってんのキンタ!偶然会っただけ!』
「これって、実習?!それとも本番?!」
「なんだよ、もしかしてビビってんのか?」
「そんなんじゃないよ!」
『キュウ、そんなビビってたら証拠押さえられないよ?笑』
「無理しねぇで俺の後ろにでも隠れてろ!」
アタシ達はそのキンタの一声でまた走り出した。
キンタは私達、探偵学園のQクラスの中の唯一の大人。
私達の保護者であり、お兄さんであり…そんな存在。
キンタ、速い…。
キュウもいつの間にか足速くなってるし。
追いつけないよーっ!
アタシが着いた頃にはもう2人は万世橋に着いてた。
橋の影に隠れてる。そんなんで見つからないもんかな?
『速いよ、2人とも』
「梓紗が遅いんでしょっ、僕をからかった罰!」
「ああ?からかった?何の話だ?」
「ううん、なんでもない!」
そう言ってアタシは2人の間に入る。
そして、アタシも金髪サングラスの女の人を見た。
「よーし、他の連中まだみてぇだなぁ」
「そこのデコボコっ!目立ちすぎっ!!」
後ろから声がする。
声は知ってるけど、足元に憶えがない。
ゆっくり顔をあげると、
『メグッ!なにその格好ッ!!』
「お前、そんな格好してたら目立つだろっ、隠れろ!」
キンタはメグの腕を引っ張りメグを隠れさす。
「メッメッメッメグッ!どうしたのそこカッコ」
「お姉ちゃんの店の手伝い。私目当ての客が多くてさ~」
『うっわー、やっぱメグすごいね!』
「メグ、お前も呑気にアイスなんか食ってねぇで見ろよっ!」
メグはアタシにアイスを「ちょっとあげる」と言って持たせ、
後ろを振り返る。
アタシは「やったw」と一口パクリ。
うーんっ、冷たくておいしい。
キュウの視線が痛い
「何?食べたいの?」
「いやっ、別に欲しくないよっ!」
「…どうでもいいけど、行っちゃうよ??」
「「『あっ』」」
アタシはメグに「ありがとっ」と言ってアイスを返して走り出した。
メグは「うん」と笑顔で返してくれた。
Qクラスはアタシも入れて全員で6人。
その中で女の子はアタシとメグだけ。
だからメグはアタシにとって唯一の親友(メグはどう思ってるか分かんないけど…)。
何気にキュウと両想いなんだけど、お互い鈍感なんだよね。
メグは「瞬間記憶能力」っていう1度見たものは忘れないっていう能力を持っていて、
その能力のおかげで何度助かったことか…。
女の人はデパートに続くエスカレーターに乗る。
「俺向こう行くからっ」
キンタはデパートの反対側に走って行った。
アタシ達3人は少し間を置いてからエスカレーターに乗って追いかける。
…?今エスカレーターの外にリュウがいたような気がしたんだけど…。
きのせいかっ、気にしない気にしないっ♪
『・・・あれ?ここにしか通じてないはず…』
そこに女の人はいなかった。
キュウもメグもキョロキョロしてる。
向こう側から来たキンタも同じだ。
「梓紗っ、ちょっと来て」
『メグ?!』
メグはアタシを連れて人目のつかないトコでしゃべりだす。
「あの人、長い黒髪で黒いスーツの人」
『あの人がどうした?』
「あの人、さっきの金髪のサングラスの女よ」
『変装したってこと!?』
「うん、だけどマニキュアは変えられなかったみたいね」
『マヂで?!メグありがとう!行こっ♪』
アタシとメグはキュウとキンタを置いて店を出て女の人を追う。
木の影に隠れながら尾行を続ける。
「おぉっ」
『何?』
「当たっちゃったぁw」
『マヂで?!』
アタシはメグの食べていたアイスが当たったのにビックリして、
それ程でもないが、少し大きな声を出してしまった。
その声が聞こえたのか、女の人は振り向く。
アタシとメグはさっと木の影に隠れる。
…良かった、気付かれなかったみたい。
女の人を追い続けてると、細く狭い路地に入った。
道は2つに分かれている。女の人はどちらかに進んだが見当たらない。
「どっち行こうか」
『じゃぁ…アタシ右行くよっ』
「分かった、じゃぁ私は左ね。危なかったら逃げてね」
『メグも気をつけて』
手を振って別れた。アタシは全力疾走で女の人探す。
しばらく走っていると広い道路に出た。見失っちゃったかな。
少し辺りを見回すと、そこにはリュウの姿が。
リュウの前には女の人が。やっぱリュウすごい。
でも、メグがいない。見失っちゃったか、キュウ達のトコに戻ったか?
『リュウっ』
「梓紗」
リュウはこっちを振り向き。少し笑ってみせる。
でもリュウは他のQクラスのメンバーに笑顔を見せてるトコを見たことない。
アタシにだってホント滅多にしか笑ってくれないけどね。
「梓紗、行くぞ」
『うんっ』
リュウは頭がよくて、推理力はずば抜けて性格。
顔もカッコいいし、クールだけど優しい一面だってある。
今だってキュウ達が見つけられやすいように追跡マーカーを落としてる。
女の人はよく分からないビルの屋上でカバンを開いた。
中には驚く程たくさんの札束。リュウはそれを見てしっかり証拠をとる。
その時、キュウ、メグ、キンタ、数馬が走ってくる。
メグも数馬もキュウ達と合流できたんだ。
「リュウ、助かったよ追跡マーカー!」
「別に、授業で習ったことを実践しただけだ」
キュウは笑ってお礼を言ってるけど、リュウは無表情で女の人を見る。
そこがいいのかもしれないけどね。
『ねぇ、メグ。あの後どうしたの??』
「笑気ガス吸わされたし、当たり棒取られちゃったし、梓紗は大丈夫だった?」
『あ、うん、大丈夫だったっ。何で数馬はそんなローテンションなの?』
「何かね、[こんな初歩的なものに壊されるなんて…]ってカメラ壊されたらしいよーっ」
「…メグ、うるさいよ…」
数馬はパソコンとかのデジタル関係が得意ですごい技術を持ってる。
本人はデジタル関係が得意だから、アタシらに「アナログ」って言ってくるけどね。
でも数馬のおかげで助かってるコトもあるし、そこは許しとこう。
「女は?」
「カバンの中に札束が入ってた。証拠は押さえたよ」
「よしっ!じゃぁついでにあの女も取り押さえよう」
リュウはパッと前に出てキンタを止める。
「僕たちのミッションはもう終わりだ」
「教科書通りにやるだけじゃつまんねぇだろっ」
リュウが止めたのにも関わらずキンタはキュウに持っていた内輪を預けて飛び出す。
メグと数馬は「はぁ…」と呆れた様子でため息をついてる。
アタシも出ていかない方がいいと思うけどなぁ…。
「さあ、それを大人しくこっちに渡してもらおうか」
キンタが女の人に向かって言うと、しばらく経ってから女の人は走り出す。
それを止めようとキンタはカバンを掴むが足で落とされる。
キンタは一瞬驚いたがすぐに態勢を立て直し集中する。
この人強い。キンタとこんなまでに戦ってる。
キンタが抑えられた!
女の人がスカートをめくったかと思うとそこには小さなナイフが。
「うそぉ?!」
キンタの驚きをよそに女の人はキンタを刺す。
『あああっ!!!!』
キンタは苦しがって地面に寝転ぶ。突然過ぎて声が出ない私達。
「がはっ……うう…ってアレ?」
キンタが押さえていた胸には傷も血も刺された跡もない。
私達は驚いて女の人を見る。
するとナイフを自分の胸に刺している。…え??
女の人の口が開く。
「遠山!思いこみで行動するなといつも言ってるだろう」
「その声…七海先生?!」
女の人は二ヤリと笑い眼鏡をはずすと、首元に手を当て大胆にマスクを剝ぎとった。
そこには見慣れた七海先生の顔があらわれた。
「「「「「『ええっーー?!』」」」」」
七海先生は団先生の右腕で、いつも私達に色々教えてくれる。
探偵としての知識、技術、体術、色々。
「ったくお前ら!それでも団校長の後継者候補か!
俺が需要で教えた備考術ろくに実践できてないじゃないか!
…犯人は見落とす?」
内輪で仰いでいたキュウは気づいたように目をそらす。
「油断して、返り討ちにあう?」メグはふいと横を見る。
「自分の能力を過信する?」数馬は下を向き眼鏡をあげる。
「大声は出すし、結局は人頼り?」アタシは組んでいた右腕を動かしあごに指を置く。
「最後は敵を甘く見て命を落としそうになる…か」キンタは黙って七海先生を見る。
「状況を冷静に判断して最善の行動をとれたのは天草だけだ!」
みんなの視線がリュウへ。
「ったく、どうした?…あ、俺の変装術にそんなに驚いたか。
やる時は徹底的にやらないとな!例えばこーんな感じ??」
そう言って七海先生は後ろを向き、スカートをめくり上げた。
いいよ、別にそこまでやらなくて。
そしたらリュウがさりげなくアタシの前に立つ。その優しさにちょっと笑えた。
『リュウ、ありがと』
「…別に」
リュウは素気ない風に見えるけど、ホントはすごく優しいの知ってる。
こんなコトできるのは、当たり前だけど優しさがないとできないでしょ??
「あのぉ…そんな情けない恰好で…自慢されても…」
「…っていうか、ただの変態だろ」
「私の当たり棒!返してよ」
キュウ、数馬、メグは順に不満をぶつける。
少し沈黙が流れると七海先生の携帯が鳴る。
「はい、七海・・・団先生?!」
団先生って聞くだけでアタシ達の背筋は伸びる。
それだけ尊敬してるってこと。
「Qクラスのメンバーをですか?…分かりました」
電話を切ると「はぁ…」と深いため息をつき、振り返って、
「今すぐここへ行け」と紙をつきだす。
その紙には「ダーツバーLOOP」と書いてある。
私達は一見怪しげそうなその店に向かった。
突然ダーツバーに行けだなんて、急にも程がある。
七海先生に言われてきた場所はやっぱり正真正銘のダーツバー。
キュウはみんなより好奇心旺盛なのか部屋をドンドン入っていく。
店の女の人が「左横の扉です。非常ボタンを押してください」と説明してくれた。
少し狭い通路を進むと小さな扉があった。
キュウは開けれなくて困っている。リュウがそっとボタンを押すと、
キュウを先頭にみんな入っていく。
『いって』
「何ぶつけてんだ、バカ」
扉がちっちゃくて頭をぶつけた。後ろを歩いていたキンタに内輪で叩かれる。
キンタにバカ言われたら、終わりだって思ってたのに…。
キュウが部屋の電気をつける。
『おっぉーっ』
それぞれみんなが感嘆の声を漏らす。
その部屋はダーツバーのどこにこんな部屋隠してるんだってくらい広くて。
大きな本棚にはたくさんの本。
椅子やソファーや書斎。すっごく素敵な部屋だった。
「ここが団探偵事務所のミッションルームか」
キュウが机に座りながら嬉しそうに言う。
「すっごぉーいっ!家出したらココ泊っちゃおっ♪」
メグはソファーに座りながら辺りを見渡す。
リュウはひたすら本をめくってる。
アタシは色々探検、探検っ♪
おおーっと言いながらキンタは椅子に腰掛ける。
「みんな!」
数馬は叫んだ。書斎の上にあるDVDを見つけたみたい。
私達はすぐに部屋を暗くし、すぐに再生した。
映ったのは団先生。座っていた私達は一斉に立つ。
「御機嫌よう。今、君達がいるその部屋は、私がまだ駆け出しのころ事務所として
使用していた場所、つまり…私の原点だ。今後、その部屋は君達の教室だと思ってくれ。
今回、その部屋を提供したのは他でもない。君達にある事件を調査してもらうためだ。
1週間前、秋葉原の雑居ビルで1人の女子高生の死体が発見された。
被害者の名前は岡田律子。3年生だ」
資料映像として、殺害現場と死体が映し出された。
本物だった。今まで人間がこんな顔して死んでるの、見たことない。
何か、すごく怖かった。
「死因は刺殺による出血死。警察は殺人事件として調査を続けたが、すぐに行き詰った。
殺害現場となった部屋の中に鍵が残され、完全な密室となっていたからだ。
警察からの調査協力の要請を受け、今回私は思い切って君達を派遣することにした。
それぞれに力を発揮して、事件を解決に導いてもらいたい…諸君らの健闘をを祈る」
…ここでDVDは終わった。
「…密室殺人……」
キュウの「殺人」という言葉がすごく怖かった。
初めての調査が殺害事件。突然すぎると思ったけど、やるしかない。
私達はすぐにでも殺害現場へ向かった。
久しぶりの休み。
休みっていってもどうせ暇だし、と思って
近くのレンタルビデオ屋に来てる。
よく見ると、見慣れた顔が…キュウだ。
キュウは『18歳未満立入禁止』のビデオコーナーを何気に覗いている。
はぁ…キュウがこんな奴だとは思わなかったよ。
『お客さん、貴方18歳未満ですよね?』
アタシはそう言ってキュウの肩を叩いた。
「うっわ、すみません、違うんで…梓紗?!」
「キュウもそんな人だったなんて…普通にショック…」
キュウは場の状況を理解したようで、手を左右に振り、
かなり必死の否定を始めた。
「違う、違う!僕、見てないからっ!」
『キュウがそういうのに興味あるとはねぇ~?』
「いやっ、だからっ、その!」
はぁ…と少しため息をついたふりして。
ホントはちょっとからかってるだけ。
『大丈夫、大丈夫。みんなには言わないからっ!』
「いや、別言う言わないの問題じゃなくて、違うって!」
すると、ジーパンの後ろポケットに入れている携帯が鳴る。
キュウもごそごそとポケットから携帯を取り出す。
「秋葉原万世橋前に金髪に黒サングラスの女がいる」
『尾行して証拠を押さえろ』
「え、今から?!」
キュウは驚いていたけど、アタシは携帯をしまい走り出す。
ちょうど暇だったし、いい運動になるっ。
キュウも大急ぎでアタシを追いかけてくる。
『大丈夫だって、そんなに急がなくても。
アタシの方が早く現場に着いたってメグには何にも言わないからっ♪』
「梓紗、もうその話やめてって!」
キュウもそろそろからかわれてることに気付いてる(つまんないの)。
秋葉原の街を全力で走ってるのなんて、アタシらくらいじゃない?
でも、これが楽しくてやめらんない。
走っていると向こうから男の人がきた。
アタシは間一髪のトコでよけたけど、すぐに気付いた。
『キンタ?!』
「キュウ、梓紗!なんでお前ら一緒なんだ?まさかデートとか言わねぇよな?」
『ばっか、何言ってんのキンタ!偶然会っただけ!』
「これって、実習?!それとも本番?!」
「なんだよ、もしかしてビビってんのか?」
「そんなんじゃないよ!」
『キュウ、そんなビビってたら証拠押さえられないよ?笑』
「無理しねぇで俺の後ろにでも隠れてろ!」
アタシ達はそのキンタの一声でまた走り出した。
キンタは私達、探偵学園のQクラスの中の唯一の大人。
私達の保護者であり、お兄さんであり…そんな存在。
キンタ、速い…。
キュウもいつの間にか足速くなってるし。
追いつけないよーっ!
アタシが着いた頃にはもう2人は万世橋に着いてた。
橋の影に隠れてる。そんなんで見つからないもんかな?
『速いよ、2人とも』
「梓紗が遅いんでしょっ、僕をからかった罰!」
「ああ?からかった?何の話だ?」
「ううん、なんでもない!」
そう言ってアタシは2人の間に入る。
そして、アタシも金髪サングラスの女の人を見た。
「よーし、他の連中まだみてぇだなぁ」
「そこのデコボコっ!目立ちすぎっ!!」
後ろから声がする。
声は知ってるけど、足元に憶えがない。
ゆっくり顔をあげると、
『メグッ!なにその格好ッ!!』
「お前、そんな格好してたら目立つだろっ、隠れろ!」
キンタはメグの腕を引っ張りメグを隠れさす。
「メッメッメッメグッ!どうしたのそこカッコ」
「お姉ちゃんの店の手伝い。私目当ての客が多くてさ~」
『うっわー、やっぱメグすごいね!』
「メグ、お前も呑気にアイスなんか食ってねぇで見ろよっ!」
メグはアタシにアイスを「ちょっとあげる」と言って持たせ、
後ろを振り返る。
アタシは「やったw」と一口パクリ。
うーんっ、冷たくておいしい。
キュウの視線が痛い
「何?食べたいの?」
「いやっ、別に欲しくないよっ!」
「…どうでもいいけど、行っちゃうよ??」
「「『あっ』」」
アタシはメグに「ありがとっ」と言ってアイスを返して走り出した。
メグは「うん」と笑顔で返してくれた。
Qクラスはアタシも入れて全員で6人。
その中で女の子はアタシとメグだけ。
だからメグはアタシにとって唯一の親友(メグはどう思ってるか分かんないけど…)。
何気にキュウと両想いなんだけど、お互い鈍感なんだよね。
メグは「瞬間記憶能力」っていう1度見たものは忘れないっていう能力を持っていて、
その能力のおかげで何度助かったことか…。
女の人はデパートに続くエスカレーターに乗る。
「俺向こう行くからっ」
キンタはデパートの反対側に走って行った。
アタシ達3人は少し間を置いてからエスカレーターに乗って追いかける。
…?今エスカレーターの外にリュウがいたような気がしたんだけど…。
きのせいかっ、気にしない気にしないっ♪
『・・・あれ?ここにしか通じてないはず…』
そこに女の人はいなかった。
キュウもメグもキョロキョロしてる。
向こう側から来たキンタも同じだ。
「梓紗っ、ちょっと来て」
『メグ?!』
メグはアタシを連れて人目のつかないトコでしゃべりだす。
「あの人、長い黒髪で黒いスーツの人」
『あの人がどうした?』
「あの人、さっきの金髪のサングラスの女よ」
『変装したってこと!?』
「うん、だけどマニキュアは変えられなかったみたいね」
『マヂで?!メグありがとう!行こっ♪』
アタシとメグはキュウとキンタを置いて店を出て女の人を追う。
木の影に隠れながら尾行を続ける。
「おぉっ」
『何?』
「当たっちゃったぁw」
『マヂで?!』
アタシはメグの食べていたアイスが当たったのにビックリして、
それ程でもないが、少し大きな声を出してしまった。
その声が聞こえたのか、女の人は振り向く。
アタシとメグはさっと木の影に隠れる。
…良かった、気付かれなかったみたい。
女の人を追い続けてると、細く狭い路地に入った。
道は2つに分かれている。女の人はどちらかに進んだが見当たらない。
「どっち行こうか」
『じゃぁ…アタシ右行くよっ』
「分かった、じゃぁ私は左ね。危なかったら逃げてね」
『メグも気をつけて』
手を振って別れた。アタシは全力疾走で女の人探す。
しばらく走っていると広い道路に出た。見失っちゃったかな。
少し辺りを見回すと、そこにはリュウの姿が。
リュウの前には女の人が。やっぱリュウすごい。
でも、メグがいない。見失っちゃったか、キュウ達のトコに戻ったか?
『リュウっ』
「梓紗」
リュウはこっちを振り向き。少し笑ってみせる。
でもリュウは他のQクラスのメンバーに笑顔を見せてるトコを見たことない。
アタシにだってホント滅多にしか笑ってくれないけどね。
「梓紗、行くぞ」
『うんっ』
リュウは頭がよくて、推理力はずば抜けて性格。
顔もカッコいいし、クールだけど優しい一面だってある。
今だってキュウ達が見つけられやすいように追跡マーカーを落としてる。
女の人はよく分からないビルの屋上でカバンを開いた。
中には驚く程たくさんの札束。リュウはそれを見てしっかり証拠をとる。
その時、キュウ、メグ、キンタ、数馬が走ってくる。
メグも数馬もキュウ達と合流できたんだ。
「リュウ、助かったよ追跡マーカー!」
「別に、授業で習ったことを実践しただけだ」
キュウは笑ってお礼を言ってるけど、リュウは無表情で女の人を見る。
そこがいいのかもしれないけどね。
『ねぇ、メグ。あの後どうしたの??』
「笑気ガス吸わされたし、当たり棒取られちゃったし、梓紗は大丈夫だった?」
『あ、うん、大丈夫だったっ。何で数馬はそんなローテンションなの?』
「何かね、[こんな初歩的なものに壊されるなんて…]ってカメラ壊されたらしいよーっ」
「…メグ、うるさいよ…」
数馬はパソコンとかのデジタル関係が得意ですごい技術を持ってる。
本人はデジタル関係が得意だから、アタシらに「アナログ」って言ってくるけどね。
でも数馬のおかげで助かってるコトもあるし、そこは許しとこう。
「女は?」
「カバンの中に札束が入ってた。証拠は押さえたよ」
「よしっ!じゃぁついでにあの女も取り押さえよう」
リュウはパッと前に出てキンタを止める。
「僕たちのミッションはもう終わりだ」
「教科書通りにやるだけじゃつまんねぇだろっ」
リュウが止めたのにも関わらずキンタはキュウに持っていた内輪を預けて飛び出す。
メグと数馬は「はぁ…」と呆れた様子でため息をついてる。
アタシも出ていかない方がいいと思うけどなぁ…。
「さあ、それを大人しくこっちに渡してもらおうか」
キンタが女の人に向かって言うと、しばらく経ってから女の人は走り出す。
それを止めようとキンタはカバンを掴むが足で落とされる。
キンタは一瞬驚いたがすぐに態勢を立て直し集中する。
この人強い。キンタとこんなまでに戦ってる。
キンタが抑えられた!
女の人がスカートをめくったかと思うとそこには小さなナイフが。
「うそぉ?!」
キンタの驚きをよそに女の人はキンタを刺す。
『あああっ!!!!』
キンタは苦しがって地面に寝転ぶ。突然過ぎて声が出ない私達。
「がはっ……うう…ってアレ?」
キンタが押さえていた胸には傷も血も刺された跡もない。
私達は驚いて女の人を見る。
するとナイフを自分の胸に刺している。…え??
女の人の口が開く。
「遠山!思いこみで行動するなといつも言ってるだろう」
「その声…七海先生?!」
女の人は二ヤリと笑い眼鏡をはずすと、首元に手を当て大胆にマスクを剝ぎとった。
そこには見慣れた七海先生の顔があらわれた。
「「「「「『ええっーー?!』」」」」」
七海先生は団先生の右腕で、いつも私達に色々教えてくれる。
探偵としての知識、技術、体術、色々。
「ったくお前ら!それでも団校長の後継者候補か!
俺が需要で教えた備考術ろくに実践できてないじゃないか!
…犯人は見落とす?」
内輪で仰いでいたキュウは気づいたように目をそらす。
「油断して、返り討ちにあう?」メグはふいと横を見る。
「自分の能力を過信する?」数馬は下を向き眼鏡をあげる。
「大声は出すし、結局は人頼り?」アタシは組んでいた右腕を動かしあごに指を置く。
「最後は敵を甘く見て命を落としそうになる…か」キンタは黙って七海先生を見る。
「状況を冷静に判断して最善の行動をとれたのは天草だけだ!」
みんなの視線がリュウへ。
「ったく、どうした?…あ、俺の変装術にそんなに驚いたか。
やる時は徹底的にやらないとな!例えばこーんな感じ??」
そう言って七海先生は後ろを向き、スカートをめくり上げた。
いいよ、別にそこまでやらなくて。
そしたらリュウがさりげなくアタシの前に立つ。その優しさにちょっと笑えた。
『リュウ、ありがと』
「…別に」
リュウは素気ない風に見えるけど、ホントはすごく優しいの知ってる。
こんなコトできるのは、当たり前だけど優しさがないとできないでしょ??
「あのぉ…そんな情けない恰好で…自慢されても…」
「…っていうか、ただの変態だろ」
「私の当たり棒!返してよ」
キュウ、数馬、メグは順に不満をぶつける。
少し沈黙が流れると七海先生の携帯が鳴る。
「はい、七海・・・団先生?!」
団先生って聞くだけでアタシ達の背筋は伸びる。
それだけ尊敬してるってこと。
「Qクラスのメンバーをですか?…分かりました」
電話を切ると「はぁ…」と深いため息をつき、振り返って、
「今すぐここへ行け」と紙をつきだす。
その紙には「ダーツバーLOOP」と書いてある。
私達は一見怪しげそうなその店に向かった。
突然ダーツバーに行けだなんて、急にも程がある。
七海先生に言われてきた場所はやっぱり正真正銘のダーツバー。
キュウはみんなより好奇心旺盛なのか部屋をドンドン入っていく。
店の女の人が「左横の扉です。非常ボタンを押してください」と説明してくれた。
少し狭い通路を進むと小さな扉があった。
キュウは開けれなくて困っている。リュウがそっとボタンを押すと、
キュウを先頭にみんな入っていく。
『いって』
「何ぶつけてんだ、バカ」
扉がちっちゃくて頭をぶつけた。後ろを歩いていたキンタに内輪で叩かれる。
キンタにバカ言われたら、終わりだって思ってたのに…。
キュウが部屋の電気をつける。
『おっぉーっ』
それぞれみんなが感嘆の声を漏らす。
その部屋はダーツバーのどこにこんな部屋隠してるんだってくらい広くて。
大きな本棚にはたくさんの本。
椅子やソファーや書斎。すっごく素敵な部屋だった。
「ここが団探偵事務所のミッションルームか」
キュウが机に座りながら嬉しそうに言う。
「すっごぉーいっ!家出したらココ泊っちゃおっ♪」
メグはソファーに座りながら辺りを見渡す。
リュウはひたすら本をめくってる。
アタシは色々探検、探検っ♪
おおーっと言いながらキンタは椅子に腰掛ける。
「みんな!」
数馬は叫んだ。書斎の上にあるDVDを見つけたみたい。
私達はすぐに部屋を暗くし、すぐに再生した。
映ったのは団先生。座っていた私達は一斉に立つ。
「御機嫌よう。今、君達がいるその部屋は、私がまだ駆け出しのころ事務所として
使用していた場所、つまり…私の原点だ。今後、その部屋は君達の教室だと思ってくれ。
今回、その部屋を提供したのは他でもない。君達にある事件を調査してもらうためだ。
1週間前、秋葉原の雑居ビルで1人の女子高生の死体が発見された。
被害者の名前は岡田律子。3年生だ」
資料映像として、殺害現場と死体が映し出された。
本物だった。今まで人間がこんな顔して死んでるの、見たことない。
何か、すごく怖かった。
「死因は刺殺による出血死。警察は殺人事件として調査を続けたが、すぐに行き詰った。
殺害現場となった部屋の中に鍵が残され、完全な密室となっていたからだ。
警察からの調査協力の要請を受け、今回私は思い切って君達を派遣することにした。
それぞれに力を発揮して、事件を解決に導いてもらいたい…諸君らの健闘をを祈る」
…ここでDVDは終わった。
「…密室殺人……」
キュウの「殺人」という言葉がすごく怖かった。
初めての調査が殺害事件。突然すぎると思ったけど、やるしかない。
私達はすぐにでも殺害現場へ向かった。