ドリーム小説
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第1話:実戦開始! 戦慄の死の予言!! 死体消滅の謎を追え
① ② ③ ④ ⑤ ⑥
第2話:神のメール? 記憶消失の謎!!
① ② ③ ④
第3話:小さな恋に魔の手が迫る!
① ② ③ ④
第4話:ネットの恐怖から仲間を救え
① ② ③ ④
第5話:ネットの恋!すれ違いの悲劇
① ② ③ ④
第6話:友情決裂?明かされた秘密!
① ② ③ ④
第7話:父との戦い!俺は友達を救う
① ② ③ ④
第8話:さよならなんて言わせない!
① ② ③ ④
第9話:父と仲間が教えてくれたこと
① ② ③ ④
第10話:最終決戦!戦いの幕が上がる
① ② ③ ④
第11話:最後の約束に込めた想い!
① ② ③ ④
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*第1話*~実践開始!戦慄の死の予言!死体消滅の謎を追え ⑤
次の日。
ミッションルームに入るとそこにはキュウと数馬の姿が。
「おはよう」と声をかけると昨日のことを話しこんでいたみたい。
リュウとメグとキンタはまだ来ていない。
メグ…昨日あれから見てないけど、大丈夫かな??
「何やってんだよ僕は…はぁ…彼女のそばにいながら、救えなかった…」
『キュウ、キュウが全部悪いんじゃないよ。
アタシだってメグの異変に気付いたのに…アタシが1番最初に気付いたのに…』
「…僕もショックだよ。こんなものを発見するなんて…」
さっきまで黙っていた数馬が口を開く。
テーブルの上にはキュウの…バッグ??
中から取り出したのはメイドさんが表紙のDVD。
もしかして…あの時の?!
まさか…借りてたなんて…ホント見損なうよ…。
「!何で人のカバン勝手にあさってんだよ!」
「キュウがメイド好きだったとは…やられたよ」
『嘘!キュウあの時借りてたの?!ホントに見てるだけだと思ってたのに…』
「ビデオ屋さんで人とぶつかったんだよ!」
『アタシが行ったときぶつかってなかったじゃんっ!』
「嘘もそこまでひねりがないと、逆におもしろいね!」
「梓紗が来る前だってば!嘘じゃないって!!」
すると、ミッションルームの扉が開いた。
キュウは慌ててDVDを服の下に隠す。
入ってきたのはメグとリュウ。
「一緒だったんだ!」
平然を装って話しかけるキュウは最高におもしろい。
堪えられずに笑顔でいたらキュウに睨まれた…。
『メグ、大丈夫??』
「心配かけてごめん」
「無理ないよ…あんなの見ちゃったら…梓紗は平気なの??」
リュウとちょっと目が合う。アタシは微笑んで、
「平気…って言えばウソになるけど…メグはアタシよりもっと辛いと思うから。
メグに比べたらアタシなんて…全然平気」
アタシはキュウにそう言うとリュウの方を向いた。
リュウは何を思ったかアタシと目が合った瞬間申し訳なさそうに目をそらした。
するとソファーに腰掛けたメグが口を開く。
「瞬間記憶能力ってさ、1度見たものは絶対に忘れないんだよね。
っていうか忘れたくても忘れられないの。…便利そうで意外とキツいんだよね」
アタシはメグの言葉を聞いてすごく重く感じた。
1度見たものは忘れられない。
今こうして4人で過ごしてる時もメグの記憶には残り続けるだろうけど…。
こういう時を忘れちゃうっていう怖さよりも、
あんなに残酷なものをいつまでも覚えていちゃうっていう怖さ…。
やっぱり瞬間記憶能力ってそんな軽いものじゃない。
メグはいつも元気で明るく振舞ってるけど…本当は辛いと思う。
メグは本当に強いなって、心から思った。
「昨日の話、メグに聞いたよ」
リュウが呟く。キュウは悔しそうに言う。
「情けないけど…何もできなかった」
「でも、だんだんおもしろくなってきたじゃないか」
「っ、おもしろいって…ゲームじゃないんだよ!?ひと1人死んだんだよ!」
キュウが怒鳴る。場は一気に張り詰める。
「僕が興味あるのは謎解きと犯人の正体だけだ。
だからこんなときでも思ってしまう。…謎よ、もっと深まれってね」
リュウ…が言う。
でも、リュウ、リュウだって…リュウはクールで素気ないけど…。
アタシだってそりゃ犯人の正体確かめたいけど…でもリュウだって…。
「ねぇ、死体消失のトリック、もう1度考えてみない??」
メグが場の空気を変えようと話をもちかける。
「…僕達が外に飛び出して、もう1度現場に戻るまで約3分。
その3分間で死体は跡形もなく消えた」
『たった3分…3分で死体を持ち去るなんて…無理だよね??
それに誰が何の目的で…』
「それ、やっぱり無理だよね??」
「それに、床に敷いてあったブルーシートや段ボールも…何で持ち去ったんだろう」
『シートと段ボールもって…余計に3分じゃ無理だよ』
「やっぱり…亡霊の呪い…「大体さぁ!!何でわざわざ死体を持ち去るわけ?
マギー審司じゃあるまいし。私達を驚かして何が楽しいのよ…」
「マギー審司…「参ったなーまだ密室トリックの謎も解けてないっていうのに」
さっきから数馬の発言はスルーされまくり。
しかも妙なとこにつけこんでくるし、大丈夫ですかー?
「『ああ、そっちの方はもう解決したよ』」
リュウとアタシの声がハモる。
ハモったのと解けたっていうのでみんなの目は丸くなる。
驚くみんなをよそにアタシ達は現場へと向かった。
「犯人はまず被害者を殺害し、そとから部屋の鍵をかけた。
そしてこの穴を利用して、遺体のそばまで鍵を運んだんだ」
リュウは穴を指差しながら説明する。
「でもどうやって?どんな道具を使ったんだよ」
『道具なんか必要ないんだよ』
「なんで?」
「この穴から鍵を戻してやるだけで、自動的に奥の部屋まで辿り着くんだ」
「そんな、鍵が勝手に歩いて行くとでも言うの?」
『うっわ、また数馬そんなアナログなこと言って!』
「たとえだよ、こんなコト本気で思ってるわけだいだろ?!」
「…歩いて行くんじゃない。転がっていくんだ」
リュウはちょっとムスッとした感じでアタシ達の言い合いを遮った。
リュウは少しメグを見ると、メグは持っていたアイスボックスから氷玉を取り出した。
なんで、真相を知ってるアタシに持たせてくれなかったんだろう…。
「え、氷??」
「よく見てろ」
リュウはそう言ってしゃがみこむと、床近くの壁の穴に氷玉を投げた。
だから、なんでアタシにやらせてくれないんだよう!
氷玉に沿ってアタシ達も部屋の中に入る。
「…なんで?なんで止まらないの??」
「…そうか!傾斜だ!!」
『そうなの。この部屋の床、見た目ではあんまりわかんないけど、
ある一点に向けて緩やかな傾斜になってるの』
「そして、この段ボールも、玉が転がっていくベクトルを邪魔しない位置に
計算して置いてあったんだ」
岡田さんが殺された部屋まで来ると、氷玉は止まった。
キュウはそれを拾い上げてメグに取られる。
「部屋の中は日中40度近くまで気温が上がる。氷が溶けて気化すれば床に鍵だけが残る」
『鍵が部屋の中にあれば密室殺人だと思っちゃうよね。
実はこれが密室殺人のトリックの正体なの』
満足げにアタシが言うとリュウは「全く…」という微笑みでアタシを眺めてた。
「リュウ、梓紗、すごい…!」
キュウは笑顔でアタシ達に言う。
メグは小さい声で「おめでたい奴」とつぶやく。まぁまぁ。
「喜ぶのは犯人の正体か死体消失のトリックが解けてからにしたら??」
『アレ?数馬くん、負け惜しみかなぁ??』
「悔しいねー数馬、リュウと梓紗に先越されて」
メグがからかうように数馬に言う。
メグが数馬に氷玉を投げる。
数馬はそれを受け取ると手の中で転がしながら言う。
「別に。僕が優先してたのは犯人探しだし」
「妙な占いにハマってたくせに」
「やるべきことはやったさ」
『占い?数馬、占いなんかやるの??何の占い??』
「あっ、メグ!僕占いなんてしてないから、いいね?」
メグは少し笑って「はいはい、言いませんよー」って。
数馬ってば、また変なコトやってたらしい。
深く探らないけど、何やってたんだか。
「西村静香のファンサイトで幻の遺作が話題になってたよ」
数馬が話を変えようと事件に関する情報を言い出す。
「彼女、新作書きあげてたの??」
「ああ。出版社に問い合わせたら、彼女、無くなる直前、非公式にメールを送ってたらしい。
【次の作品のコピーを学校の図書館に隠します。
それを発見できた方と今回は出版契約を交わします。
ヒントは決して読まれることのない作品です】ってね」
『ここでもまた謎を出題ねぇー』
「さすがミステリーの紹鴎、謎かけときたか」
「で、その原稿誰か見つけたの??」
キュウが興味津々に聞く。
「いや。各出版社はいろんな手を使って探したけど、未だに発見できずにいるんだって。
彼女のパソコンに原稿が残っている可能性もあったんだけど、亡くなったときに
クラッシュして確かめようがないみたい」
それを言い終えた数馬は氷玉をキュウに投げる。
「でも、誰にも読まれることのない本って言われても…」
誰にも読まれれることのない本…
「ねぇたとえば…『続きものの漫画を読んでて1巻だけ抜けてたらどうする??』…あっ。
ねぇ、梓紗、今僕全く同じこと言おうとしたんだけど…?」
アタシ達は急いで高校の図書室へ向かう。
数馬はミッションルームに戻って調べ物をするからってアタシ達とは別方向に歩きだした。
そっちはミッションルームの方向じゃなかったのが…気になったけど。
「答えは前・後編の作品で、前編が存在しないもの。
前篇読まなきゃ後編には進めないよね。あった!」
キュウが図書室にある本の在庫が詳しく表示されてるパソコンを操作する。
マウスで刺した本のタイトルは『亡者の棲家』。
その本の上巻は赤字で『紛失』を記されていた。
アタシはそそくさとその場を後にするリュウについていく。
リュウはすぐにその本を見つけ出し、ページをパラパラめくる。
するとメグが駆け寄ってくる。
アタシはリュウに近づいて指先で綺麗にめくられる本を見る。
最後にたどり着いた裏表紙の内側には破かれた跡が。
『ここに…あったんだね。破かれてる』
「…誰かがもう持ち去ってる」
「一体誰が……うわぁ!」
メグの驚いた声にビックリし振り返るとそこには文芸部の先輩、芳村さんの姿が。
アタシはホントにビックリしてリュウの肩に隠れる。
リュウもビックリしてたけど、アタシが隠れたのに気づくと意地悪な顔して笑った。
アタシはそっとリュウの肩から手を離して知らないふりをする。
「無理しなくていいのに」と少しバカにしながら言ってきた。
「無理なんてしてないしー」小さく言ったらリュウがまた笑った。
「嘘、もしかして先越されちゃったの??」
アタシ達は図書室の机に場所を移し話すことにした。
メグとキュウは椅子に座ってて、アタシとリュウが立って聞いてる。
芳村さんはメグとキュウの向かいに座る。
「その新作、誰か読んだことがある人いるんですか?」
「律子達は読んでたんじゃないかな?登校前によく読み直しやらされてたから。
それから・・・顧問の米山先生」
『え、あの先生も??』
「あの人、ああ見えて昔はミステリー作家目指していたそうよ。
そのために家庭も捨てたっていうんだから、半端じゃないわ」
「それで、デビューできたんですか?」
「結局才能なくて挫折しちゃったみたい。でも、批評は的確でね。
プライドの高い静香も、先生のアドバイスだけには耳を貸してたわ」
それを聞いた途端リュウは不思議な顔をして少し離れた所で電話をしだした。
・・・っ!
『ねぇ、パトカーの音。すぐ近くで聞こえない??』
「え?そんなの聞こえな…、ほんとだ!!」
アタシは尋常じゃない胸騒ぎが始まり、次の瞬間には走り出した。
気付くとキュウとメグがアタシを越して走り出す。
リュウは追いかけてきたようにアタシに追いつく。
ひたすら廊下を走る。騒がしい様子から…警察が学校に来てる。
「刑事さん…!!」
「ああ、またお前らか」
「何か起こったんですか??」
「大森恭子の死体が、ここで発見された」
大森さんが殺された??
どうして?どうして。アタシはまた1人助けられなかった。
岡田さんと佐々木さんが殺されたときにあんなに悔んだじゃない。
それが…また同じことを繰り返して…アタシ達は誰も助けられないまま。
「メグ…、もう見ない方が…」
「、え?」
「またパニック起こすかもしれないし…」
メグ、またパニック起こしちゃうのかな??
でも、毎回毎回死体見る度にパニック起こしちゃうんだったら…。
メグの体にも心にもいいことなんてないよね…。
やっぱりメグは見ない方が…いいのかな「何甘いこと言ってんだよ」
リュウが冷たいトーンで言う。
「メグの能力は生まれながらに授かったものだろ?それを生かさないでどうすんだよ」
「…、リュウはメグの怯えた姿を見てないからそういうことが言えるんだよ」
「だったら。探偵なんて目指すの、今すぐやめるんだな」
リュウの冷たく言い放った言葉がアタシの胸にも突き刺さる。
『リュウ、そこまで言わなくても』
「リュウ、誰にだって苦手なことや嫌なことはある。それを助け合うのが仲間だろ?」
「悪いけど僕にはそんなもの必要ない」
リュウはアタシを少し見た。
一瞬寂しそうに見えたけど…すぐに冷たい目に戻ってキュウを見る。
「僕はずっとそうやって生きてきたんだ」
すると、諸星さんが来る。
後ろでは担架が運ばれてる。嫌な予感が胸を走る。
「大森恭子だ。死因はおそらく…強殺だ」
諸星さんはゆっくりとかぶせられていたシーツをめくる。
アタシは甘えてられない、と担架から目を離さない。
所々内出血している大森さんの顔。
怖くて…動けなくて目がそらせなかった。
少し経つとメグは離れたところに行ってしまった。キュウは追いかける。
リュウがアタシに気付いてくれたのか、肩を抱き寄せてくれた。
アタシはハッと我に返り、メグがいないのに気づく。
辺りを見回すとメグとキュウが部屋の端にいる。
『…メグ……』
「大丈夫、メグにはキュウがいる。…大丈夫だから」
『…ありがとう、もう、大丈夫』
アタシはリュウに安心をもらい、落ち着いたところでキュウとメグに少し近づく。
『…メグ』
「…キュウ、梓紗。大丈夫だから」
「でも…」
「どうしても乗り越えなきゃいけないの。自分の力をちゃんと役に立てたいの」
キュウは少し戸惑っていたけど、すぐに言った。
「…わかった。メグはそう決めたんなら、もう止めない。
でもメグは1人じゃないから。僕も梓紗も…それからリュウもそばにいる」
メグは頷く。
メグが大森さんの死体の横で立ち止まると、ゆっくりと死体を見た。
パッと視線を移動させたかと思うと、すぐに辛そうな顔をした。
少し離れたところでしゃがみこんでしまった。
「…おかしいわ。佐々木さんと同じほくろがある」
メグが辛そうに言う。
アタシはそんなメグに我慢できなくなり、メグの隣にしゃがみ込む。
『…どういう意味??』
「…、切断されてた佐々木さんの下半身にも、大森さんと同じほくろがあったの」
同じほくろ…。
キュウはそれを聞き、死体に歩み寄る。
アタシは息がきれてるメグの背中をさする。
同じほくろ、無くなった死体、同時に持ち去られたブルーシートと段ボール。
ここまで来ると……そうか、そういうトリックか。
「…そうか。昨日の夜、僕達が見たのは、佐々木さんの死体なんかじゃなかった。
あれは、佐々木さんと大森さんが、それぞれ死体のパーツを演じていたものだったんだ」
「おい、それどういうことだよ」
キュウとの答え合わせ。
よし、すべてがアタシのと一致してる。
諸星さんがキュウに聞き返した。
「つまりマジックの、胴体切断のトリックです!
2人はそれぞれ上半身と下半身を段ボールに入れてただけなんです。
そして、あの車の爆破は恐らく僕達を誘い出すための罠だ。
2人は僕達が部屋から飛び出した直後、仕掛けから抜け出して現場から立ち去ったんです」
『ブルーシートや段ボールを現場から持ち去ったのもそのためだね』
「うん。警察に調べられたらトリックが水の泡だもん!」
キュウは優しくメグの方を向く。
「メグ、ありがとう。君のおかげでわかった」
「そんな単純な仕掛けに俺達引っ掛かったのか?」
諸星さんが不思議そうな顔をして聞く。
「最初の被害者の岡田律子さんは、ノートになぞられて殺されました。
だから僕達は佐々木さんもノートに書かれていたように、
胴体を切断されてしまったと思いこんでしまったんです。…巧妙な心理トリックです」
「でもなんでそんな面倒くさいことをしなくちゃいけないんだ?」
「…自分のアリバイを作るため」
突然リュウが口を開く。
「…そう。2人はきっと犯人に脅されてたんだと思う。
言う通りにしなければ、西村静香さんを殺したことを表沙汰にするって」
「…じゃぁ、真犯人の正体は…?」
メグは立ち上がるとキュウに真剣な表情で聞いた。
「…あの人以外、考えられない」
アタシ達は真犯人の行きそうな場所を調べ、急いで移動する。
次の日。
ミッションルームに入るとそこにはキュウと数馬の姿が。
「おはよう」と声をかけると昨日のことを話しこんでいたみたい。
リュウとメグとキンタはまだ来ていない。
メグ…昨日あれから見てないけど、大丈夫かな??
「何やってんだよ僕は…はぁ…彼女のそばにいながら、救えなかった…」
『キュウ、キュウが全部悪いんじゃないよ。
アタシだってメグの異変に気付いたのに…アタシが1番最初に気付いたのに…』
「…僕もショックだよ。こんなものを発見するなんて…」
さっきまで黙っていた数馬が口を開く。
テーブルの上にはキュウの…バッグ??
中から取り出したのはメイドさんが表紙のDVD。
もしかして…あの時の?!
まさか…借りてたなんて…ホント見損なうよ…。
「!何で人のカバン勝手にあさってんだよ!」
「キュウがメイド好きだったとは…やられたよ」
『嘘!キュウあの時借りてたの?!ホントに見てるだけだと思ってたのに…』
「ビデオ屋さんで人とぶつかったんだよ!」
『アタシが行ったときぶつかってなかったじゃんっ!』
「嘘もそこまでひねりがないと、逆におもしろいね!」
「梓紗が来る前だってば!嘘じゃないって!!」
すると、ミッションルームの扉が開いた。
キュウは慌ててDVDを服の下に隠す。
入ってきたのはメグとリュウ。
「一緒だったんだ!」
平然を装って話しかけるキュウは最高におもしろい。
堪えられずに笑顔でいたらキュウに睨まれた…。
『メグ、大丈夫??』
「心配かけてごめん」
「無理ないよ…あんなの見ちゃったら…梓紗は平気なの??」
リュウとちょっと目が合う。アタシは微笑んで、
「平気…って言えばウソになるけど…メグはアタシよりもっと辛いと思うから。
メグに比べたらアタシなんて…全然平気」
アタシはキュウにそう言うとリュウの方を向いた。
リュウは何を思ったかアタシと目が合った瞬間申し訳なさそうに目をそらした。
するとソファーに腰掛けたメグが口を開く。
「瞬間記憶能力ってさ、1度見たものは絶対に忘れないんだよね。
っていうか忘れたくても忘れられないの。…便利そうで意外とキツいんだよね」
アタシはメグの言葉を聞いてすごく重く感じた。
1度見たものは忘れられない。
今こうして4人で過ごしてる時もメグの記憶には残り続けるだろうけど…。
こういう時を忘れちゃうっていう怖さよりも、
あんなに残酷なものをいつまでも覚えていちゃうっていう怖さ…。
やっぱり瞬間記憶能力ってそんな軽いものじゃない。
メグはいつも元気で明るく振舞ってるけど…本当は辛いと思う。
メグは本当に強いなって、心から思った。
「昨日の話、メグに聞いたよ」
リュウが呟く。キュウは悔しそうに言う。
「情けないけど…何もできなかった」
「でも、だんだんおもしろくなってきたじゃないか」
「っ、おもしろいって…ゲームじゃないんだよ!?ひと1人死んだんだよ!」
キュウが怒鳴る。場は一気に張り詰める。
「僕が興味あるのは謎解きと犯人の正体だけだ。
だからこんなときでも思ってしまう。…謎よ、もっと深まれってね」
リュウ…が言う。
でも、リュウ、リュウだって…リュウはクールで素気ないけど…。
アタシだってそりゃ犯人の正体確かめたいけど…でもリュウだって…。
「ねぇ、死体消失のトリック、もう1度考えてみない??」
メグが場の空気を変えようと話をもちかける。
「…僕達が外に飛び出して、もう1度現場に戻るまで約3分。
その3分間で死体は跡形もなく消えた」
『たった3分…3分で死体を持ち去るなんて…無理だよね??
それに誰が何の目的で…』
「それ、やっぱり無理だよね??」
「それに、床に敷いてあったブルーシートや段ボールも…何で持ち去ったんだろう」
『シートと段ボールもって…余計に3分じゃ無理だよ』
「やっぱり…亡霊の呪い…「大体さぁ!!何でわざわざ死体を持ち去るわけ?
マギー審司じゃあるまいし。私達を驚かして何が楽しいのよ…」
「マギー審司…「参ったなーまだ密室トリックの謎も解けてないっていうのに」
さっきから数馬の発言はスルーされまくり。
しかも妙なとこにつけこんでくるし、大丈夫ですかー?
「『ああ、そっちの方はもう解決したよ』」
リュウとアタシの声がハモる。
ハモったのと解けたっていうのでみんなの目は丸くなる。
驚くみんなをよそにアタシ達は現場へと向かった。
「犯人はまず被害者を殺害し、そとから部屋の鍵をかけた。
そしてこの穴を利用して、遺体のそばまで鍵を運んだんだ」
リュウは穴を指差しながら説明する。
「でもどうやって?どんな道具を使ったんだよ」
『道具なんか必要ないんだよ』
「なんで?」
「この穴から鍵を戻してやるだけで、自動的に奥の部屋まで辿り着くんだ」
「そんな、鍵が勝手に歩いて行くとでも言うの?」
『うっわ、また数馬そんなアナログなこと言って!』
「たとえだよ、こんなコト本気で思ってるわけだいだろ?!」
「…歩いて行くんじゃない。転がっていくんだ」
リュウはちょっとムスッとした感じでアタシ達の言い合いを遮った。
リュウは少しメグを見ると、メグは持っていたアイスボックスから氷玉を取り出した。
なんで、真相を知ってるアタシに持たせてくれなかったんだろう…。
「え、氷??」
「よく見てろ」
リュウはそう言ってしゃがみこむと、床近くの壁の穴に氷玉を投げた。
だから、なんでアタシにやらせてくれないんだよう!
氷玉に沿ってアタシ達も部屋の中に入る。
「…なんで?なんで止まらないの??」
「…そうか!傾斜だ!!」
『そうなの。この部屋の床、見た目ではあんまりわかんないけど、
ある一点に向けて緩やかな傾斜になってるの』
「そして、この段ボールも、玉が転がっていくベクトルを邪魔しない位置に
計算して置いてあったんだ」
岡田さんが殺された部屋まで来ると、氷玉は止まった。
キュウはそれを拾い上げてメグに取られる。
「部屋の中は日中40度近くまで気温が上がる。氷が溶けて気化すれば床に鍵だけが残る」
『鍵が部屋の中にあれば密室殺人だと思っちゃうよね。
実はこれが密室殺人のトリックの正体なの』
満足げにアタシが言うとリュウは「全く…」という微笑みでアタシを眺めてた。
「リュウ、梓紗、すごい…!」
キュウは笑顔でアタシ達に言う。
メグは小さい声で「おめでたい奴」とつぶやく。まぁまぁ。
「喜ぶのは犯人の正体か死体消失のトリックが解けてからにしたら??」
『アレ?数馬くん、負け惜しみかなぁ??』
「悔しいねー数馬、リュウと梓紗に先越されて」
メグがからかうように数馬に言う。
メグが数馬に氷玉を投げる。
数馬はそれを受け取ると手の中で転がしながら言う。
「別に。僕が優先してたのは犯人探しだし」
「妙な占いにハマってたくせに」
「やるべきことはやったさ」
『占い?数馬、占いなんかやるの??何の占い??』
「あっ、メグ!僕占いなんてしてないから、いいね?」
メグは少し笑って「はいはい、言いませんよー」って。
数馬ってば、また変なコトやってたらしい。
深く探らないけど、何やってたんだか。
「西村静香のファンサイトで幻の遺作が話題になってたよ」
数馬が話を変えようと事件に関する情報を言い出す。
「彼女、新作書きあげてたの??」
「ああ。出版社に問い合わせたら、彼女、無くなる直前、非公式にメールを送ってたらしい。
【次の作品のコピーを学校の図書館に隠します。
それを発見できた方と今回は出版契約を交わします。
ヒントは決して読まれることのない作品です】ってね」
『ここでもまた謎を出題ねぇー』
「さすがミステリーの紹鴎、謎かけときたか」
「で、その原稿誰か見つけたの??」
キュウが興味津々に聞く。
「いや。各出版社はいろんな手を使って探したけど、未だに発見できずにいるんだって。
彼女のパソコンに原稿が残っている可能性もあったんだけど、亡くなったときに
クラッシュして確かめようがないみたい」
それを言い終えた数馬は氷玉をキュウに投げる。
「でも、誰にも読まれることのない本って言われても…」
誰にも読まれれることのない本…
「ねぇたとえば…『続きものの漫画を読んでて1巻だけ抜けてたらどうする??』…あっ。
ねぇ、梓紗、今僕全く同じこと言おうとしたんだけど…?」
アタシ達は急いで高校の図書室へ向かう。
数馬はミッションルームに戻って調べ物をするからってアタシ達とは別方向に歩きだした。
そっちはミッションルームの方向じゃなかったのが…気になったけど。
「答えは前・後編の作品で、前編が存在しないもの。
前篇読まなきゃ後編には進めないよね。あった!」
キュウが図書室にある本の在庫が詳しく表示されてるパソコンを操作する。
マウスで刺した本のタイトルは『亡者の棲家』。
その本の上巻は赤字で『紛失』を記されていた。
アタシはそそくさとその場を後にするリュウについていく。
リュウはすぐにその本を見つけ出し、ページをパラパラめくる。
するとメグが駆け寄ってくる。
アタシはリュウに近づいて指先で綺麗にめくられる本を見る。
最後にたどり着いた裏表紙の内側には破かれた跡が。
『ここに…あったんだね。破かれてる』
「…誰かがもう持ち去ってる」
「一体誰が……うわぁ!」
メグの驚いた声にビックリし振り返るとそこには文芸部の先輩、芳村さんの姿が。
アタシはホントにビックリしてリュウの肩に隠れる。
リュウもビックリしてたけど、アタシが隠れたのに気づくと意地悪な顔して笑った。
アタシはそっとリュウの肩から手を離して知らないふりをする。
「無理しなくていいのに」と少しバカにしながら言ってきた。
「無理なんてしてないしー」小さく言ったらリュウがまた笑った。
「嘘、もしかして先越されちゃったの??」
アタシ達は図書室の机に場所を移し話すことにした。
メグとキュウは椅子に座ってて、アタシとリュウが立って聞いてる。
芳村さんはメグとキュウの向かいに座る。
「その新作、誰か読んだことがある人いるんですか?」
「律子達は読んでたんじゃないかな?登校前によく読み直しやらされてたから。
それから・・・顧問の米山先生」
『え、あの先生も??』
「あの人、ああ見えて昔はミステリー作家目指していたそうよ。
そのために家庭も捨てたっていうんだから、半端じゃないわ」
「それで、デビューできたんですか?」
「結局才能なくて挫折しちゃったみたい。でも、批評は的確でね。
プライドの高い静香も、先生のアドバイスだけには耳を貸してたわ」
それを聞いた途端リュウは不思議な顔をして少し離れた所で電話をしだした。
・・・っ!
『ねぇ、パトカーの音。すぐ近くで聞こえない??』
「え?そんなの聞こえな…、ほんとだ!!」
アタシは尋常じゃない胸騒ぎが始まり、次の瞬間には走り出した。
気付くとキュウとメグがアタシを越して走り出す。
リュウは追いかけてきたようにアタシに追いつく。
ひたすら廊下を走る。騒がしい様子から…警察が学校に来てる。
「刑事さん…!!」
「ああ、またお前らか」
「何か起こったんですか??」
「大森恭子の死体が、ここで発見された」
大森さんが殺された??
どうして?どうして。アタシはまた1人助けられなかった。
岡田さんと佐々木さんが殺されたときにあんなに悔んだじゃない。
それが…また同じことを繰り返して…アタシ達は誰も助けられないまま。
「メグ…、もう見ない方が…」
「、え?」
「またパニック起こすかもしれないし…」
メグ、またパニック起こしちゃうのかな??
でも、毎回毎回死体見る度にパニック起こしちゃうんだったら…。
メグの体にも心にもいいことなんてないよね…。
やっぱりメグは見ない方が…いいのかな「何甘いこと言ってんだよ」
リュウが冷たいトーンで言う。
「メグの能力は生まれながらに授かったものだろ?それを生かさないでどうすんだよ」
「…、リュウはメグの怯えた姿を見てないからそういうことが言えるんだよ」
「だったら。探偵なんて目指すの、今すぐやめるんだな」
リュウの冷たく言い放った言葉がアタシの胸にも突き刺さる。
『リュウ、そこまで言わなくても』
「リュウ、誰にだって苦手なことや嫌なことはある。それを助け合うのが仲間だろ?」
「悪いけど僕にはそんなもの必要ない」
リュウはアタシを少し見た。
一瞬寂しそうに見えたけど…すぐに冷たい目に戻ってキュウを見る。
「僕はずっとそうやって生きてきたんだ」
すると、諸星さんが来る。
後ろでは担架が運ばれてる。嫌な予感が胸を走る。
「大森恭子だ。死因はおそらく…強殺だ」
諸星さんはゆっくりとかぶせられていたシーツをめくる。
アタシは甘えてられない、と担架から目を離さない。
所々内出血している大森さんの顔。
怖くて…動けなくて目がそらせなかった。
少し経つとメグは離れたところに行ってしまった。キュウは追いかける。
リュウがアタシに気付いてくれたのか、肩を抱き寄せてくれた。
アタシはハッと我に返り、メグがいないのに気づく。
辺りを見回すとメグとキュウが部屋の端にいる。
『…メグ……』
「大丈夫、メグにはキュウがいる。…大丈夫だから」
『…ありがとう、もう、大丈夫』
アタシはリュウに安心をもらい、落ち着いたところでキュウとメグに少し近づく。
『…メグ』
「…キュウ、梓紗。大丈夫だから」
「でも…」
「どうしても乗り越えなきゃいけないの。自分の力をちゃんと役に立てたいの」
キュウは少し戸惑っていたけど、すぐに言った。
「…わかった。メグはそう決めたんなら、もう止めない。
でもメグは1人じゃないから。僕も梓紗も…それからリュウもそばにいる」
メグは頷く。
メグが大森さんの死体の横で立ち止まると、ゆっくりと死体を見た。
パッと視線を移動させたかと思うと、すぐに辛そうな顔をした。
少し離れたところでしゃがみこんでしまった。
「…おかしいわ。佐々木さんと同じほくろがある」
メグが辛そうに言う。
アタシはそんなメグに我慢できなくなり、メグの隣にしゃがみ込む。
『…どういう意味??』
「…、切断されてた佐々木さんの下半身にも、大森さんと同じほくろがあったの」
同じほくろ…。
キュウはそれを聞き、死体に歩み寄る。
アタシは息がきれてるメグの背中をさする。
同じほくろ、無くなった死体、同時に持ち去られたブルーシートと段ボール。
ここまで来ると……そうか、そういうトリックか。
「…そうか。昨日の夜、僕達が見たのは、佐々木さんの死体なんかじゃなかった。
あれは、佐々木さんと大森さんが、それぞれ死体のパーツを演じていたものだったんだ」
「おい、それどういうことだよ」
キュウとの答え合わせ。
よし、すべてがアタシのと一致してる。
諸星さんがキュウに聞き返した。
「つまりマジックの、胴体切断のトリックです!
2人はそれぞれ上半身と下半身を段ボールに入れてただけなんです。
そして、あの車の爆破は恐らく僕達を誘い出すための罠だ。
2人は僕達が部屋から飛び出した直後、仕掛けから抜け出して現場から立ち去ったんです」
『ブルーシートや段ボールを現場から持ち去ったのもそのためだね』
「うん。警察に調べられたらトリックが水の泡だもん!」
キュウは優しくメグの方を向く。
「メグ、ありがとう。君のおかげでわかった」
「そんな単純な仕掛けに俺達引っ掛かったのか?」
諸星さんが不思議そうな顔をして聞く。
「最初の被害者の岡田律子さんは、ノートになぞられて殺されました。
だから僕達は佐々木さんもノートに書かれていたように、
胴体を切断されてしまったと思いこんでしまったんです。…巧妙な心理トリックです」
「でもなんでそんな面倒くさいことをしなくちゃいけないんだ?」
「…自分のアリバイを作るため」
突然リュウが口を開く。
「…そう。2人はきっと犯人に脅されてたんだと思う。
言う通りにしなければ、西村静香さんを殺したことを表沙汰にするって」
「…じゃぁ、真犯人の正体は…?」
メグは立ち上がるとキュウに真剣な表情で聞いた。
「…あの人以外、考えられない」
アタシ達は真犯人の行きそうな場所を調べ、急いで移動する。
*第1話*~実践開始!戦慄の死の予言!死体消滅の謎を追え ③
先生は、アタシ達のコトを少し分かってくれたのか、
校舎の外で歩きながら話してくれた。
「西村静香って子はね、今年の新人ミステリー大賞を受賞した…天才作家だったの。
ミステリーの若きカリスマと賞賛されてね、彼女のもとには次回作の依頼が殺到したわ。
ただ、彼女ちょっと傲慢なところがあってね 文芸部の中でもいつも女王様気取りだった。
特に岡田さん達は、資料探しやネタ集めにいいように使われてた」
「…つまり、その3人には、西村さんを殺す理由があったってことですか?」
キュウが言うと、先生は少し怒り気味で言う。
「バカなこと言わないでちょうだい。
そんなことで人を殺すなんて…それにこれは私の思い過ごしかもしれないし、
あの子達から相談を受けたわけでもないんだから」
「…そうやって、いつも知らんぷりしてたんですか」
『メグ…?』
メグが突然口を開いた。
先生は驚いている。
「学校の先生なんてみんなそう。自分の身を守るためならどんな詭弁だって言えるし、
生徒の心だって踏みにじれる。先生に守ってもらえなかった生徒がどんな想いで
いるかなんて考えたことないでしょ!!」
先生は目を泳がせ少し挙動不審になる。
それを見たかと思うと、メグは突然歩き出す。
『メグ?!どうしたの!』
「あっ、ちょ、待っ…すいません!ちょ、メグ!!」
「急にどうしたの、」
「…、あの先生があんまり無責任だったから、ちょっと意地悪してあげたかっただけ。
それだよ。それより、西村静香のノートのコピー手に入れなきゃっ!」
メグはちょっと笑いながら言った。
少し不安はあるけど、いつも通りになってくれたみたいでよかった。
メグは「ごめん、寄るトコあるから先行っててっ!」で、
キュウは、「僕は疲れたから、ミッションルームに戻るよ、梓紗は?」
『アタシは…。アタシも寄るトコあるから、じゃぁ、後でねっ!』。
密室殺人の事件。
まだひっかかるトコがいっぱいある。
もう1回事件現場に戻って色々調べてみよう…。
事件が起こった部屋につながるドアの前まで何とかたどり着く。
…誰かの声がする。
聞いたことのある声。…リュウだ。
『こんなところで何している、ここは立ち入り禁止ですよ』
「…!」
ハッと後ろを振り返るリュウ。
声をかけた人物がアタシだと分かると、ホッとした顔になる。
「梓紗か、ビックリさせんなよ、ていうか何その格好」
アタシは着替えないで真っすぐ来たから制服のまま。
うっわー、ちょっと恥ずかしいな。
『えっと…キュウとメグと潜入調査で高校行ったの。
その帰りだったからそのまま来ちゃって、この格好』
「ふぅ~ん…」
『ていうか、リュウもこういうのに引っ掛かるんだぁ~?』
「…うるさいなぁ、ボイスレコーダーに声入っちゃったよ」
『ごめんごめん、もう1回取り直しだねっ』
「はぁ…」
迷惑そうにしてるけど、ちょっと笑ってるリュウ。
こんな顔、他の人にはあんまり見せてないからアタシだけの特権。
「今度は黙っててね?変な声出したらダメだよ」
『分かってるって。それより、何か分かった?』
「いや、まだ。今来たばっかりだったし」
『そっか』
「じゃぁ、録音するからね」
『はい、』
「…事件当時、外につながるドアも閉まっていた。出入り口には10cm程の穴」
リュウはそこまでいうと、しゃがんでいたのを立ち上がって部屋の中に入る。
アタシも置いてかれないようについて行く。
「部屋は蒸し暑く、日中は40度を超えると推測される」
リュウは辺りを見回したと思うとポケットに手を入れた。
その時にリュウのポケットから追跡マーカーの粒が転がり落ちる。
『あああ』
「あ、梓紗しゃべった」
『え、ごめん。てか拾わなくていいの?』
「ま、もう撮ってないしいっか。拾うの大変だね、これは…ちょっと待って、拾わないで」
『ん?』
アタシは転がる追跡マーカーを眺める…。
でも、いつまで経っても転がりが止まらない。
「まさか、この並び…」
あ、そっか。そういうコトか。
リュウは粒が転がって行った先の部屋を床近くの壁の穴から除く。
「そういうことか」リュウが呟く。
密室のトリックはこうやって出来たんだ。
『…ん?!』
突然誰かに布で口を塞がれる。
今までこの人の気配に気づかなかったなんて…うかつだった。
アタシはその手から逃れようと必死で抵抗するけど、無理だった。
「梓紗?!…、おい、誰だ!」
アタシが声を出して、リュウが振り返った。
布には薬品がしみ込んであるみたいでドンドン意識が遠のく。
抵抗する力もなくなるし、薬品のせいで意識が消えてく。
アタシは耐えられず床に転ぶ。
「梓紗!?おい、しっかりしろ、梓紗!」
リュウがアタシの名前を叫ぶ声でアタシの意識は消えた。
目が覚めた。
どこだろう。高い天井に大きな窓。どこのお屋敷??
広いベットの上で寝てる。窓の奥には広い芝生が広がってる。
服は制服からして、あの出来事は本当のコトだろう。
頭はまだ薬品のせいかぼやぼやする。
外はまだ明るい。
何時だろう。携帯の時間を見ると、さっきからそんなに時間は経ってない。
起き上がってみる。
部屋は想像以上より広く、奥のソファーには男の人が座っていた。
『すいません、ここ、どこですか?』
「お目覚めですか。ふ、それにしても呑気なものですね。
どこの誰にどこに連れてこられたかも分からないのに…今の状況、分かってます?」
『今の状況…まさか、誘拐とかじゃないですよねっ?!』
「誘拐だなんて…ふ、面白い方だ。さすが、あの方の好いてる人ですね」
あの方の好いてる人?あの方って誰??
でも、その前に…リュウは…?
『あの、誰か、男の子も一緒にいませんでしたか?』
「リュウ様のことですか」
『…なんで、リュウを知ってるの?!』
「ふ、そのうちお分かりになりますよ。リュウ様は庭でお休みしております。
案内します。立てますか?」
『あ、ありがとうございます』
いつもなら、こんなうさんくさい話、信じない。
名前なんて所持物を調べればすぐに分かる。
でも、リュウのことが心配で心配で、それどころじゃなかった。
早くリュウの姿が見たかった。安心したかった。
部屋を出ると、広い廊下。
廊下の天井も高く、シャンデリアがいくつもぶら下がっている。
外へ出る扉までの距離が長い。部屋のドアがたくさんある。
何か…ギリシャとかの神殿みたいな雰囲気。
外に出ると、窓から見てた景色より広い芝生。
1つのベンチが見える。
女の人と…あれは、リュウ。
2人が腰掛けていてリュウは女の人の肩にもたれている。
すると、リュウはゆっくりと肩から頭を離したかと思うと、
怯えたようにベンチから飛び起きる。
何か言ったかと思うとリュウは歩き始めた。
「どうぞ」
男の人に行ってもいいということなので、リュウに駆け寄る。
『リュウ!!』
「…梓紗!!ケガないか?大丈夫か?」
『うん…リュウは?大丈夫?!』
「…うん」
リュウは、はぁーと深いため息をついてから、真剣な顔をした。
「ごめん、守れなくて」
ビックリした。リュウがそんなこと思ってるなんて。
アタシはリュウが無事だっただけで安心だよ?
『何?大丈夫だよっ。油断してたアタシも悪いし。リュウが謝るコトじゃないよ』
「うん…ごめん」
『あ、ほらまた謝るっ』
「え、今謝ってた?」
『あはは、うん』
でもリュウはアタシを守れなかったコトに対してだけ謝ったように見えなかった。
何か、もっと奥の真実があるような気がする。
でもやっぱりリュウの姿が見れて良かった。
しかも、ケガもしてなさそうだし…でもあの女の人って誰だったんだろう?
リュウの元気な姿に安心したら、体の力が突然抜けて、
意識が朦朧として、倒れた。
そこからはもう意識がなかった。
先生は、アタシ達のコトを少し分かってくれたのか、
校舎の外で歩きながら話してくれた。
「西村静香って子はね、今年の新人ミステリー大賞を受賞した…天才作家だったの。
ミステリーの若きカリスマと賞賛されてね、彼女のもとには次回作の依頼が殺到したわ。
ただ、彼女ちょっと傲慢なところがあってね 文芸部の中でもいつも女王様気取りだった。
特に岡田さん達は、資料探しやネタ集めにいいように使われてた」
「…つまり、その3人には、西村さんを殺す理由があったってことですか?」
キュウが言うと、先生は少し怒り気味で言う。
「バカなこと言わないでちょうだい。
そんなことで人を殺すなんて…それにこれは私の思い過ごしかもしれないし、
あの子達から相談を受けたわけでもないんだから」
「…そうやって、いつも知らんぷりしてたんですか」
『メグ…?』
メグが突然口を開いた。
先生は驚いている。
「学校の先生なんてみんなそう。自分の身を守るためならどんな詭弁だって言えるし、
生徒の心だって踏みにじれる。先生に守ってもらえなかった生徒がどんな想いで
いるかなんて考えたことないでしょ!!」
先生は目を泳がせ少し挙動不審になる。
それを見たかと思うと、メグは突然歩き出す。
『メグ?!どうしたの!』
「あっ、ちょ、待っ…すいません!ちょ、メグ!!」
「急にどうしたの、」
「…、あの先生があんまり無責任だったから、ちょっと意地悪してあげたかっただけ。
それだよ。それより、西村静香のノートのコピー手に入れなきゃっ!」
メグはちょっと笑いながら言った。
少し不安はあるけど、いつも通りになってくれたみたいでよかった。
メグは「ごめん、寄るトコあるから先行っててっ!」で、
キュウは、「僕は疲れたから、ミッションルームに戻るよ、梓紗は?」
『アタシは…。アタシも寄るトコあるから、じゃぁ、後でねっ!』。
密室殺人の事件。
まだひっかかるトコがいっぱいある。
もう1回事件現場に戻って色々調べてみよう…。
事件が起こった部屋につながるドアの前まで何とかたどり着く。
…誰かの声がする。
聞いたことのある声。…リュウだ。
『こんなところで何している、ここは立ち入り禁止ですよ』
「…!」
ハッと後ろを振り返るリュウ。
声をかけた人物がアタシだと分かると、ホッとした顔になる。
「梓紗か、ビックリさせんなよ、ていうか何その格好」
アタシは着替えないで真っすぐ来たから制服のまま。
うっわー、ちょっと恥ずかしいな。
『えっと…キュウとメグと潜入調査で高校行ったの。
その帰りだったからそのまま来ちゃって、この格好』
「ふぅ~ん…」
『ていうか、リュウもこういうのに引っ掛かるんだぁ~?』
「…うるさいなぁ、ボイスレコーダーに声入っちゃったよ」
『ごめんごめん、もう1回取り直しだねっ』
「はぁ…」
迷惑そうにしてるけど、ちょっと笑ってるリュウ。
こんな顔、他の人にはあんまり見せてないからアタシだけの特権。
「今度は黙っててね?変な声出したらダメだよ」
『分かってるって。それより、何か分かった?』
「いや、まだ。今来たばっかりだったし」
『そっか』
「じゃぁ、録音するからね」
『はい、』
「…事件当時、外につながるドアも閉まっていた。出入り口には10cm程の穴」
リュウはそこまでいうと、しゃがんでいたのを立ち上がって部屋の中に入る。
アタシも置いてかれないようについて行く。
「部屋は蒸し暑く、日中は40度を超えると推測される」
リュウは辺りを見回したと思うとポケットに手を入れた。
その時にリュウのポケットから追跡マーカーの粒が転がり落ちる。
『あああ』
「あ、梓紗しゃべった」
『え、ごめん。てか拾わなくていいの?』
「ま、もう撮ってないしいっか。拾うの大変だね、これは…ちょっと待って、拾わないで」
『ん?』
アタシは転がる追跡マーカーを眺める…。
でも、いつまで経っても転がりが止まらない。
「まさか、この並び…」
あ、そっか。そういうコトか。
リュウは粒が転がって行った先の部屋を床近くの壁の穴から除く。
「そういうことか」リュウが呟く。
密室のトリックはこうやって出来たんだ。
『…ん?!』
突然誰かに布で口を塞がれる。
今までこの人の気配に気づかなかったなんて…うかつだった。
アタシはその手から逃れようと必死で抵抗するけど、無理だった。
「梓紗?!…、おい、誰だ!」
アタシが声を出して、リュウが振り返った。
布には薬品がしみ込んであるみたいでドンドン意識が遠のく。
抵抗する力もなくなるし、薬品のせいで意識が消えてく。
アタシは耐えられず床に転ぶ。
「梓紗!?おい、しっかりしろ、梓紗!」
リュウがアタシの名前を叫ぶ声でアタシの意識は消えた。
目が覚めた。
どこだろう。高い天井に大きな窓。どこのお屋敷??
広いベットの上で寝てる。窓の奥には広い芝生が広がってる。
服は制服からして、あの出来事は本当のコトだろう。
頭はまだ薬品のせいかぼやぼやする。
外はまだ明るい。
何時だろう。携帯の時間を見ると、さっきからそんなに時間は経ってない。
起き上がってみる。
部屋は想像以上より広く、奥のソファーには男の人が座っていた。
『すいません、ここ、どこですか?』
「お目覚めですか。ふ、それにしても呑気なものですね。
どこの誰にどこに連れてこられたかも分からないのに…今の状況、分かってます?」
『今の状況…まさか、誘拐とかじゃないですよねっ?!』
「誘拐だなんて…ふ、面白い方だ。さすが、あの方の好いてる人ですね」
あの方の好いてる人?あの方って誰??
でも、その前に…リュウは…?
『あの、誰か、男の子も一緒にいませんでしたか?』
「リュウ様のことですか」
『…なんで、リュウを知ってるの?!』
「ふ、そのうちお分かりになりますよ。リュウ様は庭でお休みしております。
案内します。立てますか?」
『あ、ありがとうございます』
いつもなら、こんなうさんくさい話、信じない。
名前なんて所持物を調べればすぐに分かる。
でも、リュウのことが心配で心配で、それどころじゃなかった。
早くリュウの姿が見たかった。安心したかった。
部屋を出ると、広い廊下。
廊下の天井も高く、シャンデリアがいくつもぶら下がっている。
外へ出る扉までの距離が長い。部屋のドアがたくさんある。
何か…ギリシャとかの神殿みたいな雰囲気。
外に出ると、窓から見てた景色より広い芝生。
1つのベンチが見える。
女の人と…あれは、リュウ。
2人が腰掛けていてリュウは女の人の肩にもたれている。
すると、リュウはゆっくりと肩から頭を離したかと思うと、
怯えたようにベンチから飛び起きる。
何か言ったかと思うとリュウは歩き始めた。
「どうぞ」
男の人に行ってもいいということなので、リュウに駆け寄る。
『リュウ!!』
「…梓紗!!ケガないか?大丈夫か?」
『うん…リュウは?大丈夫?!』
「…うん」
リュウは、はぁーと深いため息をついてから、真剣な顔をした。
「ごめん、守れなくて」
ビックリした。リュウがそんなこと思ってるなんて。
アタシはリュウが無事だっただけで安心だよ?
『何?大丈夫だよっ。油断してたアタシも悪いし。リュウが謝るコトじゃないよ』
「うん…ごめん」
『あ、ほらまた謝るっ』
「え、今謝ってた?」
『あはは、うん』
でもリュウはアタシを守れなかったコトに対してだけ謝ったように見えなかった。
何か、もっと奥の真実があるような気がする。
でもやっぱりリュウの姿が見れて良かった。
しかも、ケガもしてなさそうだし…でもあの女の人って誰だったんだろう?
リュウの元気な姿に安心したら、体の力が突然抜けて、
意識が朦朧として、倒れた。
そこからはもう意識がなかった。
*第5話*~ネットの恋! すれ違いの悲劇~ ④
「俺はただ腹が痛くてジュース飲まなかっただけだろ、
そんなコトで殺人鬼呼ばわりされちゃ、こっちもたまんないね!!」
「てめぇ……まだこの期に及んで…」
キンタが少しキレ始めている。
「そもそも!!亀田が殺された時、他の誰でも無いお前達と一緒だっただろ?!
…それに、朝吹の殺されたときのアリバイトリックだって、、
誰にでも殺すチャンスがあったってだけで、
俺がコレクターだっていう根拠にはなんない!!」
『言い訳するの、いい加減やめなよ。…見苦しいよ』
「根拠かぁ…それならとっくに君自身が証明してくれたじゃないか」
「………ぇ?」
富永くんは信じられない表情でリュウを見つめた。
「朝吹さんが殺された時、君なんて言ったか覚えてる?」
『【まさか、ビデオに映ってた時計が30分進めてあったなんてね】
富永くんはそー言ったの』
富永くんは、はっと目を見開いた。
「朝吹さんの部屋から発見されたテープに、
何分間バラエティー番組が録画されているかは、あの時はまだ分からなかった。
君の言葉を聞いた後、僕達が検証して…初めて分かったことなんだよ!」
「亀田くん殺しに関する君のアリバイももう崩れてるよ。
あの殺人が2日に渡って行われてたことはお見通しだ」
段々と富永くんの様子がおかしくなっていく。
「それと飴でできたこのガラス瓶を使ったこともな」
目が…泳いでいる。
「中学ン時、富永のお父さんの撮影現場見学させてくれて、
そん時にもらったガラス瓶を俺達の映画で使ったんだ…」
佐久間さんは思い出したようにつぶやいた。
…これで、全てが繋がった。
そして、富永くんは視線が定まらないのかあちこち見ている。
「おそらく彼女はその様子を収められたビデオを僕に見せようとしたに違いない。
でもその電話中、君が偶然部屋に訪ねてきた。
ひょっとしたら、テープが気になって盗み出すつもりだったのかもしれないなぁ?
そこで彼女が僕にそのテープを推理の材料として見せるつもりだと聞かされ、
咄嗟に彼女の殺害を思いついたんだ」
そこまで言い終わったリュウは、怒りなのか悲しみなのか…、
何かに満ち溢れたんだと思う。
大きな音を立てて立ち上がった。
リュウをここまで奮い立たせるなんて、信じられない。
「なんの罪もない彼女を………
もう言い逃れはできないぞ富永」
全員の視線は富永くんに絞られた。
みんな信じられないんだろう、中学の頃の仲間が、仲間を殺した。
「どうして…中学からの仲間を虫ケラみたいに殺せたの?
ビデオに映ってた映画研究部は、みんな仲のいい友達だったじゃない!!」
アタシはみんなで見た撮影風景を思い出す。
あの時のみんな、本当に楽しそうだったのを思い出す。
すると、富永くんは狂いだしたように笑いだした。
……いや、本当に狂ってしまったのかもしれない。
大笑いだ。
「仲間…?……、友達??」
突然笑いが止まった富永くんは、もう別の顔だった。
「いや、友達じゃない。いつか蹴落とさなきゃならない、
その他大勢だ……!!!信用できる奴なんて誰1人もいなかった。
たった1人…、小椋絵美菜のぞいて」
「もしかして……彼女と?」
「俺と絵美菜は愛し合ってた…、深い心のつながりで……結ばれてたんだよ」
「でもお前らそんなそぶり…」
「みんなが知らなくて当然だよ!!
…俺と絵美菜はネットの中で付き合ってたんだからな」
空気がはりついた。
アタシは身動きがとれないほどに。
…この人は一体何を言ってるの。
「俺は学院の映画愛好者が集まるサイトでアニメっていうH.N.の子と、
恋人みたいな関係になった…そしてある時気づいたんだよ。
彼女の名前をローマ字にし、逆から読むと【エミナ】になるって…。
俺、マヂで鳥肌立ったよ。
だって俺彼女のコト中学ン時から、ずーっと好きだったんだもん。
ふふ…、まぁ…あっちは俺の正体に気付かなかったみたいだけど。
時期が来たら…俺の方から告白するつもりだった…。
でも、それなのに…ある時からアニメを攻撃する中傷が、
何十人もの名前で書き込まれるようになった…。
…っ、なんとかして、その書き込みをやめさせたかった…
でも…どうにもならなかった…。
そして…とうとう傷つきやすい繊細な絵美菜はネット上からも…
実生活の学校からもいなくなっちゃったんだよっ!!
…彼女はもう、この世のどこにも存在しない…。
俺には分かるんだ…彼女の痛みや…苦しみが…」
「…それで、彼女を追い詰めた相手を探し、亀田くんにたどり着いたんだね?」
「アイツは日頃から自分より成績の良い絵美菜を嫌ってた。
陰険にしつこく追い詰めて、俺の絵美菜を死に追いやったんだよ!!!
亀田だけは…亀田だけは、絶対に許せなかった…。
…だから、俺の手で…」
だからって…だからって亀田くんを殺すなんて間違ってる。
殺すだけが手段じゃなかったはずなのに…。
「待って下さい!!!!」
…突然遠矢さんが立った。
「あの…小椋絵美菜さんが、何かの理由で姿を消したのは事実だと思う。
でも、少なくともその理由は、亀田くんにネットで袋叩きにされたからじゃないわ!!」
「お前に何がわかんだよぉっ!!!!」
「アニメは恵美奈さんじゃないの…!!!」
遠矢さんは涙ながらに言った。
アニメが……絵美菜さんじゃ、ない?
「…私よ、彼女の名前を並び替えてアニメのH.N.を使って、
掲示板に書き込みをしてたのは、私なの…!」
「え?」
……それって、もしかして、何それ?!
アニメは絵美菜さんじゃなくて、…遠矢さん?!
じゃぁ富永くんとネット上で付き合ってたのは、遠矢さんだったの?!
「私も中学の頃から、彼女のこと憧れてたわ。
あんな人になれたら、どんなにいーだろう…って。
それで私、ある時思いついたの…こんな私でも理想の絵美菜になれる場所がある。
…インターネットの中なら、理想の自分になれる…って。
初めはほんの軽い気持ちだった…でもやっていくうちにどんどんハマってって…。
アニメを名乗ってる私は、美人で…明るくて頭もいい理想の高校生」
「嘘だ!!!!!…いい加減なこと言ってんじゃねぇよ!!」
そう言って富永くんは遠矢さんに襲い掛かった。
小さな悲鳴をあげる遠矢さん。
キンタはすぐに駆けつけて、富永くんを遠矢さんから剥がした。
床に転がる富永くん。
信じられないのか、狂いに狂っている富永くん。
次は投げられたキンタへと向かって行った…そしてキンタの胸倉を掴む。
キンタはものともせず、近くにあった飴ガラスの瓶で
富永くんの頭を殴った。
そして、少しフラついた富永くんはその場に崩れてしまった。
部屋にはキンタは手についた飴をほろう音が響く。
もう…、全てがめちゃくちゃで、もう意味分んない。
「嘘だ…」
「その子は嘘なんかついちゃいない」
聞き覚えのある声がした。
振り返るとそこには――――「七海先生?!!」
「彼女の言っていることは真実だ。小椋絵美菜は自殺なんかじゃない。
……――恋人と駆け落ちしたんだ」
『か、かけおち…?!』
「…駆け落ち……?」
そして七海先生の手には4枚の写真、小椋さんと…男の人だ。
ふと富永くんを見ると、目にはもう光が無かった。
「相手は高校中退の、役者志望の男だ。
彼女は厳しい両親と、自分が優等生であるプレッシャーに耐えきれず、
何も言いだせないまま…全てを捨てたそうだ…」
「…どうしてそこまで…?」
「美南の偽ブログ騒動を聞いて、アニメの正体は彼女じゃないと考えた。
あまりにも分かり易いアナグラムだったんでなぁ。
アニメの発信源が、遠矢邦子ということも…間違いない」
「そんなぁ…それじゃあこの犯行は、富永くんの動機そのものが、
インターネットの中だけの虚構だったっていうの?!」
富永くんには意識がないように見え、遠矢さんは泣いている。
そんな、そんなことがあっていいはずがない。
富永くんの勘違いで、2人の人が死んじゃったんだよ?!
キュウも突然の事態に動揺を隠せない様子だった。
「富永くん…どうして彼女が攻撃されてた時、自分の正体を明かさなかったの?!
何で現実の世界で、彼女を守ろうとしなかったの!!
…そしたら、こんな誤解を招くこと…。
僕達が、生きていかなきゃいけない世界は…ネットの中じゃないんだよ?
現実の世界は、苦しい事や思い通りに行かないコトだってたくさんある。
でも、こうなりたい…って夢があるなら、そこから逃げちゃダメなんだ!!
…ちゃんと…ありのままの自分を受け入れて、立ち向かうしかないんだ」
「夢。
忘れてたね…、富永くん…
私達、いつか世界中の映画ファンをスクリーンに釘付けにするような
作品を作ろうって…そう言ってたよね」
遠矢さんが涙ながらに話す。
時折混じる笑顔には、想いが混ざっているのが何となく分かる。
「富永……富永ぁ…、とみながぁ……富永ぁ!!!富永!!!!」
佐久間さんが必死で富永くんをゆする。
佐久間さんから一粒の涙が流れた。
その涙をきっかけに、アタシの溜まっていた涙も溢れ出してしまった。
そして佐久間さんは持っていたカメラを富永くんに向ける。
カメラを向けられて、何を思ったんだろう…富永くんは。
少しずつ目に光が宿ってきた。
そして
「――――――……夢、」
「全部、自分で考えたのか?」
「インターネット上のサイトです。
そこに、亀田に対する恨み辛みを書き込んだらメールが届いたんです。
完全犯罪の計画書を売ってる人間がいる、って」
アタシ達は後日、富永くんの取り調べに立ち会いした。
夢、と呟いた富永くんの姿はもうなかった。
口調は淡々としていて、質問されたことに対して答えているだけ、
感情が無いような表情だ。
そして、【完全犯罪の計画書を売っている人間】には驚く。
ネット上でも広がっている程、有名なのかな。
取り調べをしている諸星さんは、目の色を変えて次の質問へ急ぐ。
「…それで、どうしたんだ」
「その人を紹介してもらって、会いに行きました」
「どんな男だ」
「…普通です」
「ん…、何か…覚えてることはないのか」
「覚えてる、こと?」
そう呟いたかと思うと、富永くんの顔はニヤけ始めた。
最終的には声を出して、笑う。
ついにはイスから立ち上がり、走り出し、壁にぶつかる。
「おいっ、やめろ!!」
諸星さんは富永くんを必死で止めようとする。
猫田さんもいち早く駆けつけ、富永くんを押さえる。
「誰かーっ!!誰か来ーいっ!!!!」
「おい、人を呼べっ!!!」
アタシ達は、それを黙って見てるしかなかった。
富永くん…あんな笑顔で笑う人が、こんなにも変わってしまったなんて。
どうして、人を…友達を、仲間を殺すことなんて思いついたんだろう。
どうして、そんな簡単に殺せたんだろう。
富永くん……アタシ達と居た、あの時は偽りだったの?
バレないように必死で、何とか計画を実行したくて…。
教えてよ、何で、仲間を殺せたりなんか、すんのよ。
その場に居られなくなったアタシ達はミッションルームに戻った。
ミッションルームに戻ったからといって、空気が変わることはなかった。
みんなただ、この空気が壊れるのを待っていたのかもしれない。
沈黙は流れていくだけだった。
「七海先生…何を隠してるんだろう」
1番に沈黙を切り裂いたのは、メグだった。
アタシは混乱していて気付かなかったんだけど、
さっきリュウに聞いたら、富永くんが暴れ出した時「まだ御催眠だ…」と、
呟いていたみたいだった。
「俺達の知らないところで何かが起こってる…」
キンタが重く口を開いた。
数馬はそっぽを向き、リュウは読んでいた本を閉じた。
「そういえばメグ」
数馬は今までとは少し違う、明るい口調で話し始めた。
「例のブログを立ち上げた相手、分かったよ」
「誰だったの?」
『ちゃんと調べてくれてたんだあ』
「うるさいよ…名前は本条恵12歳、メイド姿のメグを見てずっと憧れてたんだって」
「メグの知ってる子?」
キュウが心配そうに問いかけた。
「ううん」
「本人も反省してるみたい。ブログも閉鎖したよ」
「ありがとう、色々動いてくれて」
「まだ早い段階で気づいたから良かったのかもしれねぇなぁ。
そういう思い込みって、変な方向に膨れ上がると手がつけられなくなるからな。
…今回の事件みたいに」
『良かったね、メグ』
「うんっ」
「梓紗は…ブログ作られないしてない?」
『え?リュウ…アタシに限ってあり得ないからっ。メイドやってるわけじゃないし…』
「まぁ、メイドやってたら僕が許してないけどね」
『なっ』
「ほんっと、リュウは全く…」
メグが笑いながらアタシ達に言った。
「でも…許せないのは、人のそういう感情を利用して殺人をけしかけた奴だ。
…僕は、絶対に許せない…!!!!」
キュウの正義感にはいつもやられる。
アタシ達だって、常にこういう感情持ってないと。
すると、奥から何かが近付いてくる音がする。
出てきた人物にアタシ達は反射的に立ち上がる。
「団先生…」
「七海から忠告を受けた。
…そろそろ君達にも全てを話すべきだとねぇ…」
そう言うと団先生は、杖を使い思い切って立ち上がった。
アタシ達はそれに驚かされる。
「君達に明そう!!!…我が宿敵、冥王星の正体と彼らとの戦いの歴史を…」
みんなそれぞれ、驚いていた…もちろんアタシもだ。
冥王星っていうのは、どこかで聞いたことのある組織だ。
…だけど、みんなの驚き方とは少し違う…リュウを見つけた。
リュウ…
リュウも何か隠してるんじゃないの??
「俺はただ腹が痛くてジュース飲まなかっただけだろ、
そんなコトで殺人鬼呼ばわりされちゃ、こっちもたまんないね!!」
「てめぇ……まだこの期に及んで…」
キンタが少しキレ始めている。
「そもそも!!亀田が殺された時、他の誰でも無いお前達と一緒だっただろ?!
…それに、朝吹の殺されたときのアリバイトリックだって、、
誰にでも殺すチャンスがあったってだけで、
俺がコレクターだっていう根拠にはなんない!!」
『言い訳するの、いい加減やめなよ。…見苦しいよ』
「根拠かぁ…それならとっくに君自身が証明してくれたじゃないか」
「………ぇ?」
富永くんは信じられない表情でリュウを見つめた。
「朝吹さんが殺された時、君なんて言ったか覚えてる?」
『【まさか、ビデオに映ってた時計が30分進めてあったなんてね】
富永くんはそー言ったの』
富永くんは、はっと目を見開いた。
「朝吹さんの部屋から発見されたテープに、
何分間バラエティー番組が録画されているかは、あの時はまだ分からなかった。
君の言葉を聞いた後、僕達が検証して…初めて分かったことなんだよ!」
「亀田くん殺しに関する君のアリバイももう崩れてるよ。
あの殺人が2日に渡って行われてたことはお見通しだ」
段々と富永くんの様子がおかしくなっていく。
「それと飴でできたこのガラス瓶を使ったこともな」
目が…泳いでいる。
「中学ン時、富永のお父さんの撮影現場見学させてくれて、
そん時にもらったガラス瓶を俺達の映画で使ったんだ…」
佐久間さんは思い出したようにつぶやいた。
…これで、全てが繋がった。
そして、富永くんは視線が定まらないのかあちこち見ている。
「おそらく彼女はその様子を収められたビデオを僕に見せようとしたに違いない。
でもその電話中、君が偶然部屋に訪ねてきた。
ひょっとしたら、テープが気になって盗み出すつもりだったのかもしれないなぁ?
そこで彼女が僕にそのテープを推理の材料として見せるつもりだと聞かされ、
咄嗟に彼女の殺害を思いついたんだ」
そこまで言い終わったリュウは、怒りなのか悲しみなのか…、
何かに満ち溢れたんだと思う。
大きな音を立てて立ち上がった。
リュウをここまで奮い立たせるなんて、信じられない。
「なんの罪もない彼女を………
もう言い逃れはできないぞ富永」
全員の視線は富永くんに絞られた。
みんな信じられないんだろう、中学の頃の仲間が、仲間を殺した。
「どうして…中学からの仲間を虫ケラみたいに殺せたの?
ビデオに映ってた映画研究部は、みんな仲のいい友達だったじゃない!!」
アタシはみんなで見た撮影風景を思い出す。
あの時のみんな、本当に楽しそうだったのを思い出す。
すると、富永くんは狂いだしたように笑いだした。
……いや、本当に狂ってしまったのかもしれない。
大笑いだ。
「仲間…?……、友達??」
突然笑いが止まった富永くんは、もう別の顔だった。
「いや、友達じゃない。いつか蹴落とさなきゃならない、
その他大勢だ……!!!信用できる奴なんて誰1人もいなかった。
たった1人…、小椋絵美菜のぞいて」
「もしかして……彼女と?」
「俺と絵美菜は愛し合ってた…、深い心のつながりで……結ばれてたんだよ」
「でもお前らそんなそぶり…」
「みんなが知らなくて当然だよ!!
…俺と絵美菜はネットの中で付き合ってたんだからな」
空気がはりついた。
アタシは身動きがとれないほどに。
…この人は一体何を言ってるの。
「俺は学院の映画愛好者が集まるサイトでアニメっていうH.N.の子と、
恋人みたいな関係になった…そしてある時気づいたんだよ。
彼女の名前をローマ字にし、逆から読むと【エミナ】になるって…。
俺、マヂで鳥肌立ったよ。
だって俺彼女のコト中学ン時から、ずーっと好きだったんだもん。
ふふ…、まぁ…あっちは俺の正体に気付かなかったみたいだけど。
時期が来たら…俺の方から告白するつもりだった…。
でも、それなのに…ある時からアニメを攻撃する中傷が、
何十人もの名前で書き込まれるようになった…。
…っ、なんとかして、その書き込みをやめさせたかった…
でも…どうにもならなかった…。
そして…とうとう傷つきやすい繊細な絵美菜はネット上からも…
実生活の学校からもいなくなっちゃったんだよっ!!
…彼女はもう、この世のどこにも存在しない…。
俺には分かるんだ…彼女の痛みや…苦しみが…」
「…それで、彼女を追い詰めた相手を探し、亀田くんにたどり着いたんだね?」
「アイツは日頃から自分より成績の良い絵美菜を嫌ってた。
陰険にしつこく追い詰めて、俺の絵美菜を死に追いやったんだよ!!!
亀田だけは…亀田だけは、絶対に許せなかった…。
…だから、俺の手で…」
だからって…だからって亀田くんを殺すなんて間違ってる。
殺すだけが手段じゃなかったはずなのに…。
「待って下さい!!!!」
…突然遠矢さんが立った。
「あの…小椋絵美菜さんが、何かの理由で姿を消したのは事実だと思う。
でも、少なくともその理由は、亀田くんにネットで袋叩きにされたからじゃないわ!!」
「お前に何がわかんだよぉっ!!!!」
「アニメは恵美奈さんじゃないの…!!!」
遠矢さんは涙ながらに言った。
アニメが……絵美菜さんじゃ、ない?
「…私よ、彼女の名前を並び替えてアニメのH.N.を使って、
掲示板に書き込みをしてたのは、私なの…!」
「え?」
……それって、もしかして、何それ?!
アニメは絵美菜さんじゃなくて、…遠矢さん?!
じゃぁ富永くんとネット上で付き合ってたのは、遠矢さんだったの?!
「私も中学の頃から、彼女のこと憧れてたわ。
あんな人になれたら、どんなにいーだろう…って。
それで私、ある時思いついたの…こんな私でも理想の絵美菜になれる場所がある。
…インターネットの中なら、理想の自分になれる…って。
初めはほんの軽い気持ちだった…でもやっていくうちにどんどんハマってって…。
アニメを名乗ってる私は、美人で…明るくて頭もいい理想の高校生」
「嘘だ!!!!!…いい加減なこと言ってんじゃねぇよ!!」
そう言って富永くんは遠矢さんに襲い掛かった。
小さな悲鳴をあげる遠矢さん。
キンタはすぐに駆けつけて、富永くんを遠矢さんから剥がした。
床に転がる富永くん。
信じられないのか、狂いに狂っている富永くん。
次は投げられたキンタへと向かって行った…そしてキンタの胸倉を掴む。
キンタはものともせず、近くにあった飴ガラスの瓶で
富永くんの頭を殴った。
そして、少しフラついた富永くんはその場に崩れてしまった。
部屋にはキンタは手についた飴をほろう音が響く。
もう…、全てがめちゃくちゃで、もう意味分んない。
「嘘だ…」
「その子は嘘なんかついちゃいない」
聞き覚えのある声がした。
振り返るとそこには――――「七海先生?!!」
「彼女の言っていることは真実だ。小椋絵美菜は自殺なんかじゃない。
……――恋人と駆け落ちしたんだ」
『か、かけおち…?!』
「…駆け落ち……?」
そして七海先生の手には4枚の写真、小椋さんと…男の人だ。
ふと富永くんを見ると、目にはもう光が無かった。
「相手は高校中退の、役者志望の男だ。
彼女は厳しい両親と、自分が優等生であるプレッシャーに耐えきれず、
何も言いだせないまま…全てを捨てたそうだ…」
「…どうしてそこまで…?」
「美南の偽ブログ騒動を聞いて、アニメの正体は彼女じゃないと考えた。
あまりにも分かり易いアナグラムだったんでなぁ。
アニメの発信源が、遠矢邦子ということも…間違いない」
「そんなぁ…それじゃあこの犯行は、富永くんの動機そのものが、
インターネットの中だけの虚構だったっていうの?!」
富永くんには意識がないように見え、遠矢さんは泣いている。
そんな、そんなことがあっていいはずがない。
富永くんの勘違いで、2人の人が死んじゃったんだよ?!
キュウも突然の事態に動揺を隠せない様子だった。
「富永くん…どうして彼女が攻撃されてた時、自分の正体を明かさなかったの?!
何で現実の世界で、彼女を守ろうとしなかったの!!
…そしたら、こんな誤解を招くこと…。
僕達が、生きていかなきゃいけない世界は…ネットの中じゃないんだよ?
現実の世界は、苦しい事や思い通りに行かないコトだってたくさんある。
でも、こうなりたい…って夢があるなら、そこから逃げちゃダメなんだ!!
…ちゃんと…ありのままの自分を受け入れて、立ち向かうしかないんだ」
「夢。
忘れてたね…、富永くん…
私達、いつか世界中の映画ファンをスクリーンに釘付けにするような
作品を作ろうって…そう言ってたよね」
遠矢さんが涙ながらに話す。
時折混じる笑顔には、想いが混ざっているのが何となく分かる。
「富永……富永ぁ…、とみながぁ……富永ぁ!!!富永!!!!」
佐久間さんが必死で富永くんをゆする。
佐久間さんから一粒の涙が流れた。
その涙をきっかけに、アタシの溜まっていた涙も溢れ出してしまった。
そして佐久間さんは持っていたカメラを富永くんに向ける。
カメラを向けられて、何を思ったんだろう…富永くんは。
少しずつ目に光が宿ってきた。
そして
「――――――……夢、」
「全部、自分で考えたのか?」
「インターネット上のサイトです。
そこに、亀田に対する恨み辛みを書き込んだらメールが届いたんです。
完全犯罪の計画書を売ってる人間がいる、って」
アタシ達は後日、富永くんの取り調べに立ち会いした。
夢、と呟いた富永くんの姿はもうなかった。
口調は淡々としていて、質問されたことに対して答えているだけ、
感情が無いような表情だ。
そして、【完全犯罪の計画書を売っている人間】には驚く。
ネット上でも広がっている程、有名なのかな。
取り調べをしている諸星さんは、目の色を変えて次の質問へ急ぐ。
「…それで、どうしたんだ」
「その人を紹介してもらって、会いに行きました」
「どんな男だ」
「…普通です」
「ん…、何か…覚えてることはないのか」
「覚えてる、こと?」
そう呟いたかと思うと、富永くんの顔はニヤけ始めた。
最終的には声を出して、笑う。
ついにはイスから立ち上がり、走り出し、壁にぶつかる。
「おいっ、やめろ!!」
諸星さんは富永くんを必死で止めようとする。
猫田さんもいち早く駆けつけ、富永くんを押さえる。
「誰かーっ!!誰か来ーいっ!!!!」
「おい、人を呼べっ!!!」
アタシ達は、それを黙って見てるしかなかった。
富永くん…あんな笑顔で笑う人が、こんなにも変わってしまったなんて。
どうして、人を…友達を、仲間を殺すことなんて思いついたんだろう。
どうして、そんな簡単に殺せたんだろう。
富永くん……アタシ達と居た、あの時は偽りだったの?
バレないように必死で、何とか計画を実行したくて…。
教えてよ、何で、仲間を殺せたりなんか、すんのよ。
その場に居られなくなったアタシ達はミッションルームに戻った。
ミッションルームに戻ったからといって、空気が変わることはなかった。
みんなただ、この空気が壊れるのを待っていたのかもしれない。
沈黙は流れていくだけだった。
「七海先生…何を隠してるんだろう」
1番に沈黙を切り裂いたのは、メグだった。
アタシは混乱していて気付かなかったんだけど、
さっきリュウに聞いたら、富永くんが暴れ出した時「まだ御催眠だ…」と、
呟いていたみたいだった。
「俺達の知らないところで何かが起こってる…」
キンタが重く口を開いた。
数馬はそっぽを向き、リュウは読んでいた本を閉じた。
「そういえばメグ」
数馬は今までとは少し違う、明るい口調で話し始めた。
「例のブログを立ち上げた相手、分かったよ」
「誰だったの?」
『ちゃんと調べてくれてたんだあ』
「うるさいよ…名前は本条恵12歳、メイド姿のメグを見てずっと憧れてたんだって」
「メグの知ってる子?」
キュウが心配そうに問いかけた。
「ううん」
「本人も反省してるみたい。ブログも閉鎖したよ」
「ありがとう、色々動いてくれて」
「まだ早い段階で気づいたから良かったのかもしれねぇなぁ。
そういう思い込みって、変な方向に膨れ上がると手がつけられなくなるからな。
…今回の事件みたいに」
『良かったね、メグ』
「うんっ」
「梓紗は…ブログ作られないしてない?」
『え?リュウ…アタシに限ってあり得ないからっ。メイドやってるわけじゃないし…』
「まぁ、メイドやってたら僕が許してないけどね」
『なっ』
「ほんっと、リュウは全く…」
メグが笑いながらアタシ達に言った。
「でも…許せないのは、人のそういう感情を利用して殺人をけしかけた奴だ。
…僕は、絶対に許せない…!!!!」
キュウの正義感にはいつもやられる。
アタシ達だって、常にこういう感情持ってないと。
すると、奥から何かが近付いてくる音がする。
出てきた人物にアタシ達は反射的に立ち上がる。
「団先生…」
「七海から忠告を受けた。
…そろそろ君達にも全てを話すべきだとねぇ…」
そう言うと団先生は、杖を使い思い切って立ち上がった。
アタシ達はそれに驚かされる。
「君達に明そう!!!…我が宿敵、冥王星の正体と彼らとの戦いの歴史を…」
みんなそれぞれ、驚いていた…もちろんアタシもだ。
冥王星っていうのは、どこかで聞いたことのある組織だ。
…だけど、みんなの驚き方とは少し違う…リュウを見つけた。
リュウ…
リュウも何か隠してるんじゃないの??
*第5話*~ネットの恋! すれ違いの悲劇~ ②
アタシ達は許可が下りるまで、校舎の中庭で少し雑談をすることに。
「みんなには借りができたな」
佐久間さんがアタシ達をカメラで収めながら、後ろ向きで歩いている。
「あ、僕達はただ、アリバイトリックを解いただけですから」
キュウもメグも映りたがりみたいで、カメラのレンズを覗き込んでいる。
アタシは専ら興味はないがカメラを向けられたので、微笑を浮かべてみる。
「あなたが事件にかかわってる可能性はまだ0じゃない」
「ホントは昨日の夜、どこにいたんだよ」
「…実はさ、ホラー映画のファンサイトで知り合った奴からメールが来て、
カルトビデオ譲ってくれるっていうから、近くの公園で待ち合わせしてたんだよ」
『それでビデオはもらえたんですか?』
「でもさぁ…そいつ、待ち合わせ時間になっても、来ないの!!!」
「すっぽかされた、ってこと?」
「うんっ!!」
佐久間さんは大きく首を縦に振り、強く肯定した。
ちょっと可愛いって思ってしまった…不覚だ。
「…お前そんな言い訳通用すると思ってんのかよ」
「通用しないと思ったから黙秘してたんだろ」
佐久間さんはキンタの問いかけに間一髪と答えた。
それはそうだ。
「第一俺がいくらヤバい人間だからって、映画研究部の可愛いーぃ後輩を殺すわけがないっ」
「映画研究部の後輩?」
「うん」
あ、まただ。
佐久間さんの「うん」って、ちょっと可愛い…。
そしたらリュウに何か感づかれたのか「どうしたの?」って怪しい笑顔で言われた。
「えっ、いや、別にぃ?」
「あの2人、同じ付属中学の出身で映画研究の仲間なんだ」
「本当ですか!?」
キュウがすかさず聞く。
「うん。亀田や朝吹だけじゃなく、冨永や遠矢、それから失踪した小椋絵美菜もみぃーんな仲間」
まさか…そんなの偶然?
これはちょっと関連性があると考えてもいいんじゃないかな?
それにしても、佐久間さんが後輩想いってトコも意外だったな。
ようやくビデオの許可が下りたので早速見ることにした。
テレビにセットしてビデオを再生すると、映ったのは今とはどこか違う佐久間さんと富永くん。
よーいスタート、という佐久間さんの声と同時に撮影が始まった。
男性用スーツを着ている朝吹さん、OLのようなスーツを着ている…小椋さん?
撮影は進んでいき、カメラやレフ板が2人が歩くスピードと同じに進む。
台詞を淡々と言う朝吹さん。
すると突然「あ、」と言って撮影が止まった。
きっと台詞を間違えたんだろう…そんな違和感はなかったんだけど。
その瞬間緊張感は消え去り、みんなの顔に笑顔が生まれた。
亀田くんは遠いアングルから撮っていたカメラにアップで映りこんできた。
「亀田くんも昔はみんなと仲良かったんだ」
「小椋絵美菜、亀田純也、朝吹麻耶…事件の被害者は皆、同じ映画研究部だったなんてなぁ…」
テレビでは佐久間さんがメガホンで亀田くんをポンポン叩いていた。
それで笑うみんな。本当に仲が良かったように思う。
「でも…これで容疑者が絞れてきたよ」
「え?」
『ほ、ほんと?』
「浅い人間関係で、計画的殺人が起こるのは、金銭がらみ以外で考えられない。
殺された朝吹さんが素直に部屋に招き入れたことから考えても、中学時代から親交があった
彼らが容疑者になる可能性が高い」
『え、てことは』
「まさか、この仲良さそうな中にコレクターがいるってゆーの?」
の瞬間、キンタの携帯が鳴りだした。
キンタは着信に出る…数馬のテレビ電話だ。
「おう、数馬」
「今、渋沢学院のサーバーを調べてるんだけど…ここ半年ぐらいのログが残ってた。
…で、殺された例の亀田純也って人の書き込みを追っかけてたんだけど、
なんかこの人、ヤバいことしててさ」
「ヤバいこと?」
「渋沢学院のサイトに映画愛好者の掲示板があるんだけど…
亀田って人…、1人で20人近いハンドルネームを使って、
1人の人間を袋叩きにしてたんだ」
「まぁ、ぢかよぉ…」
『ひっどいね』
「詳しいやり取りはメールに添付して送ったから」
アタシ達はすぐにパソコンを開き、渋沢学院のサイトの映画愛好者の掲示板を見た。
パッと見、普通の掲示板に見えるだろう書き込みには、相当なコトが書いてあった。
殺る、喧嘩、死ね、…そんな言葉が平然と並んでいる掲示板には寒気がした。
それに、これが全て亀田くん1人によってつくられたものだとすると…。
「これに書き込んでる人、全員亀田くんなの?」
「中傷されてるのが…このアニメっていうハンドルネームの人物だったらしいな」
リュウが次々と画面をスクロールさせていく。
次々と中傷が酷くなってきているような気がする…
「見ろよ、これ」
リュウが呟いた。
アタシ達は従ってリュウが刺すであろうものを見る。
『…えっ』
そこにはアニメさんの書き込んだもので、【自殺します】と書かれていた。
「嘘…たかがネットの中のいじめで、自殺なんて…」
「このアニメって名前…」
リュウが何かに気がついたみたい。
「アナグラムだっ」
「アナグラムって、文字を並べ替えるやつ?」
『嘘、アニメなんて並べ替えても…あっ、ローマ字っ』
「そう、こうしてアニメをローマ字変換にして逆から読むと…」
パソコンにはローマ字で打ち込まれたANIME。
そしてリュウが逆から打ったANIMEは……EMINAになった。
「えみな…」
『嘘っ、』
「小椋絵美菜っ!!」
「じゃぁ、亀田くんが20人近くのハンドルネームを使ってイジメていたのは、
失踪した小椋絵美菜さんだったの?!」
『嘘、何それ』
「どうやら、動機も見えてきたなぁ…」
キンタが怪しげに言う。
だって、亀田くんがこのハンドルネームがアナグラムだって知っていたら、
明らかに自分より成績の良かった小椋さんをいじめるだろう。
「ねぇ、リュウ、さっきビデオに映ってた人達を集めて上映会やってみない?」
『キュウ…??』
「おもしろそうだねぇ…」
キュウもリュウもいつになくノリ気だ。
リュウの顔がニヤけているのですぐ分かる。
上映会…?何か得ることができるだろうか。
その後、実際にみんなを呼び出し上映会をした。
真っ暗な部屋にスクリーンを下して大画面で見る。
「付属中学の映画研究部かぁ…懐かしいな」
「小椋さん…」
そう呟いた遠矢さんの声がすごく淋しく聞こえた。
「心が痛むねぇ~、この笑顔見るとキュンってなる、キュンって」
佐久間さんのキュンは尋常じゃないほど可愛かった。
もう語尾にハートは付きまくってる。
アタシはちょっと口が笑ってるみたいで、リュウにすぐ気付かれた。
「なーに、笑ってんの」
『別にっ、笑ってないよ』
「嘘つくなよ」
『なっ、なんでもないよっ』
「じゃぁー、後でしつこく聞くからっ」
リュウはちょっと笑ってまたスクリーンに顔を戻した。
しつこく聞くって…そんなコト言われても…。
「佐久間さん…」
キュウが話しかける。
「小椋さんにフラれたって本当ですか」
すると、前を向いていた佐久間さんがぐりんと顔をキュウに向け、
「はっきり言うね」
と少し動揺していた。
何回か小刻みに頷いたかと思うと、ダラッと座っていたイスを座りなおした。
「彼女ねぇー、【好きな人がいるのーっ】って。
まぁ俺みたいな変態最初から無理って分かってたけどねっ」
「なんかずいぶんサバサバしてますね」
メグが冷たい視線で佐久間さんに問いかけた。
「そう見えるでしょぉ?でもお腹ン中どろどろっ」
せ、切ない。
わざわざ聞いたメグって一体…?笑
「何か、みんな仲よさそうだね」
「今じゃロクに口も利かなくなってるもんな」
「どうして、みんなこんなバラバラになっちゃったんだろ」
「仕方ないよ、ウチの学校受験校だし。友達はみんな成績を争うライバルなんだから」
――友達はみんな成績を争うライバル…
アタシはその言葉に少し引っ掛かった。
仲間が口を利かなくなった理由に成績を挙げるなんて…ちょっと気になる。
キュウとリュウも同じなのか、少しヒクついていた。
「あの頃は楽しかったなぁ…
私達が作った映画を佐久間先輩のお父さんが経営してる小さな映画館で上映してもらったり…。
映画の美術をやってた冨永くんのお父さんに小道具を色々分けてもらったり…」
遠矢さんが懐かしむように淡々としゃべっていた。
「もうよそーぜ……そんなことより、事件のコト考えよう」
冨永くんは遠矢さんの話を遮り、事件に話をすりかえた。
すると佐久間さんはイスの背もたれに首を乗せて、後ろに顔を持ってきた。
「まぁ、彼らのおかげでアリバイ解けたしね」
アタシはそこで今まで以上にリュウの目つきが変わったのに気づいた。
「まさか、ビデオに映ってた時計が30分進めてあったなんてね」
「あと、アラームの針の時間が朝の9時じゃなくて、夜の9時だっていうのもっ!」
「目覚まし時計ってゆーくらいだから、朝だと思うよなぁ」
……何だ、この不自然な会話…。
どこかおかしいんじゃないのかな。
「そっかぁー、事件は8時半に起きてたのかぁ」
佐久間さんが大声を出して言った時、
リュウとキュウは目が合っていた、…きっと何か分かったんだ。
―――上映が終わった。
部屋を明るくし、イスを片付ける。
「なぁーんか、いまいち反応無かったな」
「結局空振りかぁ…」
『でもあの3人話してるとき、懐かしそうだったよね』
「んまっ、今日は新しく得た情報無しっ…と」
「そうでもないよっ!!!」
キュウが高らかに言い放った。
「……分かっちゃった」
「え?」
「え?」
『分かった、って…犯人?!』
「あのビデオを検証されるのは、やっぱり相当なプレッシャーだったみたいだ」
「リュウも分かったのか?」
「ねぇ、誰?犯人誰よ、教えてよ」
アタシは考えてた。
さっきの上映会で誰かボロが出た人がいるってコトだよね…。
3人の言った言葉を辿ると…
―――あ!!!そうか、だからあの時違和感を感じたんだ!!!
それからアタシ達は移動して、朝吹さんが録画していたビデオの検証に入った。
さっきと同じように部屋を暗くして、イスを出す。
すると、キュウが早送りを押した。
それを黙って見るアタシ達。
そうだよ、あのことは、今初めて分かるコトなのに…あの人は知っていた。
「キュウ、ストップ!!」
リュウが言う。
止まった画面には朝吹さんが撮りたかったであろう映画のタイトルが映し出されている。
ビデオの撮り始めから、映画が始まるまでの時間を計ったのである。
アタシ達はキュウのいる上映室のような場所へ向かった。
そこに表示されていたのは…「ジャスト30分」…ほらね。
「決まりだな」
「うん」
『これは、今初めて分かったこと』
「梓紗も気づいた?」
『うん』
「え、もしかしてあの人が犯人…?」
「ああ」
「そうか…あとは亀田殺しのアリバイを崩すだけか…」
キュウは深く頷いた。
アタシ達は許可が下りるまで、校舎の中庭で少し雑談をすることに。
「みんなには借りができたな」
佐久間さんがアタシ達をカメラで収めながら、後ろ向きで歩いている。
「あ、僕達はただ、アリバイトリックを解いただけですから」
キュウもメグも映りたがりみたいで、カメラのレンズを覗き込んでいる。
アタシは専ら興味はないがカメラを向けられたので、微笑を浮かべてみる。
「あなたが事件にかかわってる可能性はまだ0じゃない」
「ホントは昨日の夜、どこにいたんだよ」
「…実はさ、ホラー映画のファンサイトで知り合った奴からメールが来て、
カルトビデオ譲ってくれるっていうから、近くの公園で待ち合わせしてたんだよ」
『それでビデオはもらえたんですか?』
「でもさぁ…そいつ、待ち合わせ時間になっても、来ないの!!!」
「すっぽかされた、ってこと?」
「うんっ!!」
佐久間さんは大きく首を縦に振り、強く肯定した。
ちょっと可愛いって思ってしまった…不覚だ。
「…お前そんな言い訳通用すると思ってんのかよ」
「通用しないと思ったから黙秘してたんだろ」
佐久間さんはキンタの問いかけに間一髪と答えた。
それはそうだ。
「第一俺がいくらヤバい人間だからって、映画研究部の可愛いーぃ後輩を殺すわけがないっ」
「映画研究部の後輩?」
「うん」
あ、まただ。
佐久間さんの「うん」って、ちょっと可愛い…。
そしたらリュウに何か感づかれたのか「どうしたの?」って怪しい笑顔で言われた。
「えっ、いや、別にぃ?」
「あの2人、同じ付属中学の出身で映画研究の仲間なんだ」
「本当ですか!?」
キュウがすかさず聞く。
「うん。亀田や朝吹だけじゃなく、冨永や遠矢、それから失踪した小椋絵美菜もみぃーんな仲間」
まさか…そんなの偶然?
これはちょっと関連性があると考えてもいいんじゃないかな?
それにしても、佐久間さんが後輩想いってトコも意外だったな。
ようやくビデオの許可が下りたので早速見ることにした。
テレビにセットしてビデオを再生すると、映ったのは今とはどこか違う佐久間さんと富永くん。
よーいスタート、という佐久間さんの声と同時に撮影が始まった。
男性用スーツを着ている朝吹さん、OLのようなスーツを着ている…小椋さん?
撮影は進んでいき、カメラやレフ板が2人が歩くスピードと同じに進む。
台詞を淡々と言う朝吹さん。
すると突然「あ、」と言って撮影が止まった。
きっと台詞を間違えたんだろう…そんな違和感はなかったんだけど。
その瞬間緊張感は消え去り、みんなの顔に笑顔が生まれた。
亀田くんは遠いアングルから撮っていたカメラにアップで映りこんできた。
「亀田くんも昔はみんなと仲良かったんだ」
「小椋絵美菜、亀田純也、朝吹麻耶…事件の被害者は皆、同じ映画研究部だったなんてなぁ…」
テレビでは佐久間さんがメガホンで亀田くんをポンポン叩いていた。
それで笑うみんな。本当に仲が良かったように思う。
「でも…これで容疑者が絞れてきたよ」
「え?」
『ほ、ほんと?』
「浅い人間関係で、計画的殺人が起こるのは、金銭がらみ以外で考えられない。
殺された朝吹さんが素直に部屋に招き入れたことから考えても、中学時代から親交があった
彼らが容疑者になる可能性が高い」
『え、てことは』
「まさか、この仲良さそうな中にコレクターがいるってゆーの?」
の瞬間、キンタの携帯が鳴りだした。
キンタは着信に出る…数馬のテレビ電話だ。
「おう、数馬」
「今、渋沢学院のサーバーを調べてるんだけど…ここ半年ぐらいのログが残ってた。
…で、殺された例の亀田純也って人の書き込みを追っかけてたんだけど、
なんかこの人、ヤバいことしててさ」
「ヤバいこと?」
「渋沢学院のサイトに映画愛好者の掲示板があるんだけど…
亀田って人…、1人で20人近いハンドルネームを使って、
1人の人間を袋叩きにしてたんだ」
「まぁ、ぢかよぉ…」
『ひっどいね』
「詳しいやり取りはメールに添付して送ったから」
アタシ達はすぐにパソコンを開き、渋沢学院のサイトの映画愛好者の掲示板を見た。
パッと見、普通の掲示板に見えるだろう書き込みには、相当なコトが書いてあった。
殺る、喧嘩、死ね、…そんな言葉が平然と並んでいる掲示板には寒気がした。
それに、これが全て亀田くん1人によってつくられたものだとすると…。
「これに書き込んでる人、全員亀田くんなの?」
「中傷されてるのが…このアニメっていうハンドルネームの人物だったらしいな」
リュウが次々と画面をスクロールさせていく。
次々と中傷が酷くなってきているような気がする…
「見ろよ、これ」
リュウが呟いた。
アタシ達は従ってリュウが刺すであろうものを見る。
『…えっ』
そこにはアニメさんの書き込んだもので、【自殺します】と書かれていた。
「嘘…たかがネットの中のいじめで、自殺なんて…」
「このアニメって名前…」
リュウが何かに気がついたみたい。
「アナグラムだっ」
「アナグラムって、文字を並べ替えるやつ?」
『嘘、アニメなんて並べ替えても…あっ、ローマ字っ』
「そう、こうしてアニメをローマ字変換にして逆から読むと…」
パソコンにはローマ字で打ち込まれたANIME。
そしてリュウが逆から打ったANIMEは……EMINAになった。
「えみな…」
『嘘っ、』
「小椋絵美菜っ!!」
「じゃぁ、亀田くんが20人近くのハンドルネームを使ってイジメていたのは、
失踪した小椋絵美菜さんだったの?!」
『嘘、何それ』
「どうやら、動機も見えてきたなぁ…」
キンタが怪しげに言う。
だって、亀田くんがこのハンドルネームがアナグラムだって知っていたら、
明らかに自分より成績の良かった小椋さんをいじめるだろう。
「ねぇ、リュウ、さっきビデオに映ってた人達を集めて上映会やってみない?」
『キュウ…??』
「おもしろそうだねぇ…」
キュウもリュウもいつになくノリ気だ。
リュウの顔がニヤけているのですぐ分かる。
上映会…?何か得ることができるだろうか。
その後、実際にみんなを呼び出し上映会をした。
真っ暗な部屋にスクリーンを下して大画面で見る。
「付属中学の映画研究部かぁ…懐かしいな」
「小椋さん…」
そう呟いた遠矢さんの声がすごく淋しく聞こえた。
「心が痛むねぇ~、この笑顔見るとキュンってなる、キュンって」
佐久間さんのキュンは尋常じゃないほど可愛かった。
もう語尾にハートは付きまくってる。
アタシはちょっと口が笑ってるみたいで、リュウにすぐ気付かれた。
「なーに、笑ってんの」
『別にっ、笑ってないよ』
「嘘つくなよ」
『なっ、なんでもないよっ』
「じゃぁー、後でしつこく聞くからっ」
リュウはちょっと笑ってまたスクリーンに顔を戻した。
しつこく聞くって…そんなコト言われても…。
「佐久間さん…」
キュウが話しかける。
「小椋さんにフラれたって本当ですか」
すると、前を向いていた佐久間さんがぐりんと顔をキュウに向け、
「はっきり言うね」
と少し動揺していた。
何回か小刻みに頷いたかと思うと、ダラッと座っていたイスを座りなおした。
「彼女ねぇー、【好きな人がいるのーっ】って。
まぁ俺みたいな変態最初から無理って分かってたけどねっ」
「なんかずいぶんサバサバしてますね」
メグが冷たい視線で佐久間さんに問いかけた。
「そう見えるでしょぉ?でもお腹ン中どろどろっ」
せ、切ない。
わざわざ聞いたメグって一体…?笑
「何か、みんな仲よさそうだね」
「今じゃロクに口も利かなくなってるもんな」
「どうして、みんなこんなバラバラになっちゃったんだろ」
「仕方ないよ、ウチの学校受験校だし。友達はみんな成績を争うライバルなんだから」
――友達はみんな成績を争うライバル…
アタシはその言葉に少し引っ掛かった。
仲間が口を利かなくなった理由に成績を挙げるなんて…ちょっと気になる。
キュウとリュウも同じなのか、少しヒクついていた。
「あの頃は楽しかったなぁ…
私達が作った映画を佐久間先輩のお父さんが経営してる小さな映画館で上映してもらったり…。
映画の美術をやってた冨永くんのお父さんに小道具を色々分けてもらったり…」
遠矢さんが懐かしむように淡々としゃべっていた。
「もうよそーぜ……そんなことより、事件のコト考えよう」
冨永くんは遠矢さんの話を遮り、事件に話をすりかえた。
すると佐久間さんはイスの背もたれに首を乗せて、後ろに顔を持ってきた。
「まぁ、彼らのおかげでアリバイ解けたしね」
アタシはそこで今まで以上にリュウの目つきが変わったのに気づいた。
「まさか、ビデオに映ってた時計が30分進めてあったなんてね」
「あと、アラームの針の時間が朝の9時じゃなくて、夜の9時だっていうのもっ!」
「目覚まし時計ってゆーくらいだから、朝だと思うよなぁ」
……何だ、この不自然な会話…。
どこかおかしいんじゃないのかな。
「そっかぁー、事件は8時半に起きてたのかぁ」
佐久間さんが大声を出して言った時、
リュウとキュウは目が合っていた、…きっと何か分かったんだ。
―――上映が終わった。
部屋を明るくし、イスを片付ける。
「なぁーんか、いまいち反応無かったな」
「結局空振りかぁ…」
『でもあの3人話してるとき、懐かしそうだったよね』
「んまっ、今日は新しく得た情報無しっ…と」
「そうでもないよっ!!!」
キュウが高らかに言い放った。
「……分かっちゃった」
「え?」
「え?」
『分かった、って…犯人?!』
「あのビデオを検証されるのは、やっぱり相当なプレッシャーだったみたいだ」
「リュウも分かったのか?」
「ねぇ、誰?犯人誰よ、教えてよ」
アタシは考えてた。
さっきの上映会で誰かボロが出た人がいるってコトだよね…。
3人の言った言葉を辿ると…
―――あ!!!そうか、だからあの時違和感を感じたんだ!!!
それからアタシ達は移動して、朝吹さんが録画していたビデオの検証に入った。
さっきと同じように部屋を暗くして、イスを出す。
すると、キュウが早送りを押した。
それを黙って見るアタシ達。
そうだよ、あのことは、今初めて分かるコトなのに…あの人は知っていた。
「キュウ、ストップ!!」
リュウが言う。
止まった画面には朝吹さんが撮りたかったであろう映画のタイトルが映し出されている。
ビデオの撮り始めから、映画が始まるまでの時間を計ったのである。
アタシ達はキュウのいる上映室のような場所へ向かった。
そこに表示されていたのは…「ジャスト30分」…ほらね。
「決まりだな」
「うん」
『これは、今初めて分かったこと』
「梓紗も気づいた?」
『うん』
「え、もしかしてあの人が犯人…?」
「ああ」
「そうか…あとは亀田殺しのアリバイを崩すだけか…」
キュウは深く頷いた。